解放の砦

さいはて旅行社

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3章 闇のなか

3-20 騒ぐ客は速やかに対処しましょう

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 極西の砦として商売が開始して、それぞれの店もほどほどに売上が上がってきている。
 一次募集の店や工房は冒険者相手の商売だったので、売上の問題はなかった。
 冒険者以外の他の客が砦に来るのだろうか?という課題が砦には残されていたのだが、今は砦の中に入る店も第四次募集をかけている。魔物の素材を加工する商売ではないが、冒険者や街以外の客相手に砦で売りたいと思う店も増えてきた証拠だ。
 冒険者も普通に洋服とか生活雑貨とか嗜好品とか購入するからな。砦で買えるならありがたい、と思う冒険者もいるだろう。ギャンブル等の店は入れる気はないのだが、冒険者に娯楽を提供する施設も考えてもいいかもしれない。
 が、居酒屋は砦の外にあった方がいい。砦の食堂のように酒の販売本数制限とかできるわけではない。冒険者も酔っぱらいたい夜もあるだろう。それでも、砦で冒険者の酔っぱらいなど世話できるか。手慣れている居酒屋の店主に任せておく方がいい。

 街の外れにある保養地の貴族に仕えている使用人たちがこっそり見に来ている。私服でもかなり身なりがいいので、本人はバレていないと思っていても非常にわかりやすい。
 となると、そこに出入りしている他領の商人たちが話を聞き、砦に目をつける。
 砦の商品は魔物の素材を使っている割に格安。買い占めて王都や都市で売れば、それだけでいい商売になる。
 だが。

「私が誰だか知っているのかっ。大商会の商会長だぞっ」

 爺が砦の販売員に大声で叫んでいる。
 知らんがな。そもそも肩書をひけらかしている時点で大商会ではない。うん、隣の領地の小さい商会だった。
 この商会は魔物販売許可証を取得しているわけではないから、大商会の傘下に入って名を借りて魔物加工品の販売をしているのだろう。

「この砦にある商品をすべて買い取ってやろうと言っているのだ。ありがたく思え」

 思うわけないだろう、この馬鹿。
 この砦の商品は良心価格。冒険者のための価格と言っても良い。
 お付きの人たちもこの爺をとめる様子がない。
 三階玄関はまるで前世のショールーム張りの夢の空間に仕上がっている。ビロビロを綺麗に天井やら壁やらに配置しており、商品も展示品も美しく見えるように飾っていて、ほどほどのソファを休憩用に壁際に置いていたりする。上質な空間を彩っている。
 そのソファにジジイが踏ん反り返っている。
 辺境の砦だと思ってタカをくくっている。三階玄関で商品や展示品を見ている他の客も遠巻きに見ているだけだ。

 三階玄関に配置していた販売員の一人が俺を砦長室に呼びに来た。
 D級以上の冒険者で、販売業を一度やってみたいと思う者がいないか砦内でアルバイト募集をかけた。毎日ではなく、小遣い稼ぎに一週間に一、二日くらい気晴らしにやってみないかーいというお誘いだ。なぜE級、F級は除外なのかというと、この砦にいるのはだいたい成人に満たない子供だからである。砦の顔となる玄関先の販売員としては不適格。
 玄関には最低二人以上の販売員の配置にしており、何かあったときも一人が砦長室に呼びに行けるからだ。砦長室には砦長がいなくとも補佐がいる。誰かしらいる。隣の部屋から並んでいる他の工房や店になぜ助けを呼ばないかというと、力で勝てるのが冒険者だからだ。

 で、口で勝てるのは、俺。そもそも、玄関から入場した時点で誓約魔法がかかる。俺の優位になっている。

「お客様、本日は極西の砦にご来店いただきましてありがとうございます。私がこちらの魔の大平原の砦の管理者であり、魔物販売許可責任者でございます」

 何だ、責任者が子供か、という視線を爺からいただきました。

「私はこのメルクイーン男爵領を治めるメルクイーン男爵家の三男、リアム・メルクイーンと申します。以後、よろしくお願い致します」

 踏ん反り返っていた爺がいきなり立ち上がった。
 コイツ自身は貴族ではないとの証明のような行動だ。いつかは平民になるかもしれない三男でも、今は成人前。子息に失礼なことをしたら親が動く危険性は高い。うちは絶対にクソ親父が動くことはないけどー。
 でっもー、魔の大平原の砦の管理者と言っている時点で気づいてほしかったなー。つまり、情報はその程度の商会長なのである。
 小さくともピリリと光る商会とお知り合いになりたい。
 
