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【番外編1】千堂隼の恋
恋の終わりと始まり-1
しおりを挟む「千堂課長、年上っていいですか?」
谷は、いつも唐突に驚くことを言う。
「なんだよ、急に」
「いえ。堀藤さんのことを吹っ切れたのかなと」
「は?」
「冨田課長と何かありました?」
「……」
「課長、わかりやす過ぎです」
「…………」
恥ずかしくて堪らない。
珍しく谷から飲みに誘われて、冨田課長の歓迎会の二次会で行ったBarに来ていた。
「何があったかまでは聞きませんけど、意識し過ぎです」
俺は歓迎会以来飲まずにいたビールを、喉に流し込んだ。美味い。
「お前の勘が良過ぎんだろ」
「気づいているの、俺だけじゃないですよ」
「は?」
俺はそんなに器用な男じゃない。
冨田課長との一夜から二か月。
自分でも驚くほど、彼女を意識し続けていた。
そんな俺に気づいてか、時々、冨田課長と目が合うと、流し目で微笑まれたりした。
そんな日は、必ず、あの夜の夢を見た。
そして、翌朝は思春期の子供のように、大惨事。
情けない。
「この前、堀藤さんと話しました」
「えっ? 何を!?」
「千堂課長の事じゃないですよ」
なんだか、谷にまで面白がられているように思える。
「課長のことも、話しましたけど」
「どっちだよ!」
俺はバーテンダーにビールのお代わりを頼む。
「溝口さんが、着任してたった二か月で新規契約五件と継続契約四件を取り付けたって話をしたんです。そしたら、すごく嬉しそうな顔をしてました」
そうなのだ。
溝口さんは廃社がほぼ決定している釧路支社で、俺たち営業部全体の一か月の業績に並んだ。釧路は二か月かかったとはいえ、札幌の五分の一の人数で、だ。
上層部は、釧路支社の廃社を再検討している。
デキる人だとはわかっていたけれど、素直に認めるのが悔しくて、彼からの電話を受けた俺は『お元気そうですね、溝口部長』と、白々しく挨拶をした。
彩さんの近況は教えてやらなかった。
聞かれなかったし。
「『会いたくないですか?』って聞いてみたんです」
「お前……いい度胸してるよな」
バーテンダーが俺の前にビールグラスを置いた。キンキンに冷えたビールが骨身に染みる。
「好きな女には尻込みしっ放しなんで、その反動ですかね」
「まぁ……わかる気がするよ」
「素直に答えてくれるとは思いませんでしたけどね」
「なんて言ってた?」
『もちろん、会いたいです』とか……?
「『邪魔になりたくないですから』って」
邪魔……?
「聞いた時、千堂課長には申し訳ないですけど、勝ち目ねーなって思っちゃいました」
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