【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

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7.彼の本気

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 あきらはもう一つカゴをカートの下の段に載せて、出来立てのピザや冷凍パスタ、カップ麺なんかを放り込んだ。

 あきらが持っているエコバッグでは足りるはずもなく、一枚五円の袋を二枚買った。

 二人で両手に袋を持ち、落ち葉の上を歩いて帰った。

 あきらの部屋に来るのは、久し振りだった。

 相変わらず物が少なくて、小ざっぱりとしている。記憶の部屋と大して変わっていない。

 龍也の存在を匂わせるものは、何もない。

 テーブルの下に無造作に置かれた雑誌が目に留まった。住宅情報誌。

「引っ越すの?」

「うん」

「龍也と暮らすとか?」

「――まさか」

 投げやりな言い方。

「何かあった?」

「……何かあったのは千尋でしょ?」

 短い沈黙。

「飲むか」

「……だね」

 テーブルにピザやつまみを広げ、私たちは缶ビールと缶チューハイを開けた。

 数年前に来た時も思ったけれど、あきらのアパートは古い。立地と家賃の安さで選んだとは知っているけれど、今まで引っ越していなかったのが不思議だ。

 就職してからしていた実家への仕送りを、まだ続けているのだろうか。

 あきらは五人姉弟きょうだいの長女。しっかり者で面倒見がいい。話しやすく、聞き上手で、相手の雰囲気や表情の違いによく気が付く。カウンセラーという職業は天職だろう。

 けれど、彼女自身は秘密主義なところがあって、かなり頑固。

 大学時代も、長く付き合っている彼がいること以外、ノロケもグチも聞いたことがない。聞けば少しは話すけれど、いつの間にか別の話にすり替わったりしていたものだ。

 病気のことも、偶然私が気づかなければ、きっと今も話してはくれなかったろう。

 けれど、病気のことや龍也との関係を知ってから、あきらはよく自分のことを話してくれるようになった。 

「で? 日曜なのに龍也がいないのはなんで?」

 私はスルメの袋の口を両手で引っ張った。バリッと派手に破けて、危うくスルメがピザのトッピングになるところだった。

「……先週の日曜にさ――」

 あきらがすんなり話し始め、少し驚いた。

 私と同じで、誰かに聞いて欲しくていたのかもしれない。

 元カレと再会したこと、メッセがきていること、龍也との関係が変わりつつあったこと。

 あきらの話を聞きながら、私は二缶飲み干していた。

「大体、二人ともそんなに器用じゃないでしょ?」と、私はスルメを噛みながら言った。

 スーパーのものにしては、美味しい。 

「龍也は大学時代からあきらが好きで、あきらは高校時代からの恋人と十年付き合ってた。二人とも一途な性格なのに、恋人がいない時だけセフレ、なんて器用に気持ちを切り替えられると思う方がおかしいでしょ」

 ずっと、言い続けていたことだ。

 そして、これは、ずっと言おうかと迷っていたこと。

「つーか、子供ってそんなに重要? 産めない、のと、産まない、のとでどれほど違う?」
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