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5章 必要とされない者
5-2 成人したら家を出よう
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「もうリースには俺なんか必要ないのだろうか」
飛躍し過ぎだな。
まだまだリースには金がかかるお年頃だ。
成長するので、カラダに合う新しい服や靴、装備等が必要になる。
砦にいる孤児には、洋服や雑貨等の現物の寄付がある。それらを優先的に回す。また、当番以外の砦の手伝い業務としてアルバイトもしてもらっている。
親がいるE級、F級冒険者の場合、親の援助がなければ基本的に成り立たない。砦の滞在費等は無料であっても、自分が欲しいもの、洋服、装備等は親のお金だ。砦への寄付でもその本人宛ではない限り、孤児が優先されるので、事情を勘案しなければならない者以外は寄付された服等が与えられることはない。
D級冒険者あたりになれば、砦では親の金をアテにせずに暮らしていく術を学ぶ。成人する頃にはC級、D級冒険者になっている者が多いので自立する。
「お金が必要だから、まだまだビーズは必要だろう」
「おお、親は金蔓なのか」
クトフも俺特製のオムライスを食べながら、話を聞いている。
クロとシロ様はうまうま言いながらオムライスを頬張っているので、俺たちの話を聞いているのかは不明だ。
コイツら、ほぼ毎日オムライスで飽きないのかな。この昼食何年続いているんだ?
俺は食べられるなら何でも美味しいけど。
「俺は金蔓だったのか」
「金を払えるのは重要なことだ。うちのクズ親父なんか俺に家事を全部押し付けておきながら、生活費を一銭も払おうとしなかったんだぞ」
ふと思うと、ビーズに的確なアドバイスができる者がこの場にいないな。
俺の家庭環境は悲惨だし、クトフは孤児だ。クロとシロ様は人間の生活のことなんかどうでもいい。
「お前は男爵家の坊ちゃんじゃないのか?俺が知っている貴族様と全然違って、環境がおかしいんだが」
「貧しい貧しい男爵家は使用人も雇えないんだ。と言ってもやりようはあるんだが。あのクズ親父がすべて悪い。話し始めると永遠に俺は毒を吐き続けるから、ビーズとリースの方に話を戻すことをお勧めする」
「お勧めされてしまったかー。もう少し聞いていたかったけど。その辺はおいおい教えてくれ。力になれることもあるかもしれん。で、リースは気になる子でもできたのではないだろうか」
「わー、親が介入するととんでもなく拗れる話題が来たー」
親が子の色恋沙汰に干渉していいのは、この世界では貴族だけだ。
貴族以外はこの国では恋愛結婚の方が多くなっている。出会いがほとんどない場合に見合いが使われる。
貴族は高位の貴族になればなるほど政略結婚である。この世界は魔法が深くかかわるので、貴族でA級以上の魔導士なら婚約話は山のように振って来るらしい。成人前よりかなり早めに教会に行って、級の判定する儀式をやってもらう者もいるくらいだ。
そういや、俺も十四歳か。本来なら、貴族の子は教会で魔導士の級の判定する儀式を受けに行かなければいけないのだが、金がかかる。
放っておくか。
どうせ、クズ親父は俺の年齢なんか覚えていないだろうし。
「うーん、ビーズさん、何かリースにその兆候がありました?」
「勘」
「、、、勘かあ」
俺とクトフは顔を見合わせる。冒険者の勘は馬鹿にできないとはいえ、下手に親に干渉されたらリースが可哀想だ。
「ただ、あのぐらいの年齢なら憧れとか、尊敬とかもあり得るかも」
「だねー。リースも十二歳かあ。砦の三階で弁当の売り子もしていたことがあるから、街の子という可能性もあるよな。良いなー」
「、、、リアムは何が良いんだ?」
不思議そうな表情でビーズが俺を見た。
「そういう出会いがあって良いなーと思って。俺は仕事三昧だから出会いもないしモテないし縁談話もない」
「、、、」
沈黙での返答って、慰めようがないってことか?
「リアム、それなら俺のところに嫁に来い」
スッパーン。
ビーズがハリセンでクロとシロ様に叩かれた。クロとシロ様は戦力過剰なので大きな厚紙で作ったハリセンを渡してみたら、面白がって使っている。この世界には扇子とかはあっても、こういうハリセンはないらしい。
「リアムは僕の嫁だから駄目ーっ。他をあたってくださいーーーーっ」
「そうだぞ、私の嫁だ。パッと出の人間が軽々しく口にするな」
クロに感化されたのか、この頃はシロ様も嫁発言するようになってきた。クロとシロ様は対立しないので、俺は二人の嫁候補なのか。嫁、って断言されているけど。コレ聞いた人間が勘違いしているから、俺はモテないんだろうな。
砦の守護獣様に逆らう人間はこの地域一帯にはいない。
「うわー、ビーズは再婚する気なのか。せめてリースが独立してから考えたら?」
「リアムは父親が再婚することは反対なのか?」
「クズ親父に嫁が来たら、俺が家事をやらなくて済む。成人してなくても、俺が家にいなくても済むのなら、さっさと砦に本拠地を移したい」
「お、リアムは十五歳になったら砦に来る予定なのか。そういうこと気にしないと思っていたんだが」
「仕方ないだろ。この国は成人するまでは親の管理下に子は置かれる。あのクズ親父は俺が砦に住もうが関係ないが、家の家事がされていなければ怒鳴りこんで来るんじゃないか?クズだから。だから、成人までは大人しくしておいて、独立してしまえば後は何の問題もない」
「成人したら、仕事上関係のない親は子供に口出しできないからな」
ビーズは頷いた。
そう、この国では成人したら、冒険者の母上なら冒険者の俺にも口出しできる。永遠に口出ししてほしかった。
だが、冒険者ではないクズ親父は冒険者の俺には命令できなくなる。
親子であり、同じ職業で師弟関係のあるような場合は、子は親が亡くなるまで口うるさく言われる。
違う職業に就いた子供は、親子関係は確かに存続するが、親は子に干渉できなくなる。違う職業、つまり子供は違う師についていると見なされるので、違う指示が来ると困るわけだ。つまり、迷ったら実の親の方を切り捨てろ、ということだ。
この国では基本的に子は親の職業を継ぐ。継がなかったのはそれなりの理由があったからこそだ。子供は成人するまで違う職に就くために腕を磨いてきたのだ。もしその理由がなくなったとしても、はいそうですか、と親に従える子供もいない。
あまりにも楽して儲けられる仕事でもない限りは。
そういう仕事ってほとんどないからねえ。
「クズ親父も二人のクソ兄貴にも嫁は来ないだろう。母上の状況をこの領地の人たちは知っているからな。家事も仕事も押し付けられてまでこの過酷な男爵家に嫁ぐ女性はいない」
「それなら、リアムに今まで通り家事をやってくれー、とか言うんじゃないか?」
「十五までは言われた通りやるしかないが、独立した子はそれ以上家事をする義務もない」
「そうだなー。成人して独立しても家事を頼まれたら、報酬を請求できるなー」
親の介護はどうするんだ、という声が聞こえてくるが、コレは仕事も家も継いだ子の責任になる。仕事の面倒も長年見てもらっておいて放り出すことは世間が許さない。たとえ、親が鬱陶しくても、役立たずであったとしても。
「ん?」
うんうん頷いていたビーズがとまった。
「どうした、ビーズ」
「うーん、成人前でも何か例外があったような気がするけど、何だっけ?」
ビーズが首を捻っている。
思い出さないということは、そんなに重要なことでもないのだろう。
「ま、俺は十五歳になるまでは大人しく生きているわけだ」
「大人しく、ねえ」
ビーズよ、何か言いたいことでもあるのかなあ?
「誰も貰い手がいなければ、俺が嫁にもらってやるから安心しな、リアム」
ビーズが二カッと笑う。
A級冒険者だから稼ぎは良いんだけどな。。。
ビーズはクロとシロ様にハリセンで頭を叩かれていた。
飛躍し過ぎだな。
まだまだリースには金がかかるお年頃だ。
成長するので、カラダに合う新しい服や靴、装備等が必要になる。
砦にいる孤児には、洋服や雑貨等の現物の寄付がある。それらを優先的に回す。また、当番以外の砦の手伝い業務としてアルバイトもしてもらっている。
親がいるE級、F級冒険者の場合、親の援助がなければ基本的に成り立たない。砦の滞在費等は無料であっても、自分が欲しいもの、洋服、装備等は親のお金だ。砦への寄付でもその本人宛ではない限り、孤児が優先されるので、事情を勘案しなければならない者以外は寄付された服等が与えられることはない。
D級冒険者あたりになれば、砦では親の金をアテにせずに暮らしていく術を学ぶ。成人する頃にはC級、D級冒険者になっている者が多いので自立する。
「お金が必要だから、まだまだビーズは必要だろう」
「おお、親は金蔓なのか」
クトフも俺特製のオムライスを食べながら、話を聞いている。
クロとシロ様はうまうま言いながらオムライスを頬張っているので、俺たちの話を聞いているのかは不明だ。
コイツら、ほぼ毎日オムライスで飽きないのかな。この昼食何年続いているんだ?
俺は食べられるなら何でも美味しいけど。
「俺は金蔓だったのか」
「金を払えるのは重要なことだ。うちのクズ親父なんか俺に家事を全部押し付けておきながら、生活費を一銭も払おうとしなかったんだぞ」
ふと思うと、ビーズに的確なアドバイスができる者がこの場にいないな。
俺の家庭環境は悲惨だし、クトフは孤児だ。クロとシロ様は人間の生活のことなんかどうでもいい。
「お前は男爵家の坊ちゃんじゃないのか?俺が知っている貴族様と全然違って、環境がおかしいんだが」
「貧しい貧しい男爵家は使用人も雇えないんだ。と言ってもやりようはあるんだが。あのクズ親父がすべて悪い。話し始めると永遠に俺は毒を吐き続けるから、ビーズとリースの方に話を戻すことをお勧めする」
「お勧めされてしまったかー。もう少し聞いていたかったけど。その辺はおいおい教えてくれ。力になれることもあるかもしれん。で、リースは気になる子でもできたのではないだろうか」
「わー、親が介入するととんでもなく拗れる話題が来たー」
親が子の色恋沙汰に干渉していいのは、この世界では貴族だけだ。
貴族以外はこの国では恋愛結婚の方が多くなっている。出会いがほとんどない場合に見合いが使われる。
貴族は高位の貴族になればなるほど政略結婚である。この世界は魔法が深くかかわるので、貴族でA級以上の魔導士なら婚約話は山のように振って来るらしい。成人前よりかなり早めに教会に行って、級の判定する儀式をやってもらう者もいるくらいだ。
そういや、俺も十四歳か。本来なら、貴族の子は教会で魔導士の級の判定する儀式を受けに行かなければいけないのだが、金がかかる。
放っておくか。
どうせ、クズ親父は俺の年齢なんか覚えていないだろうし。
「うーん、ビーズさん、何かリースにその兆候がありました?」
「勘」
「、、、勘かあ」
俺とクトフは顔を見合わせる。冒険者の勘は馬鹿にできないとはいえ、下手に親に干渉されたらリースが可哀想だ。
「ただ、あのぐらいの年齢なら憧れとか、尊敬とかもあり得るかも」
「だねー。リースも十二歳かあ。砦の三階で弁当の売り子もしていたことがあるから、街の子という可能性もあるよな。良いなー」
「、、、リアムは何が良いんだ?」
不思議そうな表情でビーズが俺を見た。
「そういう出会いがあって良いなーと思って。俺は仕事三昧だから出会いもないしモテないし縁談話もない」
「、、、」
沈黙での返答って、慰めようがないってことか?
「リアム、それなら俺のところに嫁に来い」
スッパーン。
ビーズがハリセンでクロとシロ様に叩かれた。クロとシロ様は戦力過剰なので大きな厚紙で作ったハリセンを渡してみたら、面白がって使っている。この世界には扇子とかはあっても、こういうハリセンはないらしい。
「リアムは僕の嫁だから駄目ーっ。他をあたってくださいーーーーっ」
「そうだぞ、私の嫁だ。パッと出の人間が軽々しく口にするな」
クロに感化されたのか、この頃はシロ様も嫁発言するようになってきた。クロとシロ様は対立しないので、俺は二人の嫁候補なのか。嫁、って断言されているけど。コレ聞いた人間が勘違いしているから、俺はモテないんだろうな。
砦の守護獣様に逆らう人間はこの地域一帯にはいない。
「うわー、ビーズは再婚する気なのか。せめてリースが独立してから考えたら?」
「リアムは父親が再婚することは反対なのか?」
「クズ親父に嫁が来たら、俺が家事をやらなくて済む。成人してなくても、俺が家にいなくても済むのなら、さっさと砦に本拠地を移したい」
「お、リアムは十五歳になったら砦に来る予定なのか。そういうこと気にしないと思っていたんだが」
「仕方ないだろ。この国は成人するまでは親の管理下に子は置かれる。あのクズ親父は俺が砦に住もうが関係ないが、家の家事がされていなければ怒鳴りこんで来るんじゃないか?クズだから。だから、成人までは大人しくしておいて、独立してしまえば後は何の問題もない」
「成人したら、仕事上関係のない親は子供に口出しできないからな」
ビーズは頷いた。
そう、この国では成人したら、冒険者の母上なら冒険者の俺にも口出しできる。永遠に口出ししてほしかった。
だが、冒険者ではないクズ親父は冒険者の俺には命令できなくなる。
親子であり、同じ職業で師弟関係のあるような場合は、子は親が亡くなるまで口うるさく言われる。
違う職業に就いた子供は、親子関係は確かに存続するが、親は子に干渉できなくなる。違う職業、つまり子供は違う師についていると見なされるので、違う指示が来ると困るわけだ。つまり、迷ったら実の親の方を切り捨てろ、ということだ。
この国では基本的に子は親の職業を継ぐ。継がなかったのはそれなりの理由があったからこそだ。子供は成人するまで違う職に就くために腕を磨いてきたのだ。もしその理由がなくなったとしても、はいそうですか、と親に従える子供もいない。
あまりにも楽して儲けられる仕事でもない限りは。
そういう仕事ってほとんどないからねえ。
「クズ親父も二人のクソ兄貴にも嫁は来ないだろう。母上の状況をこの領地の人たちは知っているからな。家事も仕事も押し付けられてまでこの過酷な男爵家に嫁ぐ女性はいない」
「それなら、リアムに今まで通り家事をやってくれー、とか言うんじゃないか?」
「十五までは言われた通りやるしかないが、独立した子はそれ以上家事をする義務もない」
「そうだなー。成人して独立しても家事を頼まれたら、報酬を請求できるなー」
親の介護はどうするんだ、という声が聞こえてくるが、コレは仕事も家も継いだ子の責任になる。仕事の面倒も長年見てもらっておいて放り出すことは世間が許さない。たとえ、親が鬱陶しくても、役立たずであったとしても。
「ん?」
うんうん頷いていたビーズがとまった。
「どうした、ビーズ」
「うーん、成人前でも何か例外があったような気がするけど、何だっけ?」
ビーズが首を捻っている。
思い出さないということは、そんなに重要なことでもないのだろう。
「ま、俺は十五歳になるまでは大人しく生きているわけだ」
「大人しく、ねえ」
ビーズよ、何か言いたいことでもあるのかなあ?
「誰も貰い手がいなければ、俺が嫁にもらってやるから安心しな、リアム」
ビーズが二カッと笑う。
A級冒険者だから稼ぎは良いんだけどな。。。
ビーズはクロとシロ様にハリセンで頭を叩かれていた。
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