【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
133 / 147
16.新しい指輪

しおりを挟む

「――千尋はお母さんの生き方をどう思う?」

『おか……さん?』

「俺は、お前を、お前のお母さんのようにしたくない。いくら純愛でも、三十年も離れ離れなんて、俺には耐えられない。だから、俺は、三時間だ」

『みじかっ!』

 突然割り込んで来た男の声に、俺は思わず「はははっ」と笑ってしまった。



 確かに、どんだけ気が短いんだよ、って話だよな。

 けど――。



「俺達にはちょうどいいだろ」

 きっと、三十時間でも、三日でも、三十日でも、千尋の答えは変わらない。



 だったら、さっさと……。



 俺はアスファルトの見える歩道を歩きだした。

「帯広は雪が少ないな。これなら、十五分後には店につきそ――」

 言い終わるか終わらないかで、すれ違った男性に、スマホを持つ手がぶつかった。

 謝罪して、スマホを見ると、ホーム画面に戻っていた。

 店に着いたのは、十分後。

 無意識に急いていたようで、真冬にもかかわらず背中は汗で湿っていた。

 六花○店内のカフェに入り、窓際の席に座って、ホットコーヒーを注文する。届けられる前に、水を一杯飲み干した。

 昼少し前とあって、俺の後に続けて何組かのカップルや夫婦、女子会と思しきグループが入店した。

 ざわめく店内でコーヒーをすすりながら、窓の外に目を向けた。



 千尋……。



 昨夜、『近々千鶴にプロポーズを――』と言っていた勇氏は、俺が翌朝、朝一の電車で帯広に向かうと伝えると、『それは、後れを取るわけにいきませんね』と微笑み、その場で車の手配をした。

 さすがに、今の今から行く気かと俺も長谷部課長も驚いた。

 だが、勇氏は、『昔も、こうして夜遅くに車を走らせたことがあったんです』と言った。『さすがに今は自分の運転では不安しかないので、部下に頼みますが』とも言って、笑った。

『きみが来るまでに、千鶴を説得できないと、きみに合わせる顔がないな』なんて言いながら、勇氏は黒塗りのセダンに乗り込んだ。

 両親の過去や、自分の出生の秘密を知って、千尋はどう思っただろう。

 一部、俺との関係を重ねて、思うことがあればいい。



 そうして、俺の元ここに駆け付けてくれたら……。



「サ○サクパイを四つと――」

 隣のテーブルで注文を復唱した店員の声にハッとして、スマホを見た。

 店に入ってから二十分が過ぎていた。

 俺は店員を呼び、サクサク○イを二つと、コーヒーのお代わりを注文した。

 五分もしないでパイが運ばれてくる。

 俺は二つのパイを眺めながら、ひたすら千尋を待った。

 十分、三十分、四十五分……。

 そもそも、千尋の実家がここからどれほどの距離にあるのかも知らないから、早いとも遅いともわからず、じっと待つ。

 さすがに一時間にコーヒーを三杯も飲むとトイレに行きたくなり、俺は店員にその旨を伝えて席を立った。

 あと何杯コーヒーを飲んで、あと何回トイレに立つことになるか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...