最後の男

深冬 芽以

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6 二人の距離

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「まぁ、色々ありますよね」

「……。『サイテー』とか言わないのか?」

他人ひとを最低呼ばわりできるほど、立派な人間じゃありませんから。実際、課長と同じベッドにいる時点で、セフレとどう違うのかなんて説明できないですし」

 はははっ、と智也が笑った。

「確かに」

「課長」

「課長、ヤメロ」

「寂しいんですか?」

「は?」

「よっぽど寂しくなきゃ、私なんかを誘わないでしょう?」

 ご両親がいないと聞いていたから、智也の提案を聞いた時に思った。

 千堂さんが私に『母親』を見ているように、智也も私の中に『母親』を見ているのではないだろうか。

 自分でもそれに気づいていないから、キスできたんじゃないだろうか。

「『寂しい』って言ったら、させてくれんの?」

 ガバッと布団の重みを感じなくなったと思ったら、その何十倍もの圧に替わった。

 それが、智也の重みだと気づいたと同時に、唇が塞がれた。

「ん――っ!」

 この前の、軽く触れる優しいキスとは違う。

 押し付けられるような、少し痛いくらいのキス。

 思わず、智也の肩を押し返そうと力がこもる。

 息が苦しい。

 智也の舌が唇に触れ、無意識に唇をきつく結んだ。

「んん……」

 久し振り過ぎる深いキスへの応え方がわからない。

 唇を開いて、受け入れる勇気もない。

 智也の舌が私の唇をゆっくりと舐め、開くのを待つ。



 こんなの、無理――!




 怖かった。

 キスの仕方なんて、忘れてしまった。

 セックスなんて、もってのほか。

 ふっと唇の熱が冷めた。

「口、開けろよ」

「無理!」

「嫌か?」

「そうじゃ――」

 自分の感覚を疑った。

 智也の手が胸に触れ、ゆっくりと包み込むように指が広がっていく。

「や……」

 胸を触られるなんて、子供が最後。

 子供たちが小さかった頃はおっぱいを恋しがって触ってきたけれど、小学生になってからはない。

 恥ずかしかった。

 二人の子供に吸われ続けた胸は、母乳が出なくなった後はしょんぼりと項垂れてしまって、ハリも何もない。

 それなのに、触られて身体が熱くなる自分が、恥ずかしい。

「今日は……しないって――」

 声が上ずる。

 恥ずかしさのあまり、涙が滲む。

「かちょ――」

 開いた口の中に、湿った温かい感触。

「んっ……」

 智也の舌が私の舌を絡めとる。

 狭い口内では、逃げ場などない。

 彼の舌の動きと手の動きに意識が分散され、頭が働かない。

 暴れるように膝を曲げた時、太腿に硬いモノが当たった。

 どんなにご無沙汰でも、すぐにその正体がわかってしまった。

 恥ずかしい反面、嬉しいと思ってしまう。

 私なんかに、欲情してくれることに。

 自分が『女』として扱われていることに。

「二人でいる時は名前で呼べ」
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