73 / 176
Mission 10*主導権
8
しおりを挟むお風呂に入って、朝食を食べ、ホテルを出たのは昼少し前。
圭は着替えに家に帰り、私は食材を買ってから家に帰った。今日は圭のリクエストでハンバーグ。
家に着くと、スマホが震えた。メッセージを開く。大吾から。
『首尾は?』
『予定通り』
『準備を進める』
『よろしく』
昨夜、大吾の存在を咲さんに明かすべきか迷って、やめた。
私にとっては無二の友人で絶対的な信頼を置けるけれど、世間一般の目からすれば違う。
大吾の就職した会社は、派遣会社。大吾はSEとして色々な会社に出向き、要望通りの仕事をこなす。時には犯罪まがいの仕事も。
クラッキングだ。
目的の情報を盗み、依頼人に渡し、報酬を得る。
いくら大吾が優秀で、どんなに慎重に身を守っていても、咲さんはきっと大吾のしてきたことを調べ上げる。
そう思って、言えなかった。
圭には言っておくべきだよね……?
友人とはいえ男性で、誤解を招くことは避けたい。
ふっと、数時間前のセックスを思い出した。
よりによってあんな体勢でする――?
寸前で、圭は私の膣内から出て行った。昨夜もそうだったらしい。
それにしたって……。
ただでさえ、避妊は完ぺきではない。
赤ちゃんできたら……どうするのよ……。
『相手が俺なら、結婚も子供もありだろ』
圭の言葉を思い出した。
結婚とか……考えてるのかな、圭。
ピンポーン
インターホンが鳴り、ハッとした。
モニターには圭。
「三浦さんから電話があった」
玄関に入るなり、圭が言った。
「何て?」
「大事な話があるから、月曜の朝は三十分早く出社してほしいって」と言いながら、圭は買い物袋を差し出す。
中はビールやサワー。
「大事な話?」
「ああ。お前は咲さんのトコだろ? 俺一人で聞いてくるわ」
「わかった。私もなるべく早く行く」
私は飲み物を冷蔵庫に入れ、冷えたコーラのペットボトルを出した。圭に渡す。
「そういや、Themisのプログラムを書き換えるって、どのくらいかかるんだ?」
「ソースコードを見ないと何とも……」
「ソースコード?」
「プログラムの設計書って言えばわかりやすいかな? コンピューターへの指示書でもいいけど」
「今更だけどさ――」と言って、圭はコーラを一口飲む。
「お前が、咲さんの言う『小賢しい真似』をしたのは、Themisの使用許可を得て、仕事の主導権を取るためだったんだよな?」
「そうね」
「じゃあ、咲さんは『SK』の正体を知らないのか?」
「え――?」
顔を上げると、圭は真剣な表情で私を見ていた。
圭、何か気づいて――?
「『あの時』のお前の反応を見れば、心当たりがあるんだろうってことくらいわかるさ」
『君を待っていたよ。さあ、ゲームを始めよう』
悟之さんからのメッセージ。
「俺に知られたくない相手だってこともな」
「そんな……」
「伊織、今はまだ言えないならそれでもいい。けど、言えない理由が俺との関係を心配してのことなら、その必要はないからな」
「圭……」
悟之さんのことを話してしまおうか……。
ほんの一瞬、迷い、そして、やめた。
「もう少しだけ待って……」
「伊織」
「お願い……」
「わかったよ。ただ、無茶はするなよ」
「ん……」
圭が私のおでこにキスをして、髪をクシャクシャッと乱した。
「ところでさ、織田さんに俺たちのこと話してもいいか?」
「織田さん?」
なんで、圭が織田さんのこと……。
「気に入られちゃったみたいで、よく飲みに誘われるんだよ。彼女がいるとは言ったんだけど、諦めてくんなくて」
織田さんが圭のことを――?
私の頭の中に、一つの策が思い浮かんだ。
けど……。
迷う。
「相手がお前だって言えば、さすがに諦めると思うからさ」
他に方法がある?
時間を掛ければある。
けれど、Themisに取り掛かってしまったら、そんな時間は――。
「伊織?」
圭にそんなことさせたくない。
「どうした?」
だけど……。
「おい?」
織田さんが圭を利用しようとしているのなら――?
「圭」
顔を上げると、危うく圭の顎に頭突きしそうになった。
「織田さんと付き合って――」
1
あなたにおすすめの小説
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました!
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
嘘コクのゆくえ
キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。
生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。
そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。
アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで……
次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは……
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。
作者は元サヤハピエン主義を掲げております。
アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
上司に恋していいですか?
茜色
恋愛
恋愛に臆病な28歳のOL椎名澪(しいな みお)は、かつて自分をフッた男性が別の女性と結婚するという噂を聞く。ますます自信を失い落ち込んだ日々を送っていた澪は、仕事で大きなミスを犯してしまう。ことの重大さに動揺する澪の窮地を救ってくれたのは、以前から密かに憧れていた課長の成瀬昇吾(なるせ しょうご)だった。
澪より7歳年上の成瀬は、仕事もできてモテるのに何故か未だに独身で謎の多い人物。澪は自分など相手にされないと遠慮しつつ、仕事を通して一緒に過ごすうちに、成瀬に惹かれる想いを抑えられなくなっていく。けれども社内には、成瀬に関する気になる噂があって・・・。
※ R18描写は後半まで出てきません。「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。
グリモワールの塔の公爵様【18歳Ver】
屋月 トム伽
恋愛
18歳になり、結婚が近いと思われたプリムローズは、久しぶりに王都の邸にいる婚約者に会いに行っていた。
だけど、義姉クレアと婚約者ジャンのベッドインを目撃してしまい、婚約破棄されてしまったプリムローズ。
プレスコット伯爵家から追い出すための名目で、金持ちの子爵様に売られるも同然の後妻に入ることになったプリムローズ。
そんなある日、夜会で出会ったクライド・レイヴンクロフト次期公爵様から結婚をもうしこまれる。
しかし、クライドにはすでに親の決めた婚約者がおり、第2夫人でいいなら……と、言われる。
後妻に入るよりは、第2夫人のほうがマシかもとか思っていると、約束だ、と頬にキスをされた。
「必ず迎え入れる」と約束をしたのだ。
でも、クライドとのデートの日にプリムローズは来なかった。
約束をすっぽかされたと思ったクライドは、その日から一向にプリムローズと会うことはなかった。
時折出す手紙のやり取り。プリムローズがどうしたいのかわからないクライドは困惑していた。
そして、プレスコット家での現状を知り、クライドはプリムローズをプレスコット伯爵邸から連れ出し、グリモワールの塔に連れて行き……。
最初は、形だけの結婚のつもりかと思っていたのに、公爵様はひどく甘く、独占欲の固まりだった。
※以前投稿してました作品を【18歳Ver】に書き直したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる