4 / 176
Mission 1*最悪の再会
4
しおりを挟む
「なぁ」
「なに?」
「お前、ここに来る前は何してたんだ?」
圭がマウスをクリックする音が聞こえる。
「派遣」
「はあっ? お前が派遣?」
私は静かにディスクを元の場所に戻した。
「そんなに驚く?」
「お前、頭良かったじゃん」
人付き合いが苦手な私は、クラスメイトが遊んでいる間もひたすら勉強していた。お陰で、成績は常にトップだった。
「面接、苦手で」
「ああ、納得」
私は報告書のファイルを棚に戻し、二年前の別ファイルを取り出した。
同じ基データを使っているなら、他にも数字の違う資料があるかもしれない。
私はその場でファイルを開いた。
「どうしてSIINAに入った?」
「社長に誘われたの」
「ふぅん……」
数字の違いは見つからないが、報告書の作成日時が気になった。どの報告書も月末日に作成されている。なのに、さっきの報告書だけ二日早かった。
データが改ざんされていると仮定して、あの報告書だけは予定外に早く作成されてしまったから数字が変わった……?
突然、背後に気配を感じて、私はビクッと肩をすくめた。圭が頭の上からファイルを覗いていた。
「びっくりさせないでよ……」
「集中しすぎなんだよ」
私はファイルを閉じて、棚に戻した。
「そんなに複雑なのか? その年度のデータ」
「え……?」
背後から圭の両腕が伸びてきて、棚に掌を押し付けた。私は棚と圭に挟まれて、身動きが取れなくなってしまった。
「な……なに?」
「んーーー? 壁ドン? 違う、棚ドン」
耳元に圭の息がかかり、鼓動が速度を上げた。
「なんで?」
「……なんとなく?」
圭は昔から、私をからかう。
からかわれているだけだとわかっているのに、動揺してしまう自分が情けなかった。
いつまでも純情《うぶ》な私じゃないんだから!
「離れて」
私が強い口調で言うと、圭の手が引っ込んだ。と、同時に、背筋が伸びた。
「あんなに集中して、肩凝らね?」
圭の両手が私の肩に触れる。指先に力が込められる。
「やぁん!」
甲高い自分の声に驚いた。慌てて手で口を塞ぐ。
圭も驚いたようで、私の肩から手を離した。
「なんつー声出すんだよ」
「肩、弱いの知ってるくせに――」と、言いかけて、私は口を閉じた。
『肩、弱いんだ――』
初めてシた時の、圭の熱っぽい視線を思い出し、私の身体は火照りだした。
「うん、知ってる……」
圭の腕が私の腰に触れる。
「ここも弱いんだよな」
「ん――っ」
私は咄嗟に唇を噛んだ。
「あとは――」
圭の手が私の内股に下がり、首筋に彼の唇の温もりを感じた。
「やめて!」
私は慌てて圭を突き飛ばした。
「ふざけすぎっ!」
私は圭を思いきり睨みつけた。動揺を悟られないように。
圭は悪びれもせず、私をじっと見た。彼の手が伸びてきて、私は思わず目を閉じてうつむいた。
「唇、噛み痕ついてる」
圭の指が私の唇に触れ、次にグイッと顎を引き上げられた。
「――――!」
抵抗する間もなく、圭の唇が私の唇に触れた。
慌てて圭の身体を引き離そうと力いっぱい彼を押してみても、びくともしない。
彼の唇が開くのを感じて、私は唇をきつく閉じた。圭の舌が私の唇をくすぐる。
これ以上は……ダメ――!
もう一度腕に力を込めて圭を押し退けようとした時、彼の手が脇腹に触れた。
「ひゃっ――」
くすぐったさに声を上げた瞬間を逃さず、圭の舌が私の舌を絡めとる。
「んん――!」
こうなってはもう、逆らえないことはわかっていた。
頭ではダメだとわかっているのに、身体が言うことを聞かない。
私は彼のキスに応え、自ら舌を絡ませていた。くちゅくちゅと淫靡な音が資料室に響く。
圭の腕に抱き締められ、さらに深く舌を絡めた時、私の眼鏡がずれて落ちた。
私は我に返って、やっと自由になった唇を手の甲で拭った。
私……なにして――。
圭は何もなかったように私の眼鏡を拾い、レンズ越しに私を見た。
「なんで伊達眼鏡?」
私は圭の手から眼鏡を奪い取ると、使っていたPCをシャットアウトした。
「やっぱ俺ら相性いいよな」
『俺たち、相性良くね?』
初めてシた後、圭はそう言って笑った。
「もうっ――、からかうのやめて」
「からかってない」
PCのディスプレイが暗くなるのを見届けた私が資料室を出ようとした時、圭がドアの前に立ちふさがった。
「どけて」
「気持ち良くなかった?」
恥ずかしさで圭を直視できない。
「だから! そうやってからかうの――」
「からかってねーよ!」
私はハッとして、思わず圭を見上げた。圭が声を荒げるのを聞いたのは、二度目だった。こんなに真剣な表情の圭を見るのも、二度目。
「なんで……お前はいつも俺がふざけてると思うんだよ」
「あ……んな風に誘われたら……からかわれてると思うじゃない……。誰にでも……言ってるんだろうって……」
「言ってない」
「え……?」
「俺が誘うのはお前だけだ」
え――――?
圭の背後で靴音が聞こえ、ドアの向こうで止まった。鍵穴に鍵が差し込まれる。ドアが開く前に、圭はデスクに戻った。
「お昼だよ」
秋山さんだった。
「あ、経理の新人くんも一緒だったの? お昼だから休憩入って」
「はい」と、圭はディスプレイから顔を上げずに返事をした。
「古賀さん、野々村さんと西岡さんとパスタ食べに行かない? 席、取ってあるから」
「ありがとうございます」
私は圭の顔を見ずに、資料室を出た。
「なに?」
「お前、ここに来る前は何してたんだ?」
圭がマウスをクリックする音が聞こえる。
「派遣」
「はあっ? お前が派遣?」
私は静かにディスクを元の場所に戻した。
「そんなに驚く?」
「お前、頭良かったじゃん」
人付き合いが苦手な私は、クラスメイトが遊んでいる間もひたすら勉強していた。お陰で、成績は常にトップだった。
「面接、苦手で」
「ああ、納得」
私は報告書のファイルを棚に戻し、二年前の別ファイルを取り出した。
同じ基データを使っているなら、他にも数字の違う資料があるかもしれない。
私はその場でファイルを開いた。
「どうしてSIINAに入った?」
「社長に誘われたの」
「ふぅん……」
数字の違いは見つからないが、報告書の作成日時が気になった。どの報告書も月末日に作成されている。なのに、さっきの報告書だけ二日早かった。
データが改ざんされていると仮定して、あの報告書だけは予定外に早く作成されてしまったから数字が変わった……?
突然、背後に気配を感じて、私はビクッと肩をすくめた。圭が頭の上からファイルを覗いていた。
「びっくりさせないでよ……」
「集中しすぎなんだよ」
私はファイルを閉じて、棚に戻した。
「そんなに複雑なのか? その年度のデータ」
「え……?」
背後から圭の両腕が伸びてきて、棚に掌を押し付けた。私は棚と圭に挟まれて、身動きが取れなくなってしまった。
「な……なに?」
「んーーー? 壁ドン? 違う、棚ドン」
耳元に圭の息がかかり、鼓動が速度を上げた。
「なんで?」
「……なんとなく?」
圭は昔から、私をからかう。
からかわれているだけだとわかっているのに、動揺してしまう自分が情けなかった。
いつまでも純情《うぶ》な私じゃないんだから!
