【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
47 / 147
7.彼の本気

しおりを挟む
「どういう意味?」

「世の中にはたくさんいるじゃない。子供が嫌いだから、とか、自由でいたいから、とか、経済的に余裕がないから、とかいう理由で産めるのに産まない人。それと、産めない、ことの違い」

 私も、産まない、人のひとり。

 結婚も出産もしない、と断言している。

 まぁ、既婚者ばかりを相手にしているからには、当然のこと。

 あきらは口の中のピザを飲み込んでから、言った。

「産みたいか、じゃない? 産みたくないのと、産みたいけど産めないのとでは、気持ちが全然違うよ」

「酷なことだってわかって言うけど、あきらが子供を産めないのは揺るがない現実なんだから、それを受け入れてくれる龍也を拒むのは、幸せになりたくなって言ってるように聞こえるけど?」

「私が幸せになりたいか、じゃなくて、龍也には幸せになってもらいたいってこと」

 あきらがそう答えるであろうことは、予想していた。

 要するに、あきらは龍也が好きなのだ。

 自分の幸せを犠牲に出来るほど。

 龍也が子供好きで、早く結婚して子供が欲しいと話していたことは、記憶に残っていた。それが、あきらが龍也の気持ちを受け入れられない最大の理由だろう。

「あきらと一緒にいることが龍也の幸せなら?」

「今はそうでも、十年後には子供が欲しくなるかもしれないじゃない」

「ならないかもしれないじゃない」

 私とあきらは顔を見合わせた。

 私はスルメを噛み、あきらはピザを咥えながら。

「結局、未来のことなんてわからない、ってことよね」

「……だね」

「龍也のことは置いておいて、元カレはどうするの? しつこくメッセしてきてるんでしょ?」

 龍也が心配になるのも、無理はない。

 大学時代の龍也が、あきらへの気持ちを諦める原因になった男。

 心配し過ぎて暴走したのだろう。

「うん。一度、会おうかと思ってる。話を聞けば満足するかもしれないし」

「大丈夫?」

「うん。いい機会だから、引っ越すつもりだし、しつこいようならブロックしちゃえばいいだけだから」

「引っ越し先、決めたの?」

「仮押さえはした」と言って、あきらは情報誌を開いた。

 角を折ってあるページのマンションの外観が、赤丸で囲われている。

「ここじゃ、龍也の家から離れるね」

「けど、職場は近くなるし」

「龍也は知ってるの?」

「……言ってない」

 龍也の家の正確な場所は知らないけれど、最寄り駅は知っている。あきらが仮押さえしたマンションとは、路線が違う。

 立地とセキュリティからすれば家賃も安いし、いい物件だとは思う。

「龍也とも、ちゃんと向き合いなよ? 喧嘩別れなんてしていい相手じゃないでしょ」

「……わかってる」

 そうは言っても、あきらからは連絡しないだろうことは、確信が持てた。

 龍也が意を決して訪ねてきたら、あきらは引っ越した後だったなんて、想像したくない。

「で? 千尋の話は?」

「ん?」

「私の話ばっかはずるいでしょ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

処理中です...