5 / 176
Mission 1*最悪の再会
5
しおりを挟む金曜日。
秋山さんの送別会と、私と圭の歓迎会が催された。
「ホント、古賀さんが来てくれて良かったわ」と、秋山さんは上機嫌でビールを飲んでいた。
「しかも即戦力!」
「ホントよね。五日で完璧に引継ぎを終わらせるとは思ってなかったわ」と、西山さんも頷く。
「いえ、そんな……」
「前は派遣だったって? データ入力とか? タイピングが早くて正確で助かるよ」と、野々村さん。
そうだ……。
程よく手を抜かなきゃ、逆に不自然なんじゃ……。
『業務は通常の三倍は時間をかけてね。一分間で五百字も入力しちゃダメよ』
咲さんにもそう言われていたのに、集中するとついつい指が動いてしまう。
「秋山さん、これまでありがとう」
蓮兄がビールのピッチャーを持って秋山さんに声をかけた。秋山さんの隣に座っていた西山さんが、自分のグラスを持って私の隣に移動する。
「こちらこそお世話になりました」
秋山さんは蓮兄がSIINAを立ち上げた時からの社員で、極秘情報売買に関わっている疑いはなかった。彼女は転勤になったご主人について行って、妊活を始めるのだという。
「いいなぁ、秋山さん。幸せそう……」
西岡さんがポツリと言った。
「古賀ちゃんは彼氏、いるの?」
「えっ?」
「いないなら、今度一緒に合コン行こう」
蓮兄が鋭い目つきで私を見た。
『合コンなんて、身体目的の男ばっかりだから行くな』と、蓮兄はよく言っている。
けれど、SIINAに来る前に咲さんには『社内の人間と良好な関係を築くためにも、ランチや合コンに積極的に参加して』と言われた。
合コンで良好な関係が築けるのだろうか……?
「ぜひ、ご一緒させてください」
私は西山さんに言った。
「奈津! 次の合コンは古賀ちゃんも参加でー!」
西山さんが大きな声で隣のテーブルの三浦さんに言う。
「あ、古賀さんもフリー? うん、行こう行こう!」と、三浦さんが大きな声で返事をする。
三浦さんの隣の圭と目が合った。不機嫌そうにこちらを見ている。
資料室でキスされてから四日。二人きりになることはなかった。
「彼氏が欲しいってより、合コンそのものを楽しんでないか?」
服飾デザイン部の部長・島田さんがピッチャーを持って私の隣に座った。
「どーも。服飾の島田です」
私は人事のデータで彼を見知っているけれど、実際に顔を合わせて言葉を交わすのは初めてだった。
「古賀です」
島田さんは私のグラスにビールを注いだ。
「古賀さん、こいつらに付き合ってると大酒飲みになっちゃうから、気を付けた方がいいよ」
「島田さん! 失礼なこと、言わないでくださいよ」
「そうですよ。私たちは健全に出会いを求めてるんですよ!」
圭の向かいに座っていた女性が、私と島田さんの間に強引に場所を取った。
「島田さんはずーーーっと気楽なお一人様を楽しんだらいいんですよ。私たちはずーーーっと一緒にいてくれる恋人を見つけるんですから」と言って、私の腕に身体を寄せる。
バニラの甘い香りがした。
「はいはい。気楽なおっさんは退散しますよ」と言うと、島田さんは立ち上がった。
「飲み過ぎるなよ」
そう言った島田さんの彼女を見る目が気になった。
あ、この二人……。
「私はメディアデザイン部の久保若葉。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
「私と未希さんと奈津さんは合コン仲間なの。ね、伊織ちゃんて呼んでもいい? 私のことも名前で呼んでね」
「は……い」
「仲良くしよーね! あ、私より先に彼氏が出来ても苛めたりしないから、安心してね」
若菜さんは二十七歳で、二年前にテレビ局の編成局からSIINAに転職してきた。
柔らかいパーマのかかった髪は腰まで長く、小顔で幼く見える彼女にとても似合っていた。
可愛い人だなぁ……。
私にはない女性らしさや愛嬌が、素直に可愛いと思った。
「恋人探しもいいけど、営業も忘れずにね」
いつの間にか、私の正面には蓮兄ではなく副社長が座っていた。
「綾香さんも行きませんか? 合コン」と、若葉さん。
「たまにはいいわね」と、副社長が笑った。
「ダメよ、若葉。綾香さんに根こそぎ持ってかれちゃう」
すかさず、西岡さんが言う。
「あら、人聞きの悪いこと言わないでよ。一番いい男一人でいいわ」
すごい自信……。
副社長は、腰まである黒髪と唇の左下に艶黒子が印象的な美人で、パンツスーツがスタイルの良さを際立たせている。
噂には聞いていたけど、この会社って色々ハードル高い……。
仕事とはいえ、自分がやけに場違いな気がして、私は眼鏡のグリップをグイッと上げた。
1
あなたにおすすめの小説
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
嘘コクのゆくえ
キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。
生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。
そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。
アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで……
次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは……
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。
作者は元サヤハピエン主義を掲げております。
アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
恋愛に臆病な28歳のOL椎名澪(しいな みお)は、かつて自分をフッた男性が別の女性と結婚するという噂を聞く。ますます自信を失い落ち込んだ日々を送っていた澪は、仕事で大きなミスを犯してしまう。ことの重大さに動揺する澪の窮地を救ってくれたのは、以前から密かに憧れていた課長の成瀬昇吾(なるせ しょうご)だった。
澪より7歳年上の成瀬は、仕事もできてモテるのに何故か未だに独身で謎の多い人物。澪は自分など相手にされないと遠慮しつつ、仕事を通して一緒に過ごすうちに、成瀬に惹かれる想いを抑えられなくなっていく。けれども社内には、成瀬に関する気になる噂があって・・・。
※ R18描写は後半まで出てきません。「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる