【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
23 / 147
3.仮面夫婦

しおりを挟む
 行動は予測できる。

 俺を懐柔して、婚姻関係を継続させようというのだろう。

 美幸の目がそう言っている。

 案の定、美幸は俺の足の間に膝をつき、肩に手をのせた。

 美幸の長く真っ直ぐな髪が頬に触れた。

 千尋の髪は肩までの長さで、少し畝っている。俺は可愛いと思うが、千尋は毎朝ヘアアイロンで真っ直ぐにしていた。だから、知っているのは俺だけ。

 千尋の髪が畝っているのも、その畝りは柔らかく、俺の指に優しく絡むのも。

 知っているのは、俺だけ。

 千尋を抱き締めたい。

 俺は美幸の手を払い除けた。

「お前の不倫相手は、お前が他の男に抱かれてもなんとも思わないような男なのか?」

「あなたの相手は? 別居中とはいえ、あなたが妻とホテルの同じ部屋に泊まると聞いても、笑顔で送り出してくれたの?」



 美味い冷麺を連想させただけ、なんて言えるか――!



「とにかく――」

「嫌よ」

 美幸はパッと俺から身体を離し、バスローブの足元を整えた。

「離婚はしない」

「なら、不倫のことを――」

「言えば? あなたにやましいことが一つもないなら」と言って、美幸はまたスマホを手にした。

「あなたの不倫が別居前からか後からかなんて、証明できる?」

 胸糞が悪い。

 三十三年の人生で、これほど嫌える女はいない。ある意味、最強だ。

 それが、戸籍上とはいえ『妻』だなんて、三流小説のネタにもならない。

「お前は何がしたいんだ」

「別に?」

「だったら――」

「ただ、ずるいなぁと思うだけ」

「何が」

「私たちが離婚しても、私は本当に好きな人と結婚出来ないのに、あなたはするんでしょ? 不公平じゃない」

 意味がわからない。 

 全く、わからない。

「それはお前の問題だろ。俺には――」

「あなたが私以外の女のものになるのが嫌だと思うくらいには、あなたを愛してるってことよ」

「奇遇だな。俺も愛してるよ。駆け落ちでも何でもして、俺の前から消えて幸せになって欲しいと思うくらいにはな」

 俺はスマホ一つを持って、部屋を出た。

 便利な世の中だ。

 スマホがあれば大抵のことは何でも出来る。

 俺はホテルを出て五分ほど歩き、さっきのホテルの半値以下で泊まれるビジネスホテルにチェックインした。

 さっきの部屋の半分以下の広さでも、美幸がいないという一点だけで、天国だった。

 俺はベッドに身を投げ出し、スマホの充電が七十パーセントなのを確認してから、千尋の番号に発信した。

 時刻は二十二時四十分。

 俺と一緒の時は寝かせる時間じゃないけれど、一人の時はどうだろう。



 ――ってか、一人か?



 美幸に影響されたのか、疑り深くなってしまう。

 五回目の呼出し音コールの後に、気怠そうな千尋の声が聞こえた。

『もしもし?』

「寝てたか?」

『ん……。ソファでうとうとしてた』

 千尋の部屋のソファは座椅子みたいに背が低くて、柔らかい。俺も良く、寝入ってしまいそうになる。

「千尋」

『ん……?』

「千尋」

 んんんーーーっ、と伸びをする声が聞こえた。

「ベッドで寝ろよ。風邪ひくぞ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

小野寺社長のお気に入り

茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。 悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。 ☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。

処理中です...