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3章 闇のなか
3-4 包装資材
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「ビロビロを集めた一室。もうそろそろ、ここもいっぱいになるところだったよー」
クトフが扉を開けた。
みっちりとビロビロが一室に詰まっている。一応綺麗に洗って干してから保管されている。
このビロビロも冒険者ギルドが買い取ってくれないものだ。
ある魔物の一部であるが、見た目は大きい分厚めのビニールみたいなものだと思ってもらって構わないだろう。
用途もビニールのようなもの、かな?
砦の冒険者たちがこの部屋から引っ張り出して、必要に応じて敷物やテントにするために適当に使っている。収納鞄を持っていない冒険者が魔物を運ぶのにも使われる。けれど、討伐数に比べてそこまで必要になるものではない。このビロビロは意外と丈夫だ。使い回しができる。
この魔の大平原には雨が降らない。
ここではレインコートとか傘とかは魔物討伐には必要ない。魔の大平原では雨具は必携ではない。血の雨は降るので本人の選択による。
砦から街の方の外に出ると、雨も降るから必要なんだが、雨が降っているときは冒険者もあまり街の方へ出ない。
魔物の販売許可がないと売れないものは、便利なものがあっても街の住民には売れない。。。
というわけで、冒険者ギルドに売れなかったものは砦の在庫になる。砦には部屋が余っているので、腐らないものはとりあえず保管なのである。
腐りやすいものは魔物の内臓であるが、料理したり塩漬けしたりして、夜、冒険者たちの酒のおつまみに出しているようだし。クセがあるものは好みがわかれるので、酒と同じく別料金の料理だ。
「コレ、長時間茹でて細目に切ると、コリコリ感が出るから、濃い目の味付けで食べると美味しいよ」
中華クラゲのようで触感は良いのだが味が全然ないので、味は足さなければならない。
クロがどんな魔物も全部食べ物だよー、と言っていたので試してみた。
「うわ、リアム、コレ、食ったことあるのか」
「うん、コリコリ感は良いんだけどねー。味はない」
「へー?包装している包みも料理できますって書こうか?」
「どこに置いたものか誰が触ったかわからない外装を、お前は料理して食べるか?」
「やめておくか。知りたそうな奴にこっそり耳打ちする程度にするか」
どうやってそれを見分けるの?クトフ君?反対にその判別方法を知りたいなあ。
ビニールっぽいから、魔物肉を包むのはコレで良いだろう。パックにしておくものと、量り売りするものとわけても良いかな。高級感を出すならパックの上、箱詰めだろうな。
「最初は生肉と多少の加工品を販売したいと思っているんだけど、加工品の方は朝夕の厨房にあまり負担にならないのを考えて欲しいんだ」
「そうだね。日持ちするものなら、時間があるときに作っておけるからねー。考えておくー」
で、クトフ、何でお前もビロビロを何枚も持っているのかな?
俺は包装にどう使うか試行錯誤するために持って行くんだけど。
「え?コレが食材なら、一度は食べておこうと思って」
料理人かっ、料理人だったー。
にょっ。
クロが管理室に顔を出した。
「あ、もう昼か」
「リアムー、何やってるのー?」
机の上には小さく切ったビロビロが存在する。見てもわからないよな。
周りを熱で溶かして接着すれば袋は簡単にできる。真空パックにしたいけど、多少空気を抜くぐらいでも良い気がする。魔道具でも作れないだろうか、という試行錯誤の結果が机の上に。
「お弁当は砦長室だ」
俺の言葉を聞くと、クロが二ヨっとした。
「うーん、今、リアムが砦長室に行くと、お昼を食べられなくなるよー」
「え?何で?ナーヴァルさんが俺に頼む仕事をためこんでいたとか?」
「だってー、街に補佐を走らせたんでしょー。詳しいことを聞きたいヤツらがうじゃうじゃと砦長室に押しかけているよー」
んー?
まだ資料も何も作ってないんだけどー。
正式な説明会を開いた方が良いかなー?
