愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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1.合コンで彼氏と鉢合わせ

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「お前らの相手の男、めっちゃハイスペじゃね?」

「そうね」

「奈都も気合入ってた」

「そうね」

「マジで……」

 鈴原くんにしたら、私は冷たい同期なんだろう。

 けれど、鈴原くんが慶太朗を庇うように、私も奈都が大事。

 そして、同じ女として、鈴原くんの迷いは許せない。

「俺の味方してくれとは言わないからさ」

 膝を抱えて、情けないほど小さく蹲った鈴原くんの頭上から、もう一度ため息を吐く。

「もう一度話を聞いてあげたら? って言うくらいよ」

「……サンキュ」

 私は鈴原くんをトイレ前の廊下に置き去りして、テーブルに戻った。

 戻ろうとした。

「美空さん」

 電話を終えたらしい峰濱さんが店の入り口横で手招きしている。

 彼に近づくと、親指でクイッと店の外を指さされた。

「?」

 ガラス戸の向こうを覗くと、慶太朗が小花ちゃんと抱き合っている。

「――っ」

「美空さんの恋人?」

「……だった人、です」

「女の子が強引に連れ出してたよ」

「そう……ですか」

「行かないの?」

「……」

 よく見ると、小花ちゃんが慶太朗に抱きついていて、慶太朗は少し困り顔。少し、だが。

 そして、顔を上げた小花ちゃんが慶太朗に何か言って、聞き取れなかったのか慶太朗が身を屈めた。

 そのタイミングでピョンッと飛び跳ねるように背伸びをした小花ちゃんの唇が、慶太朗の唇を捉えた。

「あ~あ……」

 峰濱さんが呟く。

 私も同じ気持ちだ。

「行って殴ってきたら?」

「……それは……スッキリしますかね?」

「どうかな」

「……手が……痛いだけのような気がするので、やめときます」

「そう? じゃあ、仕返しは?」

「え?」

 峰濱さんの手がすっと迷いなく私の頬に伸びてきて、触れた。

 ひやっとして思わず目を細める。

「仕返しに、俺とキスする?」

 グイッと顔が近づく。が、反射的に身体を引いた。

「しません」

 目を見開いてはっきりと言うと、彼がははっと小さく笑った。

 けれど、その表情は真剣そのもの。

 真っ直ぐに見つめられて、不覚にもドキッとしてしまう。

「美空さん、いい女だね」

「え?」

「また、会いたい」

「え?」

「二人きりで」


 なんだろう。なんだか……。


 ドキドキする。

 大人の男性の色気と余裕に、確かにドキドキはする。

 けれど、何かが冷たい。

 必死さというか熱っぽさがない。

 私に興味は持っていても、どこか冷静に観察されているような、そんな視線が落ち着かない。

「戻り……ましょ」

「うん」

 また会いたいと誘う割に、連絡先を聞かれるわけでも、返事を求められるわけでもない。


 からかわれた……?


 背を向ける前にドアの外を見ると、慶太朗が困った様子で小花ちゃんの手を解こうとして見えた。

 慶太朗はお調子者で、調子に乗り過ぎて痛い目を見ることもよくあるくらいお調子者。

 それでも、人を傷つけるようなことはしないし、陰口を言う人を嫌ったりする。

 私はそういう彼を好きになった。

 さっきの自己紹介だって調子に乗っただけ。

『調子に乗り過ぎよ、バカ』と許すべきかもしれない。

 けれどそうできないのは、奈都と鈴原くんが別れた原因が大きいのかもしれない。

 奈都と鈴原くんは、元々同期内では仲が良く、そうなるべくして付き合い始めた。

 というか、付き合い始めるのが遅かったくらいだ。
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