続・最後の男

深冬 芽以

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20 芯まで蕩けて

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「いや、これは撮るでしょ」

 彩はSNSなんかには疎い。

 行く先々で写真を撮るようなこともない。

 その彩が、食べる前にスマホを向けた。

 鉄板の上で、ミートソースがジュウジュウ言っている。

 こんなに喜ぶなら、もっと早く連れて来てやれば良かった。

「ほら、熱いうちに食おーぜ」

 彩はスマホをバッグにしまい、満面の笑みで座り直した。

「つーか、どうやってシェアするよ」

「崩れちゃうのはしょうがないでしょ」

 彩はフォークでカツを持ち上げると、皿を添えて口に運んだ。

「んーーーっ!」

 熱そう。で、美味そう。

 上唇にミートソースをつけながら、カツを噛み切る。

「美味いか?」

 彩は口元を手で押さえながら、大きく頷いた。

 釧路名物、スパカツ。

 パスタの上にとんかつ、その上にたっぷりのミートソースがかかっている。しかも、それが鉄板に載ってくる。

 俺は釧路に来てすぐに、部下に連れて来られたから、二度目。だが、一年以上前のことだ。

 俺も彩に倣って、カツを口に入れた。

「はぐっ!」

 熱さに思わずおかしな声を上げる俺を見て、彩が笑った。

 カツの下のパスタをフォークに巻き付け、取り皿に運ぶ。カツからこぼれたミートソースを絡め、口に入れた。

 かなりの大口。

 あんまり、恥ずかしげもなくパスタを頬張る彩に、思わず口からカツが飛び出そうになる。

「おいひーっ!」

 三十分も待った甲斐がある。

 彩の乗った便の到着が十一時過ぎで、俺たちは連絡バスで直接スパカツを食べに来た。土曜の昼とあって、店は満席だったが、料理が運ばれてくるのが早いからか、三十分待っただけで席が空いた。

 隣の席で二十代の女が、恋人らしい男に『こんなに食べられなーい』と言っているのを聞いて、彩は一人で食べきってやると息巻いたが、帰って腹痛で寝込まれてはたまらないと、シェアを申し出た。

 で、スパカツとサラダを注文し、お互いに物足りなさを感じるくらいで食べ終えた。

 プロポーズ大作戦の足掛かりとしては、十分な成果を得られたようで、彩は上機嫌で『ご馳走様でした!』と言い残して店を出た。

「今度、真と亮にも食べさせてやろーぜ」

「……うん」

 どことなく覇気のない返事に、俺は彩の顔を覗き込んだ。

「どうした? 子供たち、パスタ嫌いか?」

「ううん? そうだね。食べさせてあげたい」

 そう言って彩は微笑んだが、どこか浮かない表情にも見えた。

「彩?」

 亮はともかく、真ははるばる俺がいる釧路にまで来たがらないだろうか。

 真の怪我以来、真が俺をどう思っているのか、彩と話をしていない。

「別に、無理に連れて来いって言ってるわけじゃ――」

「――え? あ、違うよ? ただ、今の真と亮の食欲は半端ないから、あの量でもペロッと食べきっちゃうんだろうなと思ったら、怖くって」と、ため息をついた。

「育ち盛りだからな。よく食うのはいいことだろ」

「だから! 迂闊に外食なんて出来ないの」

 そんな心配か、とホッとした。

「スパカツくらい、俺が好きなだけ食わしてやるよ」
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