補佐は皆にどんな説明したんだろう。うじゃうじゃといる時点で恐ろしいわ。
「兄上ー」
ひょこっと弟アミールが管理室に現れた。
「おお、アミール、今、砦長室に行こうと思っていたところだったんだけど」
「お弁当持ってきました。あっちはすごい人だったので、食べる場所もないかと」
「おおーっ、弟くんもリアムに似て察するようになってきたねー。えらいぞー」
クロがアミールを褒めた。アミールが照れている。
俺はクロが褒めても素直に褒めている気がしない。小ばかにしている気がするのはなぜだろう。表情のせいか?
「とりあえず静かな昼食をとるために、場所を移動するか」
きっとここにもすぐにナーヴァルか誰かが押しかけて来るに違いない。
昼食後に対応しよう。
んで。
「洗濯場って何でー」
「そういやちょうど良いテーブルやイスがあるなと思って」
E級、F級冒険者は子供たちが多い。洗濯場等、子供たちが多く使うようなところは子供が使いやすいサイズのものもある。厨房にも食堂にも存在する。
洗濯が終わっていれば、洗濯場には誰もいない。
さすがに三歳児のアミールにちょうど合うイスは存在せず、クッションを重ねてどうにかなるぐらいのものだ。
弁当を広げると、またクロが二ヨっとした表情になった。
「クロ?」
「んー、リアムって弁当をリーメルのために作っていたじゃん。僕のために作ってくれるのかなーって思ってた」
クロにとってはどういう意味合いの言葉だったのだろう。
俺には、ズンっと重い何かがカラダに覆い被さった感じがした。
クロはいつものように子供用フォークで自分の好きなものを選んで食べる。
アミールは自分で取って食べていた。
俺は近くにあった塩むすびを取ってゆっくり食べていた。
「兄上、もう少し何か食べた方が」
「魔の大平原に出ずに、今まで座っていたから、そんなにお腹が空いてないんだ。クロは?」
「僕はもうお腹いっぱいー。ごちそうさまー」
クロは洗濯場から消えた。
今日はお弁当がけっこう残ってしまったな。
俺が食べなければ、そうなるか。体格からいっても、この中で一番食べるのは俺だ。
「アミールは?」
「おむすび、もう一つ食べます」
アミールは少しでも口に入れようと頑張ってくれた。
そういえば、弁当も状態保存の収納鞄の中に入れておけば悪くならない。
忙しければ、何も考えずに済む。
感覚を麻痺させることができる。
けれど、ふとした瞬間に我に返るのだ。
母上はもういないのだと。
砦にいても、母上は魔の大平原から戻って来ないのだと。
アミールと洗濯場から管理室に戻ると、メモ書きが置かれていた。
至急、砦長室に来られたし。ナーヴァル
「、、、俺は砦長室に行ってくる。アミールはどうする」
「砦長室はまだ人が多そうなので、こちらで待ってます」
「じゃあ、行ってくる」
俺は三階にある砦長室に向かう。
砦長室の前にも人だかりができている。
補佐はどうやって声を掛けたんだろう?良いことばかり言ったのだろうか?
「あの、すいません。通りたいのですが」
「横入りはっ、って坊ちゃんっ。失礼しました。どうぞどうぞ」
街の人たちが俺に気づくと、横に寄り砦長室の中に入れてくれた。
中にはナーヴァルに仕事を押しつけて砦長室から出ていった補佐も戻っている。
ナーヴァルは何人にも詰め寄られている。
「この人数、どうしたの?」
「いや、どうもこうも、リアムさんが魔物の販売許可証を砦で取得したと言ったら、詳しい話が聞きたいと来てくださいまして」
「他には何て説明したの?」
「魔物肉と加工品の販売ができるって言いました」
「他には?」
「え?それだけですが」
え?それだけでこんなにいるの?
あ、反対に説明がなさ過ぎて、押しかけて来たってところか?
儲け話だったら、自分だけ聞かないのももったいないからな。
「第一会議室はっ?」
「空いてますっ」
「では、皆さんを第一会議室に通して、椅子に座ってもらって」
補佐三人が近くの第一会議室に街の住民の皆様を誘導した。そこなら全員入っても余裕があるだろう。
ナーヴァルに水を渡す。ごくごくと一気に飲むとようやく息を吐いた。
「あー、助かった。俺は何も知らんっと言っても、詳しく話せーっの一点張りだ、アイツら」
「いや、説明資料を作る前に飛び出したら、そうなるよね。反対に説明がなさ過ぎだから詰め寄られたんだよ、キミたち」
熱意だけで人を呼べるのも、ある種の才能だが。
クトフが扉を開けた。
みっちりとビロビロが一室に詰まっている。一応綺麗に洗って干してから保管されている。
このビロビロも冒険者ギルドが買い取ってくれないものだ。
ある魔物の一部であるが、見た目は大きい分厚めのビニールみたいなものだと思ってもらって構わないだろう。
用途もビニールのようなもの、かな?
砦の冒険者たちがこの部屋から引っ張り出して、必要に応じて敷物やテントにするために適当に使っている。収納鞄を持っていない冒険者が魔物を運ぶのにも使われる。けれど、討伐数に比べてそこまで必要になるものではない。このビロビロは意外と丈夫だ。使い回しができる。
この魔の大平原には雨が降らない。
ここではレインコートとか傘とかは魔物討伐には必要ない。魔の大平原では雨具は必携ではない。血の雨は降るので本人の選択による。
砦から街の方の外に出ると、雨も降るから必要なんだが、雨が降っているときは冒険者もあまり街の方へ出ない。
魔物の販売許可がないと売れないものは、便利なものがあっても街の住民には売れない。。。
というわけで、冒険者ギルドに売れなかったものは砦の在庫になる。砦には部屋が余っているので、腐らないものはとりあえず保管なのである。
腐りやすいものは魔物の内臓であるが、料理したり塩漬けしたりして、夜、冒険者たちの酒のおつまみに出しているようだし。クセがあるものは好みがわかれるので、酒と同じく別料金の料理だ。
「コレ、長時間茹でて細目に切ると、コリコリ感が出るから、濃い目の味付けで食べると美味しいよ」
中華クラゲのようで触感は良いのだが味が全然ないので、味は足さなければならない。
クロがどんな魔物も全部食べ物だよー、と言っていたので試してみた。
「うわ、リアム、コレ、食ったことあるのか」
「うん、コリコリ感は良いんだけどねー。味はない」
「へー?包装している包みも料理できますって書こうか?」
「どこに置いたものか誰が触ったかわからない外装を、お前は料理して食べるか?」
「やめておくか。知りたそうな奴にこっそり耳打ちする程度にするか」
どうやってそれを見分けるの?クトフ君?反対にその判別方法を知りたいなあ。
ビニールっぽいから、魔物肉を包むのはコレで良いだろう。パックにしておくものと、量り売りするものとわけても良いかな。高級感を出すならパックの上、箱詰めだろうな。
「最初は生肉と多少の加工品を販売したいと思っているんだけど、加工品の方は朝夕の厨房にあまり負担にならないのを考えて欲しいんだ」
「そうだね。日持ちするものなら、時間があるときに作っておけるからねー。考えておくー」
で、クトフ、何でお前もビロビロを何枚も持っているのかな?
俺は包装にどう使うか試行錯誤するために持って行くんだけど。
「え?コレが食材なら、一度は食べておこうと思って」
料理人かっ、料理人だったー。
にょっ。
クロが管理室に顔を出した。
「あ、もう昼か」
「リアムー、何やってるのー?」
机の上には小さく切ったビロビロが存在する。見てもわからないよな。
周りを熱で溶かして接着すれば袋は簡単にできる。真空パックにしたいけど、多少空気を抜くぐらいでも良い気がする。魔道具でも作れないだろうか、という試行錯誤の結果が机の上に。
「お弁当は砦長室だ」
俺の言葉を聞くと、クロが二ヨっとした。
「うーん、今、リアムが砦長室に行くと、お昼を食べられなくなるよー」
「え?何で?ナーヴァルさんが俺に頼む仕事をためこんでいたとか?」
「だってー、街に補佐を走らせたんでしょー。詳しいことを聞きたいヤツらがうじゃうじゃと砦長室に押しかけているよー」
んー?
まだ資料も何も作ってないんだけどー。
正式な説明会を開いた方が良いかなー?
補佐は皆にどんな説明したんだろう。うじゃうじゃといる時点で恐ろしいわ。
「兄上ー」
ひょこっと弟アミールが管理室に現れた。
「おお、アミール、今、砦長室に行こうと思っていたところだったんだけど」
「お弁当持ってきました。あっちはすごい人だったので、食べる場所もないかと」
「おおーっ、弟くんもリアムに似て察するようになってきたねー。えらいぞー」
クロがアミールを褒めた。アミールが照れている。
俺はクロが褒めても素直に褒めている気がしない。小ばかにしている気がするのはなぜだろう。表情のせいか?
