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3.好きだった男
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「じゃ、素敵なお店とマスターに乾杯」
「乾杯」
私と奈都は軽くグラスを重ねて乾杯し、グラスを口に運ぶ。
喉と鼻の奥にすぅーっと爽やかな香りが抜けていく。
「美味しい」
「うん」
「気分は?」
「うん?」
「おひとり様に戻った気分」
「ああ」
会話の邪魔にならないよう、無言でナッツの盛り合わせとクラッカーの皿を差し出された。
クラッカーを咥えて噛む。
「小花ちゃん、本気かしら」
「は? そっち?」
「うん」
私は合コンの店のトイレで小花ちゃんが友達と話していた内容を奈都に話した。
奈都はナッツをバリバリ言わせながら、テキーラサンライズをあっと言う間に飲み干す。
「あんな小娘にまで馬鹿にされるとは、別れて正解ね」
「やめてよ。同じ二十代で小娘とか。老け込んだ気分になる」
「でも、そうじゃない。ま、私たちの年齢でもいるけど? とりあえず適当な男で繋いどこうって女」
「気持ちが伴わない相手に割く時間と労力を考えたら、デメリットの方が大きい気がするけど、それでも一緒にいる相手が欲しいって頑張れるのは、ある意味若さよね」
「私たちとは根本的な考え方が違うのよ」
奈都がテキーラサンライズをお代わりする。
「男をきらしたくない女が大切なのは、ステイタスとセックスでしょ。本気で好きになった男がニートなら、他の男の金で養いそう」
「ホスト狂いの大半は風俗嬢だって、テレビで見たことあるな」
「そ! 同じよ」
「小花ちゃんもそうだってこと?」
「あの子は男を弄んで楽しむタイプ? 自分がいかにいい女かを証明するために、初対面の男とキスもするし、腕に胸を押し付けそう」
「ああ……」
実際、小花ちゃんは出会って一時間程度の慶太朗の腕に胸を押し付け、キスをした。
自分はできるだろうか? と考えて、考えること自体が無理だと思った。
「ひと目惚れやワンナイトを否定するつもりはないわよ? 始まりがどうであれ、結婚して添い遂げる人もいるだろうし。けどね? ほんのひと握りよ。まさに、奇跡」
「そうねぇ」
「要するに! あの子が支倉を気に入る理由がわからないってことよ」
「それ、元カノに言う?」
ふふっと笑いながら、モヒートを口に含む。
「だって、言える? 二十三? 四? の一般的な基準で言うところの可愛い子が、目標年収八百万の現在推定年収四百万の――」
「――さすがにもうちょっとあると思うけど」
「そう? そうね。腐っても営業部の自称エースだものね」
今夜は慶太朗と小花ちゃんネタから逃れられないようだと諦め、チョコレートを口に入れて噛むと、何かのナッツの歯ごたえがあった。
マカダミア? カシューナッツかな。アーモンドではないな。
チョコレートの舌触りというか溶け具合も好み。
「美味しい」
「そ? 良かった」
え?
声と共に私と奈都の間から顔を覗かせたのは、峰濱さん。
「峰濱さん? どうして?」
「吉良に聞いてない? 俺もよく来るんだよ」
「息切らして?」
奈都の言葉で、峰濱さんの首筋に汗が滲んでいることに気がつく。
彼は苦笑いして、そんな彼を奈都がじっと見つめる。
峰濱さんは気まずそうにジャケットを脱ぐと、私の隣の席、奈都とは反対の壁際の席にかけた。
「スコッチ、ロックで」とミノリさんに言い、椅子に座る。
すると奈都が立ち上がった。
「乾杯」
私と奈都は軽くグラスを重ねて乾杯し、グラスを口に運ぶ。
喉と鼻の奥にすぅーっと爽やかな香りが抜けていく。
「美味しい」
「うん」
「気分は?」
「うん?」
「おひとり様に戻った気分」
「ああ」
会話の邪魔にならないよう、無言でナッツの盛り合わせとクラッカーの皿を差し出された。
クラッカーを咥えて噛む。
「小花ちゃん、本気かしら」
「は? そっち?」
「うん」
私は合コンの店のトイレで小花ちゃんが友達と話していた内容を奈都に話した。
奈都はナッツをバリバリ言わせながら、テキーラサンライズをあっと言う間に飲み干す。
「あんな小娘にまで馬鹿にされるとは、別れて正解ね」
「やめてよ。同じ二十代で小娘とか。老け込んだ気分になる」
「でも、そうじゃない。ま、私たちの年齢でもいるけど? とりあえず適当な男で繋いどこうって女」
「気持ちが伴わない相手に割く時間と労力を考えたら、デメリットの方が大きい気がするけど、それでも一緒にいる相手が欲しいって頑張れるのは、ある意味若さよね」
「私たちとは根本的な考え方が違うのよ」
奈都がテキーラサンライズをお代わりする。
「男をきらしたくない女が大切なのは、ステイタスとセックスでしょ。本気で好きになった男がニートなら、他の男の金で養いそう」
「ホスト狂いの大半は風俗嬢だって、テレビで見たことあるな」
「そ! 同じよ」
「小花ちゃんもそうだってこと?」
「あの子は男を弄んで楽しむタイプ? 自分がいかにいい女かを証明するために、初対面の男とキスもするし、腕に胸を押し付けそう」
「ああ……」
実際、小花ちゃんは出会って一時間程度の慶太朗の腕に胸を押し付け、キスをした。
自分はできるだろうか? と考えて、考えること自体が無理だと思った。
「ひと目惚れやワンナイトを否定するつもりはないわよ? 始まりがどうであれ、結婚して添い遂げる人もいるだろうし。けどね? ほんのひと握りよ。まさに、奇跡」
「そうねぇ」
「要するに! あの子が支倉を気に入る理由がわからないってことよ」
「それ、元カノに言う?」
ふふっと笑いながら、モヒートを口に含む。
「だって、言える? 二十三? 四? の一般的な基準で言うところの可愛い子が、目標年収八百万の現在推定年収四百万の――」
「――さすがにもうちょっとあると思うけど」
「そう? そうね。腐っても営業部の自称エースだものね」
今夜は慶太朗と小花ちゃんネタから逃れられないようだと諦め、チョコレートを口に入れて噛むと、何かのナッツの歯ごたえがあった。
マカダミア? カシューナッツかな。アーモンドではないな。
チョコレートの舌触りというか溶け具合も好み。
「美味しい」
「そ? 良かった」
え?
声と共に私と奈都の間から顔を覗かせたのは、峰濱さん。
「峰濱さん? どうして?」
「吉良に聞いてない? 俺もよく来るんだよ」
「息切らして?」
奈都の言葉で、峰濱さんの首筋に汗が滲んでいることに気がつく。
彼は苦笑いして、そんな彼を奈都がじっと見つめる。
峰濱さんは気まずそうにジャケットを脱ぐと、私の隣の席、奈都とは反対の壁際の席にかけた。
「スコッチ、ロックで」とミノリさんに言い、椅子に座る。
すると奈都が立ち上がった。
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