【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

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1.似ていて異なるもの

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相川あいかわ! 三番にプラスホームの松方まつかたさん」

 隣のブースから聞き慣れた声。



 またか。



 私はかえでちゃんに少し待つように言って、自分のデスクに戻った。

「ありがとうございます」と、姿の見えない隣人に礼を言い、受話器を取った。

「お待たせいたしました、相川です」

『プラスホームの松方です』

「お世話になっています。すみません、また間違えてしまったようで」

『いえ。僕もちゃんと言わなかったので』

 本当に、少しも気にしていないような、穏やかな声。

「いつも申し訳ないです」

『気にしないでください。ところで、昨日発注のあったリビングドアの事なんですけど――』

 電話の取次ぎ間違いには、慣れた。

 いや、慣れてはいけないのだけれど。

 ほぼ毎日のように間違えられるので、いちいち間違えた人に注意する気にもならない。

「ではよろしくお願いします。失礼致します」

 受話器を置くと、使用中を示す三番のランプが消えた。

「相川、悪い。設計課うち山田やまだが間違えた」

 またも、隣のブースから声が飛んできた。

「すみません!」と、山田さんの声。

「気を付けてねー」と、私も少し声を張って、パーテーション越しに言葉を返した。

「はい」

 視線を感じて振り返ると、長谷部はせべ課長が苦笑いしていた。

「課長! 笑ってないで隣と番号を分けるように掛け合ってくださいよ!」

「そうしてやりたいのはやまやまなんだけどなぁ。番号変えると取引先に伝える手間もあるしなぁ」と、課長は頬杖をついて気のない返事をした。

「取次ぎ間違いが多いのも、取引先に失礼じゃないですか」

「確かになぁ。けど、この状況がいつまで続くかもわからないしな」

「それって――」

「相川が結婚して名字が変われば、問題解決だろ」

 三度、パーテーション越しに声。

「ハラスメントですよ、有川ありかわさん!」

「はいはい。すんません」

 パーテーションのこっちからもあっちからも笑いが起こる。

 毎日のように繰り返されるこの会話の原因は、名前。

 私、相川あいかわ千尋ちひろは、トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任。

 一方、パーテーションを挟んで隣のブースは、ホームデザイン部設計課。主任はさっきのハラスメント発言をした、有川ありかわ比呂ひろ

 笑っちゃうほど似ている名前だが、私にはまったく笑えない。

 忙しい中で電話を受けると、区別がつかない。更に、うちの会社はフロア毎に電話番号が割り振られていて、私宛の電話を設計課で受けることもあれば、有川主任宛の電話をデザイン部で受けることもある。

 決定的に違うのは、男女であること。

 だから、電話に出た途端に違うとわかる。

 付き合いの長い取引先の場合は、声を聞いただけで『ハズレです』なんて笑われたりする。こういう場合は大抵が、面白がってわざと課を伝えなかったりしているけれど。

 とにかく、この名前のせいで、迷惑をしている。
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