「とりあえず静かな昼食をとるために、場所を移動するか」
きっとここにもすぐにナーヴァルか誰かが押しかけて来るに違いない。
昼食後に対応しよう。
んで。
「洗濯場って何でー」
「そういやちょうど良いテーブルやイスがあるなと思って」
E級、F級冒険者は子供たちが多い。洗濯場等、子供たちが多く使うようなところは子供が使いやすいサイズのものもある。厨房にも食堂にも存在する。
洗濯が終わっていれば、洗濯場には誰もいない。
さすがに三歳児のアミールにちょうど合うイスは存在せず、クッションを重ねてどうにかなるぐらいのものだ。
弁当を広げると、またクロが二ヨっとした表情になった。
「クロ?」
「んー、リアムって弁当をリーメルのために作っていたじゃん。僕のために作ってくれるのかなーって思ってた」
クロにとってはどういう意味合いの言葉だったのだろう。
俺には、ズンっと重い何かがカラダに覆い被さった感じがした。
クロはいつものように子供用フォークで自分の好きなものを選んで食べる。
アミールは自分で取って食べていた。
俺は近くにあった塩むすびを取ってゆっくり食べていた。
「兄上、もう少し何か食べた方が」
「魔の大平原に出ずに、今まで座っていたから、そんなにお腹が空いてないんだ。クロは?」
「僕はもうお腹いっぱいー。ごちそうさまー」
クロは洗濯場から消えた。
今日はお弁当がけっこう残ってしまったな。
俺が食べなければ、そうなるか。体格からいっても、この中で一番食べるのは俺だ。
「アミールは?」
「おむすび、もう一つ食べます」
アミールは少しでも口に入れようと頑張ってくれた。
そういえば、弁当も状態保存の収納鞄の中に入れておけば悪くならない。
忙しければ、何も考えずに済む。
感覚を麻痺させることができる。
けれど、ふとした瞬間に我に返るのだ。
母上はもういないのだと。
砦にいても、母上は魔の大平原から戻って来ないのだと。
アミールと洗濯場から管理室に戻ると、メモ書きが置かれていた。
至急、砦長室に来られたし。ナーヴァル
「、、、俺は砦長室に行ってくる。アミールはどうする」
「砦長室はまだ人が多そうなので、こちらで待ってます」
「じゃあ、行ってくる」
俺は三階にある砦長室に向かう。
砦長室の前にも人だかりができている。
補佐はどうやって声を掛けたんだろう?良いことばかり言ったのだろうか?
「あの、すいません。通りたいのですが」
「横入りはっ、って坊ちゃんっ。失礼しました。どうぞどうぞ」
街の人たちが俺に気づくと、横に寄り砦長室の中に入れてくれた。
中にはナーヴァルに仕事を押しつけて砦長室から出ていった補佐も戻っている。
ナーヴァルは何人にも詰め寄られている。
「この人数、どうしたの?」
「いや、どうもこうも、リアムさんが魔物の販売許可証を砦で取得したと言ったら、詳しい話が聞きたいと来てくださいまして」
「他には何て説明したの?」
「魔物肉と加工品の販売ができるって言いました」
「他には?」
「え?それだけですが」
え?それだけでこんなにいるの?
あ、反対に説明がなさ過ぎて、押しかけて来たってところか?
儲け話だったら、自分だけ聞かないのももったいないからな。
「第一会議室はっ?」
「空いてますっ」
「では、皆さんを第一会議室に通して、椅子に座ってもらって」
補佐三人が近くの第一会議室に街の住民の皆様を誘導した。そこなら全員入っても余裕があるだろう。
ナーヴァルに水を渡す。ごくごくと一気に飲むとようやく息を吐いた。
「あー、助かった。俺は何も知らんっと言っても、詳しく話せーっの一点張りだ、アイツら」
「いや、説明資料を作る前に飛び出したら、そうなるよね。反対に説明がなさ過ぎだから詰め寄られたんだよ、キミたち」
熱意だけで人を呼べるのも、ある種の才能だが。
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