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16.新しい指輪
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しおりを挟む彼女が俯いた瞬間、雫が垂直に落ちたのが見えた。
ひそひそと、けれど興奮気味に話す女性の声がして、俺はちらりと視線を向けた。
すっかりパイを食べ終えた隣のテーブルの女性四人が、顔を寄せて俺の方を見ている。
他人のプロポーズの場に居合わせるなんて、それは珍しいことに違いない。
「断られたら……どうすんのよ。指輪、無駄になるじゃない」
「そしたら、次の女に渡すだけだ」
「なっ――! さいっ――」
「――ここで俺を拒むってことは、そういうことだぞ?」
顔を上げた千尋の頬は涙で湿っていた。が、俺の言葉で涙も止まったよう。
「言っただろ? 俺は、お前をお前の母親のようにはしたくないし、俺自身、お前の父親のようになる気もない。二人を否定する気はないが、俺には無理だ。ここでお前に振られたら、寂しくて適当な女に引っ掛かって、この指輪を渡すかもな」
「脅し?」
「限りなく事実に近い予想だ」
千尋が、ギュッと口を結ぶ。
「もし、そうなっても、俺はきっとお前を忘れられないだろうな。指輪を見ては思い出すと思う。相手の女には悪いけど、その分、贖罪の気持ちを込めて大事にするさ。子供が生まれたら、子供も」
「こ……ども……?」
「ああ」
俺は、千尋の飲み物を聞くつもりでタイミングを見計らっていた店員に声をかけた。
「コーヒーでいいか?」
「あ、えっと、オレンジジュースで……」
「それを二つください」
「かしこまりました」
空のコーヒーカップを持って、店員が厨房に下がった。
「珍しいな、オレンジジュースとか」
「……なんか……さっぱりしたものが――」
「――妊娠してるから?」
「え――」
明らかに動揺した表情。
「――悪阻、だろ?」
「ばかなこと――」
早くなる瞬き。
「――お前を迎えに行った飲み会の夜から、一週間もセックス出来なかった日、ないだろ」
「はっ!?」
「あの夜、避妊しなかった」
「なっ――!」
酔った千尋は憶えていない。
酒に飲まれて、俺を愛してると言ったこと。
その言葉に、ゴムを着ける間も惜しくて繋がったこと。
何度も。
あれから、大河内亘の一件があってバタバタはしていたが、千尋が生理だからとセックスを拒むことがなかったのは事実。
千尋は、妊娠している。
妊娠、していて欲しい――。
「俺の子だ」
「してない……。妊娠なんて――」
「――じゃあ、証明してみろ」
「なにを――」
「――今から俺に抱かれろよ」
「――――っ!」
歯を食いしばって俺を睨みつけているのが、証明だ。
妊娠初期のセックスは流産の原因になる可能性があることは、妊娠の経験がなくてもわかることだ。
「産んでくれるよな?」
「比呂の子じゃ……ない」
「は?」
今度はこっちが面食らった。
「比呂の子じゃないわ」
「お前、この期に及んで――」
「――本当だもの!」
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