【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

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12.嫉妬

10

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「副社長の大河内亘おおこうち わたる様と四時にお約束しています」

「承っております。こちらのカードをお持ちください」と言って、駐車スペースの番号が書かれたシルバーのカードを渡された。

「お帰りの際にカードをご返却ください」

「わかりました」

 係員が会釈して立ち去ると、俺はカードを彼女の目の前に差し出した。

「高級ホテルは駐車カードもご立派だねぇ」

 だが、千尋はカードには目もくれず、俯いてシートベルトを握り締めている。

「千尋?」

「客って……大河内亘?」

「え? ああ、そう。THE・TOWERここが出来た時に副社長に就任した社長の息子の大河内亘。結婚するからって、新居を建てるんだと」

「そ……う」

 急にテンションが低くなり、というか、真っ青な顔で俯く千尋は明らかに様子がおかしい。

「どうした?」

「同席……しているだけでいいのよね」

「ああ」

「わかった」

「おい? どうした?」

 ぎゅっと目を瞑り、それから目を開けて、千尋はようやく顔を上げた。

「早く、終わらせよう」

「は?」

 千尋はシートベルトを外すと、ちゃっちゃと降りて、後部座席のバッグを抱えた。

「早く終わらせて、ご飯食べに行こう」

 仕事に真面目な千尋が、お客様との打ち合わせを『早く終わらせる』などと言うはずがないとわかってた。なのに、俺はそれを気に留めなかった。打ち合わせの時間は迫っていたし、彼女が食事をOKしてくれたのもあって、考えが及ばなかった。

 俺はそれを、死ぬほど後悔することになる。
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