15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

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7.15年目のホンネ

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「そんな、勝手な……」

「ホントだよな」と、和輝が渇いた笑みを浮かべた。

「ただ、俺に話を通してきた同期は別れた経緯とか知らないから、単純に昔のよしみで助けてやったらいいと思ったらしい」

「じゃあ、私のところに来たのは、また訴えられたら堪らないと思って?」

「そう。金はないし、転職ももう嫌だって。とことん勝手だよな」

 そんな心配をするくらいなら、どうして既婚者である元カレを頼ったりしたのか。

 いや、まさか元カレの妻が近所の店で働いているだなんて思いもしなかったのだろう。元カレと一緒に訪れたことのある店の店員だったなんて。

「俺は、今の広田の会社に見合った仕事を回してくれそうな会社をいくつか紹介しただけだ。それも、もう終わった。二度と、広田には会わない」

 頷くと、夫は僅かに口角を上げた。

 少しだけ、肩から力が抜けたようにも見えた。

「柚葉」

 この部屋に入ってきてから、夫は私を名前で呼んでいる。

 もうずっと、『お母さん』としか呼ばなかったのに。

「ごめん、な?」

「なに……が?」

 彼の手が私を離れ、スラックスのポケットを探る。そして、小さく折り畳まれた紙を取り出す。

 和輝はその紙を丁寧に開き、私の手に握らせる。

「読んで」

『お父さんとお母さんが、私のお父さんとお母さんになるまで』

「これ……」

 和葉の質問表。だが、私が書いたものじゃない。

『初めて会った時の感想は?』

 可愛い。

『どっちが最初に好きって言ったの?』

 俺。初めてキスした時。

『どこが好きで結婚したの?』

 顔、優しい、真面目、穏やか、ご飯が美味しい、寂しがり、甘えたがり、心配性、柔らかい、温かい、挨拶をきちんとする、食べ方が綺麗。

『嫌いなところは?』

 逞しくなっちゃったところ、自己評価が低いところ、言いたいことを我慢するところ、気を遣ってばっかりなところ。



 また、逞しいって書かれた……。



『知り合ったきっかけは?』

 友達の紹介。

『初めてのデートの場所は?』

 ファミレス。

『初めてもらったプレゼントは?』

 名刺入れ。 



 思い出したのね。



『生まれ変わっても結婚したい?』

 絶対、する。

『プロポーズの言葉は?』

 考え中。



 なに、それ。



 最後の答えに、ふふっと笑いが零れた。

「もっと、少ないと思ってたろ」

「うん」

「付き合う時は確かに、あいつらに流された感があったけど、でも、俺言ったぞ? 付き合うことになった日の帰り、初めてキスした時、好きだって」

「そう……だっけ」

 付き合えることになって、舞い上がって、緊張して、その上、キスされて、よく覚えていない。

「めちゃくちゃ緊張してたもんな、柚葉」

「そりゃ……」



 ファーストキス、だったんだから。



「あれが初めてのキスだった?」

 何の茶番だろう。

 結婚して十五年目にして、初キスを語るだなんて。恥ずかしすぎる。

 私は夫から視線を逸らし、手元の紙に移した。

「逞しいところが嫌いって、和葉にも言ってたね」

「聞いてたのか?」

「うん」

 足腰が窮屈になったのか、和輝は立ち上がると私の隣に腰を下ろした。

「昔はさ、甘えたがりだっただろ? 柚葉。自分からは甘えてくれなかったけど、手繋ぐのとか好きだったし」

 よく覚えてるな、と思った。

「出張とか仕事が忙しくて会えない日が続いた後で会えた時、泣きそうな顔してたり」

 恥ずかしい。

 そんな頃もあったが、今思うとただの甘ったれの小娘だ。
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