愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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2.別れ話

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「昨日は……木下たちに人数が足りないって言われて、仕方なく行ったんだ。ちょっと……、いやかなり調子に乗ったのは……悪かった! ごめん! でも、ほら! 場を盛り上げるためだけで、本気じゃない」

 わかってる。

 恋人としての付き合いは短くても、同期としての付き合いは六年だ。

 同期会でも、いつもバカなことを言って場を盛り上げてくれている。

「嘘を吐いたわ」

「……っ! それは……ごめん」

 一瞬、何かうまい言い訳はないかと考え、諦めて謝った。

 その一瞬が、私の決意を強固にする。

「私に見つかってからも、あの場を離れなかったし、小花ちゃんともいちゃついてたじゃない」

「あれは! 美空……が俺と付き合ってることバレたくないって言ってた……から……」

「大っぴらにしたくないって言ったのよ。バレたくないなんて言ってないわ」

「あそこでバレたら、大っぴらに……なるだろ?」

 引き攣った笑みで私を見る慶太朗。

 なんとか許してほしくて必死なのはよくわかる。

 けれど、私の気持ちは驚くほど動かない。

 シンッと張り詰めた空気に耐えられなくなった慶太朗が、ゆっくりと立ち上がる。

「鈴原が草下にフラれて、営業のみんなが心配してセッティングしたんだよ。気晴らしになったら、って」

 スーツの足元やコートの裾を払う。

「美空からメッセきた時、その説明をするのが面倒で接待だって嘘を吐いた。それは、本当に悪かったと思ってる」

 事実なのだろう。

 バレなければ言わなかった、という点は端折られているが。

 合コンくらいでどうこう言うつもりはない。

 私だって、昨日が初めてだけれど、行った。

 一度、ちゃんと報告を受けて、付き合いだから仕方がないと参加を許したことがある。

 あの時は、一次会の後で私の部屋ここに来た。

 本当にご飯を食べて少し飲んだだけだと、私に証明したくて。

 心配していたわけではなかったけれど、そういう慶太朗の誠意が嬉しかった。

 好きだと言われて、付き合って欲しいと、一度フラれたくらいじゃ諦められないと乞われて、付き合い始めた。

 手が触れるだけで顔を赤らめていた慶太朗。

 初めてのキスの時、あんまり緊張して手汗が酷いから、私まで異常にドキドキした。

 デートの後で、帰したくないと言おうとして『帰りたくない』と言った慶太朗。

 間違えたと涙目になっていた。

 なかなか思うように格好がつかなくて、それでも私を好きだと全身で伝えてくれる男性ひと

 私は確かに慶太朗を好きになった。


 確かに、好きだった……。


「ごめん、美空」

 慶太朗が一歩、私に近づく。

「もう合コンなんか行かない」

 もう一歩、近づく。

「嘘もつかない」

 もう一歩近づき、私の頬に手を伸ばす。

「俺には――」

「――キスしてたわ、小花ちゃんと」

「えっ!?」

 慶太朗の手は、私の頬に触れるか触れないかの場所で、止まった。

「キス、してたわ」

「ちが――っ」

「見たわ」

 慶太朗の手が私に触れずにだらんと落ちて、一緒に視線も落ちて、彷徨う。

 言い訳を、考えているのだろう。

 数秒沈黙し、その場に座り込む。

 この短時間で二度目の土下座。

「ごめんっ! でも、あれはサレたんだ。不意打ちで避けられなかったし、小花ちゃんも酔っていて――」

「――私もシタって言ったら?」

「え?」

「私が合コン相手とキスしたって、されたんだって言っても――」

「――したのか!?」

 勢いよく立ち上がったと思ったら、慶太朗が私の両肩をがっちりと掴んだ。

「キスしたのか!?」

「どうして? 慶太朗だってしたじゃない。どうして私だと――」

「――男と女じゃ違うだろ!」

 こういうところ、なんだと思う。
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