43 / 147
6.決意
6
しおりを挟む「先方の希望とはいえ、俺は正直気に入らない」
「わかってる。てか、設計以前に無理があるのよ」
「例えば?」
「階段。嫁はリビングダイニングの柱を中心に木の螺旋がいいって言いだしたの」
「はぁ? そんなこと聞いてねーぞ」
「昨日言われたんだもの」
ソファの上の図面では、階段は玄関から見て右手、壁際に直線階段。玄関共有の上下分離タイプは玄関と階段を壁際に持って行くか、中央だとしたら左右に部屋を設けて独立させることが多い。
互いのプライバシーを守るためだ。
だが、嫁の言う螺旋階段を作るとなると、一階の和の雰囲気が壊される。しかも、現在の図面では、二階のリビングダイニングはフロアの中央に位置する。そのまま螺旋階段を作ると、一階のリビングに突き抜けてしまう。
設計の段階で、平然と無理難題を言う嫁に対して、俺も千尋も、不可能なものは不可能だと告げた。
耐震の問題からしても、ギリギリ。
「直進階段の下を収納にするってのはどうしたんだよ」
「ご両親はこの設計に満足頂いているのよ」
「嫁の螺旋案は知らないのか?」
「そうみたい」
「いやいや……」
面倒な客はいるが、ここまで訳の分からないのは珍しい。
「ご両親の階段下収納を諦めてもらって、この図面通りの場所に螺旋階段をって提案もしたんだけど、嫁はリビングに欲しいって言い張っちゃって」
「そりゃ、まずは家族会議からだな」
「だよね……」
それでも、何かいい案はないかと、千尋は夜遅くまで図面とカタログと睨めっこしていたのだろう。
「ねぇ、比呂」
「んー?」
俺は二つ目のそぼろを食べ終え、一緒に買って来たお茶を飲んだ。
「別れても、いい仕事仲間に戻れるね」
ゴクン、とお茶が音を立てて喉を流れた。
「別れたいのか?」
「比呂が離婚するまで、ってルールでしょう?」
平然と別れを口にする千尋の顔を見ていなくて良かった。違う。俺の、顔を見られていなくて良かった。
きっと、酷い顔をしている。
「離婚が成立したら、自由だよ」
聞きたくない。
千尋の口から別れの言葉なんて、聞きたくない。
「妻からも愛人からも自由に――」
「結婚しよう」
背中合わせでよかった。
きっと、泣きそうな顔をしている。
俺が。
「千尋を、愛してる」
震える声で、けれど、ハッキリと言った。
「結婚したい」
「比呂のこと、好きよ」
この言葉は、顔を見て聞きたかった。
千尋の手が、俺の手に重なる。
彼女の指が、俺の左手の薬指をなぞる。
「コレ、してるから」
結局、同じことの繰り返し。
俺の想いは、千尋には届かない――。
俺は振り返って、背後から千尋を抱き締めた。うなじにキスをして、耳朶を舐めて、両手で胸を揉む。
「比呂っ――!」
Tシャツの裾から手を滑り込ませて、乱暴にブラジャーを引き下げ、直接胸に触れた。硬くなった下半身を彼女の尻に押し付け、腰を揺らす。
発情期の犬のようだ。
俺は何も言わなかった。
ただ黙って、千尋の背中を見ていた。
俺に付き押されて揺れる彼女の髪を見ていた。
顔を、見られなくて良かった。
視界が揺らぐのが、汗のせいなのか、別なの何かのせいなのか、俺にもわからなかった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ボクとセンセイの秘密
七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。
タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。
一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。
なので関西弁での会話が多くなります。
ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる