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9.面倒臭い快感
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しおりを挟む「わかってるのに、龍也を突き放したの?」
『……』
イライラする。
あきらさえ、素直になって龍也を受けれたら、私の好きな二人が幸せになれるのに。
「そこまで龍也が好きなのに、他の男と結婚なんて出来るの?」
『…………』
ムカムカする。
子供が持てない、ただその一つの為だけに幸せを拒絶するなんて。
「あきら! いつまで悲劇のヒロインぶってんのよ!!」
『千尋にはわかんないでしょ!』
久し振りに、聞いた。
あきらの感情的な声。
『結婚もしない、子供もいらない千尋には、わからない!!』
大学時代はよく、麻衣がダメ男に泣かされると、あきらが一番怒ってた。
さなえが麻衣に寄り添い、私はダメ男に引っ掛かる麻衣を諭し、あきらは今にも男を殴りに行きそうな剣幕で怒ってた。そんなあきらを龍也がなだめ、その隙に本当に男を殴りに行こうとする大和と陸を私が止める。
そんな七人。
卒業して、大和とさなえの結婚式で再会して、ちょっと老けたけど変わらない七人の関係が心地良かった。
あきらが、昔のように怒ったり笑ったりしなくなったのは、子供が産めなくなってから。
結婚話まで出ていた元カレと酷い別れ方をして、龍也に慰められてから。
人生を諦めたように、冷めた表情をするようになった。
そんなあきらが、叫んだ。
心の底から。
『甘ったれるな!』と言ってやりたくて息を吸い込んだ時、比呂の手に肩を掴まれた。
はっきりとは聞こえなくても、何となく会話の内容はわかったようで、軽く首を振った。
感情的になるな、と言いたいのだろう。
私はスマホを耳から離し、素早く深呼吸をした。
「わからないわよ。私はあきらじゃないもの。だけど、龍也とあきらが本気でお互いを大事に想ってることは、わかる。絶対、龍也以外の男とは幸せになれないのに、それを認めて龍也を受け入れないあきらがバカなことも、わかる」
『ふ……っ』
泣いているのを気づかれまいと、声を押し殺す息遣いが聞こえた。
こんなこと、私に言われなくても、あきらはよくわかっているはずだ。それでも、私があきらと龍也に幸せになって欲しいと願っているとわかっていて電話をかけてきたのは、慰めて欲しいからなのか、ただ話を聞いて欲しかっただけなのか。それとも、バカなことをしているとなじって欲しいからなのか。
私の反応なんて、それこそわかりきってるだろうに……。
「明日、龍也がぽっくり死んじゃっても後悔しない?」
「はっ!?」
今まで黙っていた比呂が、甲高い声を出して、慌てて手で口を押えた。
傷ついている友達になんてことを言うのだと、思っているのだろう。
私は、次に私が何を言うのかと緊張している比呂を横目に、続けた。
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