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13.再会の意味
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しおりを挟む相変わらず嫌な男だった。
私を見た瞬間、驚き、そして、笑った。
あの時と同じ。
私の全身を舐め回すように見て。
逃げ出したかった。
それ以上に、こんな男の名前を聞いただけで全身が強張り、心拍数が上昇し、呼吸も忘れてしまう自分をぶん殴ってやりたかった。
「HOTEL NEW LIBBERの副社長をしています、大河内亘です」
「トラスト不動産ホームデザイン部の有川です」
革張りのソファに座り、足を組んだまま名乗った亘に対し、比呂は腰を折って名刺を差し出した。私も、それに続く。
「相川です」
「担当させていただきます長谷部は電車の遅延で同席できませんので、本日は代理として相川が同席させていただきます」
「そうですか。では、このまま彼女にお願いします」
「え――?」
「彼女とは旧知の仲なんですよ。いやぁ、驚きました。こんなところで再会できるなんて。なぁ? 千尋」
深く腰掛けていたソファから身体を起こし、亘はテーブルに置いてある自分の名刺を私に差し出した。
「お前の名刺は?」
亘の物言いに驚き、比呂はチラッと私を見た。私は、ただ真っ直ぐに亘を見据えていた。
「申し訳ありませんが、大河内さんのご新居の規模は、相川には手に余ります。相川の上司である長谷部が担当させていただきます。我が社の社長からも、そう指示を受けておりますので」
比呂が言った。
「社長命令と依頼人の指示、どっちを優先させるべきかわかんないの」
亘もまた、私から目を離そうとしない。
負けてたまるか。
私はそんな意地だけで立っていた。
「本日、奥様は同席なさらないのですか」
話を逸らそうと、聞いた。
「もうすぐ来ると思うんだけど。ウエディングドレスの打ち合わせに夢中でさ」
「そうですか。申し遅れましたが、ご結婚おめでとうございます」と、私は深く頭を下げた。
顔を上げて、また亘の顔を見るより、ずっと自分の靴を見下ろしていたい。
もちろん、そんなことは出来ないのだから、私はほんの三秒ほどで頭を上げるしかなかった。
「ありがとう。祝う気持ちがあるなら、俺の新居を担当してよ」
嫌だ、と感情論で話せたらどんなに楽か。
「私どもの一存では決めかねますので、持ち帰らせていただきます」
比呂が、言った。割と強い口調で。
「あ、そ」
亘が吐き捨てるように言った時、ドアがノックされた。重々しい扉が開く。
ホテルの制服ではない、薄いグレーのスーツを着た二十代後半の女性が、コーヒーを運んできた。
私と比呂は、コーヒーが置かれた場所に座った。
女性が膝をついてコーヒーをテーブルに置くとき、亘が彼女の胸を凝視していた。一般的な基準でいえば豊満な胸。
相変わらず、クズだな。
女性の方も亘の視線に気づいているようだが、それを嫌がっている素振りはない。それどころか、挑発するように亘に微笑んで見せる。
副社長の愛人様、ってことか。
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