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10.妻の愛人
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しおりを挟むあまりの驚きように、俺もまた間抜けな顔で聞き返してしまった。
互いに、何から聞いていいのかわからずに、顔を見合わせる。
さすがに唐突過ぎたと思い、俺はビールで気持ちを落ち着けて、仕切り直した。
「別居して、二年。美幸には離婚したいと何度も伝えてきましたが、一向に応じようとしない。その理由は、離婚しても自分は幸せになれないから、だそうです。ハッキリ言って、俺には美幸の幸せなんてどうでもいい。とにかく、一刻も早く別れたいんです。なので、藁をも縋る想いであなたに頼みます。俺との離婚を説得してください」
彼は、戸惑いの表情を浮かべ、ハイボールをグイッと喉に流し込む。
「……本当のことですか?」
「え?」
「別居してるって」
「はい」
「二年も前から?」
「はい」
「……そう……ですか」
知らなかったのか!?
東山の、わかりやすい驚きと落ち込みように、言葉が続かない。
東山は、事情を全て知っているものと思っていた。勝手に。だが、もし、何も知らされていなかったとしたら? 今更、罪悪感に駆られて美幸と別れでもされたら、ますます離婚が遠のく。
「知らなかったんですか? 俺たちの別居」
「……はい」
「けど、頻繁に会っているなら、おかしいと思いますよね? 夫婦関係が円満なのに、週に二日も三日も帰宅が遅ければ不審がられるって」
「美幸からは、あなたとは形だけの夫婦関係だからお互いに自由だ、と聞きました。あなたは美幸と俺の関係を容認していて、あなたにも相手がいると」
嘘だろ……。
「お恥ずかしい話ですが、うちも夫婦関係は破綻していて、妻も美幸の存在を容認しています。なので、傷つく人間がいないのならと、ずるずると関係を続けていました。ですが――」
「関係が破綻しているのに離婚しないのは、お子さんの為ですか?」
「……はい。それから、妻の実家には恩がありまして。簡単には離婚できず……」
「……そうですか」
なんだろう。いい年をした男が背中を丸め、肩を落とし、自分の不甲斐なさを吐露する姿に、同情すら覚える。
こういう男だから、美幸は別れられずにいるのだろうか。
「あの、お聞きしていいですか?」
「はい?」
「美幸とはいつからの付き合いですか?」
東山はわずかに視線を泳がせ、ハイボールを飲み干し、同じものを注文した。俺もまた、ビールを追加した。
「十年くらい前、俺が勤めていた会計事務所がテナントから新事務所に移ることになって、事務所の設計を依頼したのが、美幸が勤めていた設計事務所でした。彼女はまだアシスタントで、先輩の設計士と一緒に打ち合わせに同席していました。俺の……一目惚れでした」
なんとも、不思議な感覚だ。
妻と妻の不倫相手の馴れ初めを、ビール片手に頬杖を突きながら聞いているなんて。しかも、喜怒哀楽の何の感情も湧かない。
ただ、事実として情報を脳に記憶していくだけ。
「新事務所が完成するころに、俺から交際を申し込みました。それから一年ちょっとは順調に付き合いが続いていました。結婚を意識し始めた頃、美幸から親友だと紹介されたのが、妻の忍でした」
「――はっ!? 美幸はあなたの奥さんと親友だったんですか?」
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