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12.嫉妬
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しおりを挟む「副社長の大河内亘様と四時にお約束しています」
「承っております。こちらのカードをお持ちください」と言って、駐車スペースの番号が書かれたシルバーのカードを渡された。
「お帰りの際にカードをご返却ください」
「わかりました」
係員が会釈して立ち去ると、俺はカードを彼女の目の前に差し出した。
「高級ホテルは駐車カードもご立派だねぇ」
だが、千尋はカードには目もくれず、俯いてシートベルトを握り締めている。
「千尋?」
「客って……大河内亘?」
「え? ああ、そう。THE・TOWERが出来た時に副社長に就任した社長の息子の大河内亘。結婚するからって、新居を建てるんだと」
「そ……う」
急にテンションが低くなり、というか、真っ青な顔で俯く千尋は明らかに様子がおかしい。
「どうした?」
「同席……しているだけでいいのよね」
「ああ」
「わかった」
「おい? どうした?」
ぎゅっと目を瞑り、それから目を開けて、千尋はようやく顔を上げた。
「早く、終わらせよう」
「は?」
千尋はシートベルトを外すと、ちゃっちゃと降りて、後部座席のバッグを抱えた。
「早く終わらせて、ご飯食べに行こう」
仕事に真面目な千尋が、お客様との打ち合わせを『早く終わらせる』などと言うはずがないとわかってた。なのに、俺はそれを気に留めなかった。打ち合わせの時間は迫っていたし、彼女が食事をOKしてくれたのもあって、考えが及ばなかった。
俺はそれを、死ぬほど後悔することになる。
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