【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

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8.理由

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 ニンマリと微笑みながら、比呂がパーカーの裾から私の太腿を撫でる。その手をパシッと払い除けた。

「いてっ――。冗談だろ」

「比呂が言うと冗談に聞こえない! って言うか、奥さんいる身で恋人になろうなんて意味が――」

「じゃあ、離婚したら恋人になってくれんの?」

「それはっ――」

「――な? じゃあ、もう開き直るしかねーだろ」

 なんだか、結局はいつもこうして比呂のペースに乗せられている気がする。条件を出しているのは私の方なのに、その条件を逆手に取られているというか。要するに、ずる賢いんだろう。

「心配すんな。会社にバレてお前の立場が危うくなるようなヘマはしねーから」

「……」

 ふっと、ある疑問が頭をかすめた。

「ん?」

「…………」

 けれど、それを聞くのは、なんだか気が進まない。

「なんだよ?」と言いながら、比呂が私の顎に人差し指で触れた。

「顎に皺寄ってんぞ? なんか、気になることがあるなら言え」

「……」

 好奇心とはいえ、聞いてしまったら比呂を調子づかせることになるのは目に見えている。

「言ーえーよ」

 人差し指を外して、今度は比呂が私の顎をカプッと咥えた。

「ひょ――」

 口が半開きで、変な声が出た。

 クククッと比呂が笑う。

「やめてよ!」

「『ひょ』だって。めっちゃかわいー」

「なっ――!」

 三十も過ぎて可愛いなんて、恥ずかしい以外の何物でもない。

「そんなこと言って!」

 私は恥ずかしさのあまり、枕を比呂の顔面目掛けて叩きつけた。ボフッとヒットする。

「私が本気になったらどうすんの? 私が愛人じゃ嫌だって言い出したら、どうすんのよ! 離婚したら、終わりなんでしょ? そんなんで、恋愛しようとか――」

「お前がルールなんてどうでもよくなるくらい俺を欲しがったら、俺のルールも必要なくなるだろ」

 比呂が枕を本来の場所に戻し、私の腕を引き寄せた。ガバッと開かれた彼の両足の間に膝をつき、そのまま足を交差される。

 捕まえた、と言わんばかりに、比呂は満足そうに私の胸に顔を押し付ける。

「俺のルールはお前を離さないためのもので、お前のルールは自分を守るためのものだろう? お前がルールを捨てたら、その後は俺がお前を守ってやる」

「お尻撫でながら言われても、嬉しくないんだけど」

 私の腰を抱いている比呂の手がササッとパーカーをたくし上げて、ショーツを穿いていないお尻をフニフニと撫で回す。

 どんなに格好いいことを言っても、台無しだ。

「真顔で言われたって素直に受け入れないだろ」

「だから――ってぇ……」
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