ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 5*探り合い

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「俺もあの家で暮らしてたら、お前の幼馴染になってたんだろうな」と言いながら、蓮兄が栓を抜く。

「本当なんですか?」

 蓮兄に勧められて、圭もビールに手を伸ばす。

「本当だよ。正真正銘、俺と伊織は両親とも同じ兄妹。けど、お前が知らなくても無理はないんだよ。伊織でさえ、十歳くらいまで俺の存在を知らなかったんだから」

 蓮兄と圭が私の部屋で、ビールを片手に話をする姿に、涙が滲んだ。

 私が何よりも大切に想う二人が親しくなってくれるのは、嬉しい。その反面、この幸せがいつまで続くのか、不安にもなる。

 蓮兄と綾香さんが恋人同士なのは知っていた。長く付き合っているのに結婚しないのが、半分は私のせいだということも。

『お前の花嫁姿を見れたら、俺も結婚に希望を持てるかな……』

 二年ほど前、蓮兄がそう言った。

『逆だよ。蓮兄が結婚の素晴らしさを見せてくれたら、私も結婚したいと思えるんだよ……』

 私は答えた。

 お互いに言葉にはしなくても、結婚と幸せがイコールではないと思っている。それは偏に、両親が婚姻届と離婚届けを書いてきた枚数が原因。

 私が把握しているだけで、父親は六回、母親は五回、結婚し、離婚している。現在は籍を入れずに一緒に暮らしているが、四度目の復縁。

 私は両親のように、何度も人を愛せる自信はない。

 だからと言って、誰も愛さずに一人で生きられるほど強くもない。

「で? 何で俺は蓮さんの存在を隠されてたわけ?」

 私がカレーとサラダを装っている間に、圭は蓮兄を『蓮さん』と呼ぶようになっていた。

「隠してないよ? 言うきっかけがなかっただけ」

「お前……」と言いかけて、圭は口をつぐんだ。

 圭は私が圭に何か目的があってSIINAに来たことを蓮兄に話していないこと、蓮兄は私の正体を圭に話していないことを察してくれて、食事の間は他愛のない会話だけだった。

「じゃ、俺はそろそろ帰るよ」

 食事を終えるなり、蓮兄が立ち上がった。

「芹沢、ベタなこと聞くけど、伊織とのことは真剣なんだろうな?」

「はい」と、圭は即答した。

「そっか。じゃ、また飲もうな」

 圭の後ろで涙を堪えている私に微笑んで、蓮兄は帰って行った。

「何、泣いてんだよ?」

 玄関の鍵を掛けて振り返った圭が、私の顔を覗き込む。

「ちがっ――」

 私は手の甲で涙を拭い、食器をシンクに運んだ。スポンジに洗剤をつける。背中に圭の気配を感じても、振り返ることが出来なかった。



 涙が……止まらない――。



「お前、俺が蓮さんに妬いてるの面白がってただろ」

 耳に圭の息がかかる。身体が熱を帯びる。

「面白がってなんか――」

「じゃあ、何で言わなかったんだよ」

「それは――」

 圭の腕が伸びてきて、私の身体に絡みつく。食事の支度をするために髪を上げてクリップで留めていたから、圭の息がうなじにかかってくすぐったい。それを知ってか、彼がうなじに唇を押し付けてきた。痛みを感じるほど、強く。

「ちょ――! やだっ」

「何が?」

 唇が離れる時、圭の舌が触れた。背中の中心を指でなぞられたように、ぞくぞくする。

「痕、つけたでしょ」

「髪上げてるの、なんかエロい」

「はっ? どこが――」

 腰が微かに圧迫されて、圭が欲情していることに気がついた。

「圭……、私洗いものして昼間の解析するから……」

「うん」と言いながら、圭が私の耳たぶを咥える。

「いいよ」

 腰に当たるモノが、徐々に大きく固くなっていく。

「じゃ……離れて」

「やだ」



 やだって……。



「圭!」

 手が泡だらけな上に、圭の腕で身動きの取れない私は、彼の足を思いっきり踏みつけた。

「――って!」

 圭が私から離れ、蹲る。

 私は水を出して、食器の泡を流す。

「ひっでぇ」

「洗い物の最中に変なことするからでしょ」

「ケチ……」

 圭は口を尖らせて、ソファに戻って行った。

「解析ってどのくらい時間かかんの?」

「んーーー、二、三時間てとこかな」

「じゃあ、その間にシャワー浴びていい?」

「どうぞ」

 私は洗い物を済ませ、仕事部屋に籠った。
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