「離れて」
私が強い口調で言うと、圭の手が引っ込んだ。と、同時に、背筋が伸びた。
「あんなに集中して、肩凝らね?」
圭の両手が私の肩に触れる。指先に力が込められる。
「やぁん!」
甲高い自分の声に驚いた。慌てて手で口を塞ぐ。
圭も驚いたようで、私の肩から手を離した。
「なんつー声出すんだよ」
「肩、弱いの知ってるくせに――」と、言いかけて、私は口を閉じた。
『肩、弱いんだ――』
初めてシた時の、圭の熱っぽい視線を思い出し、私の身体は火照りだした。
「うん、知ってる……」
圭の腕が私の腰に触れる。
「ここも弱いんだよな」
「ん――っ」
私は咄嗟に唇を噛んだ。
「あとは――」
圭の手が私の内股に下がり、首筋に彼の唇の温もりを感じた。
「やめて!」
私は慌てて圭を突き飛ばした。
「ふざけすぎっ!」
私は圭を思いきり睨みつけた。動揺を悟られないように。
圭は悪びれもせず、私をじっと見た。彼の手が伸びてきて、私は思わず目を閉じてうつむいた。
「唇、噛み痕ついてる」
圭の指が私の唇に触れ、次にグイッと顎を引き上げられた。
「――――!」
抵抗する間もなく、圭の唇が私の唇に触れた。
慌てて圭の身体を引き離そうと力いっぱい彼を押してみても、びくともしない。
彼の唇が開くのを感じて、私は唇をきつく閉じた。圭の舌が私の唇をくすぐる。
これ以上は……ダメ――!
もう一度腕に力を込めて圭を押し退けようとした時、彼の手が脇腹に触れた。
「ひゃっ――」
くすぐったさに声を上げた瞬間を逃さず、圭の舌が私の舌を絡めとる。
「んん――!」
こうなってはもう、逆らえないことはわかっていた。
頭ではダメだとわかっているのに、身体が言うことを聞かない。
私は彼のキスに応え、自ら舌を絡ませていた。くちゅくちゅと淫靡な音が資料室に響く。
圭の腕に抱き締められ、さらに深く舌を絡めた時、私の眼鏡がずれて落ちた。
私は我に返って、やっと自由になった唇を手の甲で拭った。
私……なにして――。
圭は何もなかったように私の眼鏡を拾い、レンズ越しに私を見た。
「なんで伊達眼鏡?」
私は圭の手から眼鏡を奪い取ると、使っていたPCをシャットアウトした。
「やっぱ俺ら相性いいよな」
『俺たち、相性良くね?』
初めてシた後、圭はそう言って笑った。
「もうっ――、からかうのやめて」
「からかってない」
PCのディスプレイが暗くなるのを見届けた私が資料室を出ようとした時、圭がドアの前に立ちふさがった。
「どけて」
「気持ち良くなかった?」
恥ずかしさで圭を直視できない。
「だから! そうやってからかうの――」
「からかってねーよ!」
私はハッとして、思わず圭を見上げた。圭が声を荒げるのを聞いたのは、二度目だった。こんなに真剣な表情の圭を見るのも、二度目。
「なんで……お前はいつも俺がふざけてると思うんだよ」
「あ……んな風に誘われたら……からかわれてると思うじゃない……。誰にでも……言ってるんだろうって……」
「言ってない」
「え……?」
「俺が誘うのはお前だけだ」
え――――?
圭の背後で靴音が聞こえ、ドアの向こうで止まった。鍵穴に鍵が差し込まれる。ドアが開く前に、圭はデスクに戻った。
「お昼だよ」
秋山さんだった。
「あ、経理の新人くんも一緒だったの? お昼だから休憩入って」
「はい」と、圭はディスプレイから顔を上げずに返事をした。
「古賀さん、野々村さんと西岡さんとパスタ食べに行かない? 席、取ってあるから」
「ありがとうございます」
私は圭の顔を見ずに、資料室を出た。
1
あなたにおすすめの小説
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
嘘コクのゆくえ
キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。
生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。
そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。
アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで……
次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは……
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。
作者は元サヤハピエン主義を掲げております。
アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
恋愛に臆病な28歳のOL椎名澪(しいな みお)は、かつて自分をフッた男性が別の女性と結婚するという噂を聞く。ますます自信を失い落ち込んだ日々を送っていた澪は、仕事で大きなミスを犯してしまう。ことの重大さに動揺する澪の窮地を救ってくれたのは、以前から密かに憧れていた課長の成瀬昇吾(なるせ しょうご)だった。
澪より7歳年上の成瀬は、仕事もできてモテるのに何故か未だに独身で謎の多い人物。澪は自分など相手にされないと遠慮しつつ、仕事を通して一緒に過ごすうちに、成瀬に惹かれる想いを抑えられなくなっていく。けれども社内には、成瀬に関する気になる噂があって・・・。
※ R18描写は後半まで出てきません。「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる