45 / 147
7.彼の本気
1
しおりを挟むわざわざ受付を通して呼び出すのは、牽制だよな……。
たった一言の挨拶で、互いが何者なのかを互いに悟ったと感じたのは、女の勘。
奥さんは、夫の愛人に気付いている――。
十二時少し前になると、受付から比呂に内線が入った。席を外している時は、近くの誰かが受話器を取るから、比呂の奥さんが来ていることはすぐに広まった。楓ちゃんの宣伝効果もあって、部に留まらず、社内の八割の女子社員の知るところになった。
五日間、何の説明もなく放っておいたくせに、土曜には何事もなかったようにやって来た比呂は、プロポーズという名の爆弾を落として帰って行った。正確には、追い出した。
プロポーズを断られた腹いせなのか、離婚したい奥さんに連日押しかけられたストレスからなのか、比呂は強引で自分本位なセックスをした。
以前から強引だったり、シたがりだったりしたけれど、あんな風に苛立ちをぶつけるようなセックスはしない。
プロポーズを断られた後だから、当然と言えば当然だけれど。
とにかく、二つ目のゴムの封を切る前に、私は比呂を追い出した。
私のミスだ。
比呂は、不倫なんて出来る質じゃない。
わかっていたのに、誘ったのは、私。
軽いノリでふざけて見せても、根は真面目。
誘ったのが間違いだった。
翌日。
私は逃げた。
昨日の今日で比呂と顔を合わせる気にはなれなかった。拒み切る自信が、ない。
とりあえず、街をブラブラしようかと札幌駅に向かい、地下街を一周して、また駅に向かった。
買い物の気分ではなかった。
さて、どこへ行こうか。
改札の横でスマホを取り出し、迷いながらも発信した。
『もしもし?』
「龍也と一緒?」
挨拶抜きで、聞いた。
『ううん?』
「行ってもいい?」
あきらの最寄り駅前のスーパーで待ち合わせすることにした。
日曜なのに龍也と一緒じゃないことが気になった。後で、聞けばいい。
私の話も、聞いてもらいたい。
大学時代から、あきらとは馬が合った。
私があきらの病気や龍也との関係を知ったのは本当に偶然だった。私の不倫をあきらに知られたことも。
正確には、私が不倫ばかりしていることを知っていて、あきらはずっと黙っていた。
私が認めてからも、咎めるようなことを言われたことはない。理由を聞かれたことも。
だから、あきらにはつい余計な話をしてしまう。
今日は、特に、余計な話をしたい気分だった。
「どうしたの?」
買い物カートを押す私に、あきらが言った。
「別に? 選べなくって」
電話の後、すぐに地下鉄に乗った私は、あきらより十分早くスーパーに着いた。そして、カートを押して、真っ先に酒売り場を目指した。気づけば、缶ビールやチューハイ、つまみなんかでカゴが一杯だった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ボクとセンセイの秘密
七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。
タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。
一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。
なので関西弁での会話が多くなります。
ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる