【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
146 / 147
17.指輪に誓う永遠

しおりを挟む
「俺が買ってやった服は、アイスを落としても泣かなかったのに」

 さなえが、旦那が一番手のかかる大きな子供だと言うのも頷ける。

「パパは赤とかピンクとかフリフリしたのばっかり着せたがるから」

 今、未来が来ているのは、スモーキーピンクのロンTに、デニムのオーバーオール。

 ゴールデンウイークに会った時に、あきらと龍也がプレゼントしてくれた服。

「可愛いのに」

「そうね」

「大ちゃん!」

 未来が通りを指さして、叫んだ。

 今にも走り出しそうな未来の腰を抱いて、公園の角を曲がって来たバスが完全に停車するのを待つ。停車位置には、既に三人の母親がバスを待ち構えていた。

「ママ! 放して!」

「未来、走っちゃダメ」

「大ちゃん!」

「わかってるから」

 比呂が未来を抱き上げる。腕から身体を乗り出して前のめりになる未来を抱き直す。

 私は小走りで二人を越して、バスに向かった。

「ただいま帰りましたぁ」

 ピンクのエプロンをした二十代後半の先生が、軽やかにバスのステップを降りてくる。

 続いて、中から園児たちが降りて来た。

「せんせー、さよーなら!」

「はい、さようなら」

 年少さんの三人の後、一番最後に大斗がいた。前の三人よりも、頭一つ分大きくて、黄色い幼稚園帽子が窮屈そう。

「ありがとうございました」と、運転手さんにお礼を言って、ゆっくりとステップを降りる。

「先生、さようなら」

「大斗くん、また明日」

 先生は園児たちに手を振って、再びバスに乗り込む。そして、次のバス停に向けて発車した。

「大ちゃん!」

「ただいま、未来」

「おかーりぃ」

 比呂に抱かれていた未来が、じたばたしながら大斗に向けて両手を広げる。

「こら、危ないから――」

「――未来、危ないよ」

 鶴の一声で、未来が手も身体もひっこめた。

「パパ、おろちて!」

「けど――」

「――降ろして大丈夫」

 私の言葉に、比呂が渋々未来を降ろす。

 自由になった未来に、大斗が右手を差し出した。未来が、その手に飛びつく。

「走っちゃダメだよ?」

「うん!」

 娘が自分ではない男の子に手を引かれて歩く後姿を眺め、比呂が深いため息をついた。

「俺より大斗かよ」

「幼稚園児相手に妬かないの」

「妬いてねーよ」



 これは、未来の夢が大斗のお嫁さんになることだってことは、黙ってた方がいいな。



「俺より勇斗の方が妬くんじゃねーのか? 兄ちゃん、未来に取られて」

「残念。勇斗は大斗に妬いてるの」

「なんで?」

「未来が好きだからに決まってるでしょう?」

「二歳で三角関係かよ!?」

 私は比呂の肩をグーパンした。

「大和んところ、次も男だろ? 三兄弟で未来を取り合うとか、昼ドラの世界だな」

 今は昼ドラとかないし、と心の中で突っ込みながら、私はふふっと笑った。

「取り合うのは未来だけじゃないかもよ?」

「ん?」

 頭上から下りてきた比呂の視線に気づきながら、わざと両手で自分のお腹を擦って見せた。

「え!? え!!? マジで?!」

「うちはどっちかしらね?」

「マジで?!」

「まだ病院には行ってないけど、多分ね」

 見上げると、比呂が目を細めて笑っていた。

「そっか、そっかぁ……」

 比呂が足を止め、一瞬だけ私を抱き締めた。すぐに身体を離し、私の肩にかかっているバッグを奪う。

「帯広のサクサ○パイ、食いてぇな」

「そうね。安定期に入ったら、行こうか」

 きっと、こうして私たちは折に触れて帯広を訪れるだろう。

 サク○クパイを食べて、幸せを噛みしめて、これからも同じ景色を見続けるのだろう。



 だって、私たちは指輪を外さないから――。




--- END ---
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

処理中です...