ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 1*最悪の再会

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 金曜日。

 秋山さんの送別会と、私と圭の歓迎会が催された。

「ホント、古賀さんが来てくれて良かったわ」と、秋山さんは上機嫌でビールを飲んでいた。

「しかも即戦力!」

「ホントよね。五日で完璧に引継ぎを終わらせるとは思ってなかったわ」と、西山さんも頷く。

「いえ、そんな……」

「前は派遣だったって? データ入力とか? タイピングが早くて正確で助かるよ」と、野々村さん。



 そうだ……。

 程よく手を抜かなきゃ、逆に不自然なんじゃ……。



『業務は通常の三倍は時間をかけてね。一分間で五百字も入力しちゃダメよ』

 咲さんにもそう言われていたのに、集中するとついつい指が動いてしまう。

「秋山さん、これまでありがとう」

 蓮兄がビールのピッチャーを持って秋山さんに声をかけた。秋山さんの隣に座っていた西山さんが、自分のグラスを持って私の隣に移動する。

「こちらこそお世話になりました」

 秋山さんは蓮兄がSIINAを立ち上げた時からの社員で、極秘情報売買に関わっている疑いはなかった。彼女は転勤になったご主人について行って、妊活を始めるのだという。

「いいなぁ、秋山さん。幸せそう……」

 西岡さんがポツリと言った。

「古賀ちゃんは彼氏、いるの?」

「えっ?」

「いないなら、今度一緒に合コン行こう」

 蓮兄が鋭い目つきで私を見た。

『合コンなんて、身体目的の男ばっかりだから行くな』と、蓮兄はよく言っている。

 けれど、SIINAに来る前に咲さんには『社内の人間と良好な関係を築くためにも、ランチや合コンに積極的に参加して』と言われた。



 合コンで良好な関係が築けるのだろうか……?



「ぜひ、ご一緒させてください」

 私は西山さんに言った。

「奈津! 次の合コンは古賀ちゃんも参加でー!」

 西山さんが大きな声で隣のテーブルの三浦さんに言う。

「あ、古賀さんもフリー? うん、行こう行こう!」と、三浦さんが大きな声で返事をする。

 三浦さんの隣の圭と目が合った。不機嫌そうにこちらを見ている。

 資料室でキスされてから四日。二人きりになることはなかった。

「彼氏が欲しいってより、合コンそのものを楽しんでないか?」

 服飾デザイン部の部長・島田しまださんがピッチャーを持って私の隣に座った。

「どーも。服飾の島田です」

 私は人事のデータで彼を見知っているけれど、実際に顔を合わせて言葉を交わすのは初めてだった。

「古賀です」

 島田さんは私のグラスにビールを注いだ。

「古賀さん、こいつらに付き合ってると大酒飲みになっちゃうから、気を付けた方がいいよ」

「島田さん! 失礼なこと、言わないでくださいよ」

「そうですよ。私たちは健全に出会いを求めてるんですよ!」

 圭の向かいに座っていた女性が、私と島田さんの間に強引に場所を取った。

「島田さんはずーーーっと気楽なお一人様を楽しんだらいいんですよ。私たちはずーーーっと一緒にいてくれる恋人を見つけるんですから」と言って、私の腕に身体を寄せる。

 バニラの甘い香りがした。

「はいはい。気楽なおっさんは退散しますよ」と言うと、島田さんは立ち上がった。

「飲み過ぎるなよ」

 そう言った島田さんの彼女を見る目が気になった。



 あ、この二人……。



「私はメディアデザイン部の久保若葉くぼわかば。よろしくね」

「はい。よろしくお願いします」

「私と未希さんと奈津さんは合コン仲間なの。ね、伊織ちゃんて呼んでもいい? 私のことも名前で呼んでね」

「は……い」

「仲良くしよーね! あ、私より先に彼氏が出来ても苛めたりしないから、安心してね」

 若菜さんは二十七歳で、二年前にテレビ局の編成局からSIINAに転職してきた。

 柔らかいパーマのかかった髪は腰まで長く、小顔で幼く見える彼女にとても似合っていた。



 可愛い人だなぁ……。



 私にはない女性らしさや愛嬌が、素直に可愛いと思った。

「恋人探しもいいけど、営業も忘れずにね」

 いつの間にか、私の正面には蓮兄ではなく副社長が座っていた。

「綾香さんも行きませんか? 合コン」と、若葉さん。

「たまにはいいわね」と、副社長が笑った。

「ダメよ、若葉。綾香さんに根こそぎ持ってかれちゃう」

 すかさず、西岡さんが言う。

「あら、人聞きの悪いこと言わないでよ。一番いい男一人でいいわ」



 すごい自信……。



 副社長は、腰まである黒髪と唇の左下に艶黒子が印象的な美人で、パンツスーツがスタイルの良さを際立たせている。



 噂には聞いていたけど、この会社って色々ハードル高い……。



 仕事とはいえ、自分がやけに場違いな気がして、私は眼鏡のグリップをグイッと上げた。
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