続・最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
132 / 231
15 暴れだす感情 

しおりを挟む



 翌日。

 私の足取りは重かった。

 意外にも、私は智也との別れを冷静に受け止めた。

 安全運転で真を迎えに行き、車内ではテストの出来はどうだったとか、話す余裕もあった。家に帰って、ゲームばかりしている亮を叱り、宿題も見た。両親からの温泉土産の饅頭やらクッキーやらも食べた。お風呂に入って、ぐっすり寝た。

 ずっと、心のどこかで別れを意識してきたからか、自分でも意外なほどショックは少なかった。

「おはようございます」

 エレベーターを待っていると、千堂課長と谷主任に会った。

「おはようございます」

 二人に、迷惑をかけたことを謝罪し、三人でエレベーターに乗り込んだ。

「顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」と、千堂課長が言った。

「やっぱり、気が重いですよね」

 昨日は十時には布団に入った。夜中に何度も目が覚めてしまったけれど、寝不足というわけではない。

 あとで鏡を見よう、と思った。

「溝口部長、かなり心配してましたよ」と、谷主任が言った。

「え――?」

「堀藤さんが謹慎になったって知って、俺んとこに電話ありました」



 智也から、谷主任に――?



「実は、前から頼まれてたんですよ。益井課長のことで、堀藤さんに何かあったら連絡くれって」



 そんなこと……。



「俺んとこにも電話来ましたよ。めっちゃ怒られました」と、千堂課長。

「『どうしてこんな騒ぎになるまで放っておいたんだ!』『課長として職務怠慢だ!』って。あの人の怒鳴り声、久し振りに聞きました」

 千堂課長は、ハハハと苦笑いする。

「すいません、ご迷惑をおかけして。公私混同ですよね。本当に、すみません」と、私は二人に頭を下げた。

「いえいえ。ま、気持ちはわかるんで。堀藤さん、溝口部長に益井課長とのこと、言わないんでしょう? 恋人としては気になりますよ」

「そんな……、いい年をして――」

「年なんか関係ないじゃないですか」と、谷主任が言った。

 隣の千堂課長が、うんうん、と相槌を打つ。

「好きな女のことを知りたいとか、守りたいって思うのに、年は関係ないですよ。そこは、素直に喜んで守られてなきゃ」

「そうですよ。俺なんか年下で部下だから、いざとなったら守られちゃうんですよ? 俺だって格好つけたいのに……」と、千堂課長がため息をついた。

「そういうもんですか?」

「そんなもんですよ。男なんて子供ガキなんで、そんな風に格好つけてないとプライド保てないんですよ」

「プライド……ですか」

「そう。自分が必要とされてるって、確認したいんですよ」

『俺はそんなに頼りないか』

 昨日の智也の言葉を思い出す。



 智也も、不安だったのかな……。



 甘え上手な女なら、そんなことは言わせなかったんだろうけれど、残念ながら私はそうじゃない。

 甘え方なんて、すっかり忘れてしまった。

 いや、そもそも、私に甘えるなんてスキルがあったかどうかも疑わしい。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以
恋愛
 インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。  ルールは一つ。  二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。  その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。  だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。  千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。  比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。 【ルーズに愛して】シリーズ ~登場人物~  相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG                 トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任                   有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任                千尋の同僚                結婚四年、別居一年半の妻がいる  谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB              |Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任  桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG               市役所勤務、児童カウンセラー  小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB                 |Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人    小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻                   |Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ  新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB                新田設計事務所副社長                五年前にさなえと結婚  新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG  新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子  亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG               楠行政書士事務所勤務               婚活中  鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務

年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。 そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。 病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。 仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。 シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡ ***************************** ※他サイトでも同タイトルで公開しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

Home, Sweet Home

茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。 亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。 ☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

ヘンタイ好きシリーズ・女子高校生ミコ

hosimure
恋愛
わたしには友達にも親にも言えない秘密があります…。 それは彼氏のこと。 3年前から付き合っている彼氏は実は、ヘンタイなんです!

処理中です...