78 / 147
10.妻の愛人
7
しおりを挟む
びっくりして、思わず頬杖をついていた手で、バンッとテーブルを叩いてしまった。
バーテンダーが何事かと俺を見たが、何でもないとわかり、他の客の対応に戻った。
「はい。忍は父親が会計事務所を持っていて、忍自身も他の会計事務所で働いていました。偶然にも、他の事務所に移りたいと考えている時に、親友の恋人が会計士だと聞いて
、人員を募集している事務所はないかと相談されたんです。偶然にも、俺の事務所の所長と忍の父親に面識があり、忍は俺の事務所で働くことになりました」
話の先が、読めてきた。
小説やドラマにありそうな話だ。
「今になってみれば、あの頃から忍は俺に目をつけていたようです。結婚して、父親の事務所を継いでくれる男を探していたから」
「けど、親友の恋人にまで手を出すなんて――」
「有り得ないですよね」と、東山は自虐的な笑みを浮かべた。
「美幸が気にしているようだったから、俺は忍とは関わらないようにしていたんです。誘われても、二人きりになるようなことは避けてきた。けど、事務所の飲み会の帰りに二人きりになってしまって――」
「――目が覚めたら事後だった、と」
東山が力なく頷いた。
やっぱり。
聞かなくてもわかる、酔ったはずみでホテルへGo! の展開。
若い頃、俺も経験がある。
ワンナイトから付き合い始めたが、一か月で別れた。
こればかりは、同情はしても、彼が悪くないとは言えない。経緯がどうであれ、勃ってしまったモノを突っ込んでしまったら、男の責任だ。
「けど、全く記憶がなくて。ビールを二杯くらいしか飲んでいないのに、本当に朝までの記憶がなくて。だから、美幸にも言い訳のしようがなかった。ただ、ひたすら謝るしかできなかった。そのうち、忍に妊娠を告げられて、勝手に事務所にも報告されて、なし崩し的に結婚することになってしまったんです。美幸は俺を責めもせず、別れを受け入れてくれました。だけど、俺はどうしても美幸を忘れられなかった。結婚して、義父の事務所を継ぎ、もうすぐ子供が生まれるという頃に、美幸から連絡がありました。美幸も俺を忘れずにいてくれて、どうしてこんなことになったのかと、忍に会って聞いたんだそうです」
親友に恋人を奪われた美幸は、さぞ悔しかったろう。
気持ちに決着をつけるために、謝罪の一つでもあればと、行動したのかもしれない。
「忍は悪びれることもなく、簡単に騙された俺が悪いと言いました。自分の事務所を持たせてもらったんだから、感謝してほしいくらいだと。美幸には、昔から自分よりいい男と付き合って、幸せそうなのが許せなかったと毒づいた。しまいには、どうしても寂しかったら、時々俺を貸してやってもいい、とまで言った。途中からでしたが、美幸は忍との会話を録音していたんです。それを聞いて、俺は美幸との関係を続けるのに、何の罪悪感も持てなくなった」
バーテンダーが何事かと俺を見たが、何でもないとわかり、他の客の対応に戻った。
「はい。忍は父親が会計事務所を持っていて、忍自身も他の会計事務所で働いていました。偶然にも、他の事務所に移りたいと考えている時に、親友の恋人が会計士だと聞いて
、人員を募集している事務所はないかと相談されたんです。偶然にも、俺の事務所の所長と忍の父親に面識があり、忍は俺の事務所で働くことになりました」
話の先が、読めてきた。
小説やドラマにありそうな話だ。
「今になってみれば、あの頃から忍は俺に目をつけていたようです。結婚して、父親の事務所を継いでくれる男を探していたから」
「けど、親友の恋人にまで手を出すなんて――」
「有り得ないですよね」と、東山は自虐的な笑みを浮かべた。
「美幸が気にしているようだったから、俺は忍とは関わらないようにしていたんです。誘われても、二人きりになるようなことは避けてきた。けど、事務所の飲み会の帰りに二人きりになってしまって――」
「――目が覚めたら事後だった、と」
東山が力なく頷いた。
やっぱり。
聞かなくてもわかる、酔ったはずみでホテルへGo! の展開。
若い頃、俺も経験がある。
ワンナイトから付き合い始めたが、一か月で別れた。
こればかりは、同情はしても、彼が悪くないとは言えない。経緯がどうであれ、勃ってしまったモノを突っ込んでしまったら、男の責任だ。
「けど、全く記憶がなくて。ビールを二杯くらいしか飲んでいないのに、本当に朝までの記憶がなくて。だから、美幸にも言い訳のしようがなかった。ただ、ひたすら謝るしかできなかった。そのうち、忍に妊娠を告げられて、勝手に事務所にも報告されて、なし崩し的に結婚することになってしまったんです。美幸は俺を責めもせず、別れを受け入れてくれました。だけど、俺はどうしても美幸を忘れられなかった。結婚して、義父の事務所を継ぎ、もうすぐ子供が生まれるという頃に、美幸から連絡がありました。美幸も俺を忘れずにいてくれて、どうしてこんなことになったのかと、忍に会って聞いたんだそうです」
親友に恋人を奪われた美幸は、さぞ悔しかったろう。
気持ちに決着をつけるために、謝罪の一つでもあればと、行動したのかもしれない。
「忍は悪びれることもなく、簡単に騙された俺が悪いと言いました。自分の事務所を持たせてもらったんだから、感謝してほしいくらいだと。美幸には、昔から自分よりいい男と付き合って、幸せそうなのが許せなかったと毒づいた。しまいには、どうしても寂しかったら、時々俺を貸してやってもいい、とまで言った。途中からでしたが、美幸は忍との会話を録音していたんです。それを聞いて、俺は美幸との関係を続けるのに、何の罪悪感も持てなくなった」
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
網代さんを怒らせたい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」
彼がなにを言っているのかわからなかった。
たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。
しかし彼曰く、これは練習なのらしい。
それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。
それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。
それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。
和倉千代子(わくらちよこ) 23
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
デザイナー
黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟
ただし、そう呼ぶのは網代のみ
なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている
仕事も頑張る努力家
×
網代立生(あじろたつき) 28
建築デザイン会社『SkyEnd』勤務
営業兼事務
背が高く、一見優しげ
しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く
人の好き嫌いが激しい
常識の通じないヤツが大嫌い
恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる