15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

文字の大きさ
5 / 89
1.今も好きですか?

しおりを挟む

 私はため息をつくと、自分のベッドの上のカーディガンを持って部屋を出ようとした。

「けど、お父さんにはいつもお世話になっているのでって、わざわざ誰もいないところでくれたぞ?」



 子供に見栄を張らなくても……。



「それって、浮気じゃん!」

「お前はすぐに浮気とか言うのやめなさい」

「お母さん、見て! どう思う? 浮気だと思う?」

 由輝が父親の手からタブレットを奪い、ベッドを飛び降りる。

 そして、私の目の前にタブレットを差し出した。

 精神年齢はともかく、既に私の身長を抜いている由輝に見下ろされ、目の前のタブレットに注目する。

 会社の制服を着ていて、ふんわりパーマがかった肩までの髪をハーフアップにしている。耳には、ピンクのピアス。リップもピンク。

 彼女の左右にも同じ制服らしい肩の部分が見えるから、社内で撮ったもののようだ。

 私は、彼女によく似た人を知っている。

 よく似ているだけで、別人だが。

「ホント、可愛いね」

 あまりに抑揚のない声が、自分のものではないように聞こえた。

「お父さんが好きそうなタイプ……」

「お母さん?」

 息子の声にハッとする。

「ホント、若い! いくつ? こんなに若いんじゃ、お父さんなんておじさんでしょ」

 おどけてみせた。

「確かに~」と、和葉。

「そうでもないぞ? 確か、二十八……だったかな?」

「思ったより若くない!」

「失礼だな」

 夫と子供が笑う。

 私も笑う。

 笑っているように、見えたと思う。

「あ! お兄ちゃん、コンパス!」

 ようやく思い出した和葉が、由輝に言う。

「自分のはどうしたんだよ」

「学校に忘れて来ちゃったの! 宿題で使うから今だけ貸して!」

 子供たちがバタバタと寝室を出て行く。

 私は由輝が押し付けていったタブレットを、和輝に渡した。

「お返しが必要なのはこの子だけ?」

「ああ。あとは、他の奴らとまとめてだな」

「そ」

「お母さん?」

「なに?」

「どうした?」

 夫が、私の顔を覗き込む。

「なにが?」

「おっかない顔してるぞ」

「ははっ……。失礼ね」

「まさか、本気で浮気なんて――」

「――可愛い子に貰ったチョコ、一人で食べたの? ずるいんだから」

 うまく笑えていたか、わからない。

 わからないから、逃げ出した。

 逃げ場なんてないのに、逃げ出した。

 築十三年の私のお城。

 ローンが二十二年残ってるこのお城の、どの辺が私たちのものなんだろう。

 私は洗面所の棚からシャンプーを取り出し、まだ湿気の残るお風呂場でボトルに付け替えた。

 ドラマでよく、「私はあなたのお母さんじゃない!」なんて妻の台詞を聞くけれど、まさか自分がそんな風に思う日がくるなんて思ってもいなかった。

 もう何年、私は名前を呼ばれていないのだろう。



 ねえ? 私、柚葉ゆずはっていうの、憶えてる?



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...