ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 7*秘密

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 圭が資料室に籠っているのは、好都合だった。

 私は終業時間の二時間前に所用で早退し、旧友に会いに行った。

 東大吾あずまだいご

 彼は私の大学時代の唯一ともいえる友人で、悟之さんの研究を手伝っていた。私と悟之さんの関係と因縁を知る、唯一の人間でもある。

 そして、私は彼の秘密を知る数少ない人間。

「よ! 久し振り」

 三年振りに会ったというのに、まるで三か月振りに会ったかのように言った。最後に会った時には肩につかない程度の長さだったサラサラのストレートヘアは、脇の下まで伸びていた。

「久し振り。ごめんね、急に」

「いや? 伊織なら大歓迎。俺こそ時間も場所も指定しちゃって悪いな」

「ううん」

 私は大吾の正面に座った。

 大吾が指定してきたのはファミレスで、彼は一番奥の角の席にいた。

「ちょっと早いけど晩飯、付き合ってよ」と言って、大吾はメニューを広げる。

「こんな時間に?」

「これから仕事なんだよ」

「また、ヤバい仕事? 大丈夫なの?」

「俺の心配してくれるのなんて、伊織くらいだよ。お前は? チョコパフェ奢ってやるよ」と言いながら、大吾はテーブルのボタンを押す。

「ありがと」

 すぐに店員が来て、大吾は三百グラムのロースステーキとシーザーサラダ、チョコレートパフェを注文した。

「伊織、綺麗になったな」

「へ?」

「すげー大人のいい女って感じ。男、出来た?」

「まあね。大吾は? 恋人いるの?」

「いるよ。今は女」と、大吾が笑った。

 大吾は両性愛者バイ。三年前に会った時には、男性と付き合っていた。

「で? 話って?」

「うん……。悟之さんが今、どうしてるか知ってる?」

 大吾は少し驚いていた。

「思い出したくないんじゃなかったのか?」

「そうなんだけど……。ちょっとね。大学を辞めた後、フリーでSEシステムエンジニアやってるって言ってたじゃない? 今も?」

 三年前に大吾に会った時、そう言っていた。

「表向きは」

「表向き?」

「同業者……っていうのかな」

「クラッカー?」

 大吾は腕のいいSEで、クラッカーでもある。

「悟之さんが?」

「噂だけどな。これまた同業者が、悟之さんに仕事を邪魔されたって愚痴ってるのを聞いたんだ」

「どうやって悟之さんだと知ったの?」

「そりゃ――」

 私は大吾の言葉を遮って、言った。

「方法はわかるけど、悟之さんが正体が突き止められるようなヘマをする?」

「人の口に戸は立てられないからな」

「なるほど……」

 料理が運ばれてきて、私はまずパフェのてっぺんのチェリーを口に入れた。大吾がレタスを噛む音が聞こえる。

「伊織、悟之さんには関わらない方がいい」

「え?」

「噂じゃ、彼は依頼を受けているわけじゃないらしい」

「それって……」



 強請り。



「ああ……。かなり危ない橋を渡ってる」

 SIINAの情報売買を裏付けた文具メーカーの社員は、蓮兄に問い詰められてこう言った。

『電話が掛かってきて、SIINAのデザインを買わないか、と言われた』

「けど、どうして今頃悟之さん?」

 ちょっと考え事をしている間に、大吾はステーキを半分もお腹に収めていた。パフェも溶けかけている。

 私はアイスをスプーン山盛りにすくって、口に入れた。冷たくて、甘い。

「彼らしきクラッカーからメッセージを受け取ったの」

「T&Nのセキュリティが破られたのか?!」

 大吾が声を荒げた。彼は、私がT&Nの情報システム部にいたことを知っている。

「違うの。今は出向中」

「だよな。天下のT&Nのセキュリティだ。クラッキングはまず不可能だ。でも、それじゃあ、悟之さんらしきクラッカーは伊織の出向先にわざわざメッセージを送ってきたのか?」

「違うと思う。多分……私が出向する状況を作ったのよ」

「お前の出向先って、SIINAか?」

 私は頷いた。

 大吾は、私の兄がSIINAの社長であることも知っている。

 ようやくスプーンがグラスの下で柔らかくなっているフレークに届いた。

「悟之さん……まだ根にもってるのか――」と言って、大吾は深いため息をついた。

「恋人がいるようだから、吹っ切れてるんだと思ってたけど……」

「恋人?」

「ああ、何度か見かけたんだよ。女と一緒にいるところ。いつも同じ女だったし、マンションに入って行くところや、スーパーで買い物してるところだったから、てっきり一緒に暮らしてるのかと思ってた」



 悟之さんに恋人……。



「けど、恋人がいるなら、元カノに復讐なんてしないよな」

「どうかしら……。私は元カノなんて綺麗な存在モノではなかったし、悟之さんのプライドをズタズタにしたのは確かだから……」

「だとしてもだ! 過去あれは全て悟之さんが悪い! 手伝った俺が言えたことじゃないけど」

 大吾が最期の一切れを口に入れ、フォークを置いた。ナプキンで口を拭く。

「大吾は知らなかったんだもの……」

「ま、な。けど、そんな風に理解して許してくれるのはお前くらいだよ」

「ご馳走様でした」と言って、私もスプーンを置いた。

 大吾がテーブルの隅に置かれているアンケート用紙とボールペンを手に取った。用紙の裏にペンを滑らせる。

「伊織、何か手伝えることがあったら連絡しろよ」と言って、用紙を差し出す。

 大吾のアドレスとパスワード、ハンドルネームなど。これがあれば、私は一分以内に彼のPCを乗っ取ることが出来る。それをわかっていて教えるのは、彼の信頼の証。

「ありがとう。じゃあ、早速お願いしようかしら」

QUEENクイーンの仰せのままに」

 話を終えると、大吾は注文伝票を持って、席を立った。
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