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第十三章 醜聞
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しおりを挟む翌日。
すぐに異変に気がついた。
落ち着きのない社内、私を見る社員の視線。
何?
訳が分からないままデスクに辿り着いた途端、息を切らしてイベント企画部に飛び込んできたのは、真由。
「馨! ちょっと――」
常に冷静沈着な真由が取り乱すのは、かなり珍しい。
腕を引っ張られて連れて行かれたのは、無人のミーティングルーム。内側から鍵を掛けると、ドアに〈使用中〉の赤いランプが点く。
「どうしたの?」
「部長は? 一緒に出社したの?」
「ううん? 一本早い電車に乗ったはずだけど」
真由に促され、椅子に座る。
「じゃあ、きっともう呼び出されてるわね」
「誰に?」
「これ、見て」
真由が四つ折りにされたA4サイズの紙を差し出す。
私は恐る恐る紙を広げた。
「な――!」
上半分には写真、下半分には大きな文字で『槇田部長は枕営業をしている!』。
写真の写りはあまり良くないけれど、誰が何をしているのかはわかる。
雄大さんと春日野さんの抱き合う姿。
「昨日の……よね?」
「多分……」
「全社員にメールされてる」
「え?」
顔を上げると、真由が眉間に皺をよせて言った。
「……きっと、社長や副社長にも」
「うそ!」
「部長は部屋にはいなかったわ」
「どうして……」
どうしてこんなデマが――。
「馨、落ち着いて。昨夜、部長が春日野玲と会うことを知っていたのは誰?」
「え……?」
「部長に悪意を持った人間に偶然こんなところを見られた、なんて出来すぎでしょう」
「意図的に誰かが写真を撮ったってこと?」
「あくまでも可能性があるってことよ」
そんな……。
私はポケットのスマホを取り出し、雄大さんの番号に発信した。
呼び出し音が三回鳴り、今は電話に出られないとアナウンスが流れた。
雄大さん……。
「どうしよう……。真由の言った通りだ……」
私の偽善のせいで、雄大さんが――。
「馨……」
真由が心配そうに私を見る。
私は大きく深呼吸をした。
私がここで狼狽えても、意味はない。
「昨夜、雄大さんが食事に行くことを話したのは真由だけよ。ただ、真由を誘った時の会話を聞いてた人がいなかったとは言い切れない」
「あの時、そばに誰かいた……?」
昨日、私が真由を誘ったのは、雄大さんと社に戻ってから。給湯室で真由と会った時。
あの時、給湯室には私と真由の二人だったけれど、外に誰かいなかったかまでは気にしていなかった。
『雄大さんはデートなの』
私は言った。
『何よ? それ。浮気?』
『私がいいって言ったの』
『浮気していいって?』
『まさか。食事だけよ。仕事で付き合いのある人だし』
ふざけ半分にそんな会話をしたことを、悔やむ。
「確かに、あの時の私たちの話を聞いていれば、部長が仕事で関りのある女性と食事する、ことはわかったわね」
「けど、誰が聞いてたかなんて……」
私と真由、同時に思い出した。
「沖くん!」
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