愛が全てじゃないけれど

深冬 芽以

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2.別れ話

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*****


「で? あの後、支倉くんからは?」

 昼休みの終わり頃にやって来た奈都に誘われて、フロアの端にある自動販売機の前まで行く。

 軽めに済ませたとはいえ、食事をしたら眠くなった。

 私はコーラを買って、その場で半分を飲む。

「言い訳聞いてたら寝不足? それとも、家まで来た?」

「ん~ん。日が変わってから電話きたけど無視した」

「あら」

 奈都はカップ式の自販機で紅茶を買う。

「そんな時間までナニしてたのかねぇ」

「なに、他人事みたいに言ってるの?」

「ん~……」

「怒るところでしょう?」

「だよねぇ」

「支倉くんのノリは今に始まったことじゃないでしょ? それとも、別れる気?」

「……」

 首を上げて天井を見ると、首がコキと鳴った。

 ふぅっと息を吐き、首を戻し、少し回す。

「昨日、トイレに立った時さ? 見ちゃったのよ。慶太朗が小花ちゃんとキスしてるとこ」

「……はぁ?」

 美人秘書らしからぬ低い声に、笑ってしまった。

「後ろでキスがどうとか騒いでたの、ホントだったの?」

「うん。まぁ、小花ちゃんの方が積極的な感じだったけど」

「それにしたって! なに考えてんのよ、支倉の奴」

「ホントにね」

「美空もよ! 一発でも二発でも殴ったの!? ポケ~ッと見てたわけじゃないでしょうね」

「見てた」

「どうして」

「なんか……ねぇ」

 残りのコーラを飲む。

 喉の奥がパチパチして、痛い。

「悶々として眠れないくらいなら、電話に出て怒鳴りつけてやればよかったじゃない!」

「うん」

 ペットボトルのラベルを外してキャップと一緒にゴミ箱に捨てた。

 ペットボトルはペットボトル用のごみ箱へ。

「私はマンション派だしね」

「はい?」

「慶太朗、言ってたじゃない。庭付きの一軒家が欲しいって」

「ああ」

「私は庭に興味ないし」

「あんなの本気じゃないでしょ。大体なんなのよ、自称エースって。目標年収って! 詐欺じゃない」


 詐欺……。


 慶太朗と詐欺、があまりにもミスマッチで笑える。

「笑い事じゃないわよ!? 支倉に詐欺なんてできたら、この世の終わりだからね?」

「そこなの!?」

 大笑いしていたら、午後の始業を告げるチャイムが鳴った。

「美空。私のせいであんたたちまで別れるとか、嫌よ」

「別れることになったとしても、奈都のせいじゃないわ」

「ちゃんと話しなさいよ。怒るなり殴るなり限界まで焦らすなりして、仲直りして」


 限界まで焦らす……。


 何より効果がありそうだ。

 ふざけたことを言っても、奈都が心配してくれているのはよくわかる。

「奈都もそうしたら良かったのに」

「私のことは――」

「――もう一度話を聞いてあげたら?」

「え?」

「ってくらいなら言ってあげるって、言ったの」

 皆まで言わずとも『誰に』かは奈都にも伝わり、彼女は苦笑いした。

「……確かに、言われた」

「ん」

 私の言葉で奈都がもう一度鈴原くんと話す気になるかは、別の話だ。

 同じように、奈都に別れるなと言われても、私がどうするかは私が決めること。

 実際、決まっていた。

 だから、眠気に負けずになんとか一日の仕事を終えて、コンビニ弁当を片手に家に帰った時、部屋の前に慶太朗がいても揺らがなかった。

「ごめん!」

 マンションの冷たい廊下に膝をつき、頭を下げる慶太朗を、いくら言ってもミスが減らない部下を見るように、見下ろす。
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