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9.面倒臭い快感
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しおりを挟む「えっ!? マジで?」
私の声に比呂がチラッとこっちを見て、また視線を手元のスマホに戻す。
私が寝室に場所を移そうとソファから腰を上げると、肩をポンと叩かれた。ソファの隣の重みがなくなる。比呂はテーブルのカップを二つとも持って、キッチンに向かった。コーヒーを淹れ直してくれるようだ。
「本当にいいの?」
『うん……』
「全然、良さそうな声じゃないけど?」
『……』
電話の相手は、あきら。
あきらの家で話したのが最後で、比呂との同居も伝えていなかった。言わなきゃと思っていたところに電話があって、声からしてあきらは泣いているようだった。
「龍也はなんて?」
『ずっと私だけだった、って』
「え?」
『私とスルようになってから、他の女を抱いたことはなかったって』
「え――、マジ?」
龍也は、恋人とセフレを天秤にかけられるような男じゃない。だから、同時進行はないのはわかっていたけれど、あきらに恋人がいる間は合コンにも行っていたし、恋人もいたと聞いていた。
「恋人がいたの、嘘だったってこと?」
『そう……みたい』
「あ……、けど、そういえば龍也って、『恋人がいる』とか『彼女が出来た』とかハッキリ言ったこと、なかったよね。私たちが聞くと、『まぁ、それなりに?』とか『好きな女がいる』とかは言ってたけど」
つまり、嘘をついていたわけじゃない。
私は膝を曲げてソファの上に足を上げ、片手で抱えた。
「さすがに……、龍也がそこまで本気で入れ込んでるとは……」
『……』
私はおでこに掌を当て、前髪をくしゃっと握った。
「けど、あきらは恋人がいた時期もあったでしょう? それは――」
『シてない』
「え?」
『何人かと付き合ったけど、誰ともセックスはしてないの』
「ええ!?」
思わず前のめりになり、足をソファから下ろす。ちょうど、比呂がカップを持って戻って来て、危うくカップを持つ手にぶつかるところだった。
比呂がテーブルに置こうとしたカップをひょいっと持ち上げ、私をかわす。
「あ」と短く発音すると、比呂は笑って軽いキスを落とした。
電話中に何をするんだと言いたいところだけれど、コーヒーの香りに手を伸ばしてしまった。
『付き合ったって言っても、セックスの前に妊娠できないことを話してたから、半分は結婚して子供も欲しいから別れたいって言ったし、半分は生で出来るって涎を垂らしてたしで――』
「――で、龍也のところに戻ってたの? それって――」
『わかってる! わかってるから……』
最初っから、龍也以外いないんじゃない――!
どこまで臆病なのだろう。
どこまで不器用なのだろう。
羨ましいくらい、お互いしか見えてないのに――!!
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