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Mission 9*正体
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しおりを挟む「お揃いですね」
伊織――!?
「やってくれたわね」
奥さんが言った。
「お返しですよ」
珍しく伊織が無表情な上に、敵意むき出しの眼光で目の前の美女を睨みつけた。
どうして伊織が……?
「その様子だと、常務もご存知のようですね」
伊織は常務に歩み寄った。常務は立ち上がり、彼女と向かい合った。
「初めまして。奥さまの第二秘書を務めさせていただいております、古賀伊織と申します」と言って、深々と一礼する。
「築島蒼です。妻がお世話になっております」と、常務が仕事用の笑顔で挨拶した。
「芹沢くんにもお世話になってます、と言った方がいいかな?」
築島咲の第二秘書――?
「いいえ。お世話になっているのは芹沢の方でしょう」
「白々しい挨拶はやめて」
奥さんがカップを二つ、テーブルに運ぶ。後ろではバリスタが三杯目のコーヒーを抽出している。
「第一印象は大事だろう?」と、常務が伊織を見る。
「そうですね」と、伊織も常務を見る。
「修羅場の前に律儀ね。芹沢くんを見てごらんなさいよ」
三人が俺を見た。
自分でもどれだけ間抜け面しているのか、予想もつかない。
とにかく、今の状況を把握しようと思考をフル回転させているが、集中できない。
「とにかく座りましょう」
俺と伊織、常務と奥さんが一緒に座った。
「二人に倣って、一応挨拶させてもらうわ。芹沢くん。いつも主人がお世話になっています。妻の咲です」
「あ、T&N開発経営戦略部主任の芹沢圭です。ご主人にはお世話になっております」
「もう、おわかりだと思うけど、一年ほど前から伊織には私の第二秘書を務めてもらっているの」
「そうみたい……ですね」
チラリと横目で伊織を見る。ゾッとして背筋が伸びた。
常務も奥さんも気づいていないようだが、無表情でコーヒーを飲む伊織は殺気にも似た攻撃的な空気をまとっていた。
「本題に入ってもいいですか?」と、伊織がカップを置いた。
足元のバッグから封筒を出し、奥さんの前に置いた。
退職願?
なんで――!
驚いたのは俺と常務で、奥さんは動じていなかった。
「本気?」と、奥さん。
「あなたの返答次第で」と、伊織。
「質問は?」
「おわかりでしょう?」
穏やかな睨み合いを経て、奥さんがため息をついた。
「誤解よ」
「何がです?」
「何もかも、よ」
殴り合いより怖えーーー……。
女ふたりの緊張感は、男同士のそれとは比べ物にならないほど周りを寄せ付けず、無数の針が飛び交っているようだった。
「妬けるね」と、常務が言った。
「俺と咲はまだテレパシーで会話は出来ない」
「言葉は大切ですよ」と、伊織が低い声で言った。
伊織、本気でキレてる――。
昔、一度だけ見たことがある。伊織が本当に怒ったのを。いつもは穏やかで感情に流されないだけに、かなり衝撃的で恐ろしかったことを覚えている。
あの時はどうしてキレたんだっけ――?
「では、わかるように順を追って状況を把握しないかな? ちゃんと言葉にして。君にも咲にも誤解があるようだしね。俺と芹沢の誤解も解消したいし」
常務の言葉に、奥さんが表情を和らげた。
「そうね」
さすが夫、と感心した。
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