「この砦の商品の価格は現在、メルクイーン男爵領の領民だからこそのサービス価格となっております。けれど、他の領地から来られた方々にも、砦の良質な商品を知ってもらいたいということで一日一グループ様五品限りでこの価格で販売しております」

「ははは、さすがに五品では良い商品でも」

「大商会の商会長と称されるお方なら、玄関先に貼られている誓約を全文お読みになられたかと思います」

 読んでないと思うけど。
 爺の顔が渋くなったので、予測通り読んでない。
 本来なら、商会の人間が自分に不利になるかもしれない誓約内容を読まないわけがないのだ。

「他の商会には適正な卸価格をご提示させていただいております。皆様方は王都や各都市では適正価格で販売されるのでしょうから、それなりの数を納めさせていただく代わりに、それなりの金額を頂戴いたしております。まあ、毎日、砦に赴いて五品ずつご購入されるのも一つの手ですが」

 そこまでやるなら、俺もとめない。毎日買いに来る手間を考えると、あまり良い手ではない。
 すべて買い取ってやろうというのは、ここにあるすべて買い取ってこそかなりの儲けが出るということである。五品ずつチビチビと購入していたのでは採算が取れない。
 商会相手の卸価格の方が高いという、前世とは逆を行っている砦の販売方法である。普通は卸価格の方が安くなるはずなのにね。

 にっこりと爺に笑顔をくれてやる。

「大商会の商会長と呼ばれるお方なら、お互いに利益のある商取引を長く続けているものと思います。だからこそ、大商会として名高いのでしょう。まず、本日は五品をお買い求めいただき、我々の砦の商品を今後卸価格で購入し続けるかどうか、商会でご検討されるのもよろしいかと思いますが」

「そ、そうだな。今日はサンプルとして五品購入し、一度商会に戻り、いろいろと検討させていただく」

 はい、さようならー。
 逃げ道はしっかり用意しておく。
 この引け際で引き下がらない客は暴力で捻じ伏せようとするが、ここは魔の大平原の砦。護衛よりも強い冒険者が大量にいることを忘れてはならない。

 そう、俺の後ろに砦長のナーヴァルが立っているしね。。。無言は怖いよ。この爺、俺の言葉じゃなくて、ナーヴァルの圧に負けたんじゃない?五品選んで購入し、さっさとお連れの人々を連れて帰って行ったよ。

 三階玄関で販売員二人だけというのは商品の説明をしないからだ。商品の説明は説明書きを横に置いてあり、制作者名と部屋の番号も書いている。玄関から先に各工房や店が入っている部屋が並んでいる。それらの店は扉が開いているのなら、開店してます。扉が閉まっているのなら、客の出入はお断りのサインである。詳細な説明や値段交渉を直接したいのなら、そちらで応相談である。もちろん他領の人間は一日五品以内に縛られる。
 
 店舗数が増えているので、ゆっくりと店を回るなら、一日砦で潰せる。三階の超絶広い大広間も解放しており、そこから繋がるバルコニー部分にも出れる。
 ビロビロによる簡易的な広いサンルームみたいなものをバルコニーの一画に作った。客も魔の大平原をそこから眺めることができる。オープンカフェのようなスペースだ。いつか、そこでお食事会とかもしたいな。
 今でも、砦の魔物肉は生肉とその加工品の他に、昼時には魔物肉が入った高級弁当を売っている。バルコニーや大広間で食べている人たちがいる。
 弁当ならクトフの大きな負担になりにくい。作るのはクトフたちであっても、売るのは誰でもいいからだ。
 酒や飲み物が欲しいなら酒屋もある。魔物入りの酒も売られている。
 酒屋の目玉商品は大きな瓶に人間の大人サイズの蛇型魔物を漬けた酒である。悪趣味である。魔物を魔法で綺麗なまま仕留めたのは俺だけど。。。
 大きく口を開けた状態で瓶に入っているので、購入する客はいないだろうが、インパクトはある。店の大きな飾りだと言っても良い。泣く子供も多いが。
 酒屋は弁当を食べる時間に酒や飲み物を売って、ちょうど良い商売をしている。

「あー、坊ちゃん、もう一人、お前に挨拶したいって視線を送っている客がいるぞ」

「え?」

 砦長室に戻ろうとした俺をナーヴァルが呼び止めた。
 そこにはにっこりと微笑む青年が立っていた。

 あ、このにこやかな笑みはヤバい。警戒警戒。
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