解放の砦

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7章 愚者は踊る

7-8 入学式というのは眠いだけ

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 入学式当日は午前中の式だけで終わりかと思いきや、午後もしっかりと講義の説明等があるらしい。
 翌日から講義開始。
 最初は座学が中心だが、マナー講習みたいなのとか、魔法実技も徐々にカリキュラムに組み込まれていくらしい。

 俺は普通に冒険者の格好でマントを羽織る。
 みーんな、中は煌びやかな格好なのかなー?

 入学式前日には寮を利用する者たちは入寮していたようだ。
 通いの学生が馬車でなかなか進まない長い列に並んで玄関先で降りていく。
 本日は親同伴だ。
 通常なら教室の入口までお付きの人がついていく。
 過保護か?
 お付きの人の待機室まで学園にはあるので、貴族の学校って感じだよな。

 どう見ても、俺以外にはお付きがいない人っていないと思うんだけど。
 冒険者になっている学生っているのかな?
 魔の森であまり会いたくない。


 入学式は学園内にある超広くて超豪華な講堂で行う。
 教室には行かず、今日は学生、保護者、その他諸々は直接会場の講堂に向かう。
 一階の前方の座席に、本日の主役の入学生が座る。
 座席は指定されており、魔導士の級以外にも家の爵位、跡継ぎかどうか等々で席順は変わるらしい。

 この講堂には二階以上にボックス席と呼ばれる壁で囲まれた特別な席が存在する。
 お貴族様である親用の席である。
 中央に近いところほど位の高い貴族が座っているらしい。 
 というわけで、あまり振り返らない方が良い。
 目が合って難癖付けられても困るからね。

 一学年は三クラスしかないのに、何でこの広い講堂の席が人で埋まるのだろう?
 世の中は不思議がいっぱいだ。

 厳かな雰囲気で入学式は始まった。
 学園長の挨拶は長かった。そういうのはどの世界でもセオリーなのかな?

 入学生のなかでA級、B級魔導士の一組は名を呼ばれて壇上に上がって学園章を受け取る。
 ここで、親が他の学生の値踏みをするのだろう。優秀そうな学生には目をつけておいて、青田買いする機会である。
 だからなのか、本当にゆっくりと時間が過ぎる。
 恐ろしいほど壇上に上がる全員が全員、亀の歩みをする。
 二組、三組の学生は学園章をすでにマントにつけている。
 俺のマントにもすでについていた。

 この後、入学式新入生代表挨拶、在校生代表挨拶もあり、来賓の祝いの言葉もあり、非常に眠くなるので辛い。
 こんな式だと、居眠りする学生っていないのかなー?
 試練なのかなー?
 こんなところにいるよりも、魔物討伐に行きたい。
 アクビを噛み殺すのも限界になって来た頃、ようやく入学式は終わった。

 この後は昼休憩である。
 自由昼食後、午後からそれぞれのクラスの教室に集まるように言われている。

 あー、ねむー。ひたすら、ねむー。

「リアムー、」

 俺の肩にちっこいクロがのった。

「今日は寮の厨房を貸してもらうか。久々にオムライスでも作るか」

「リアムー、愛してるよー。久々のとろとろオムライスー」

 クロが俺の頬にビタッと張り付いた。

「ラーメンにするか?」

「そんな殺生なー。ここまで期待させて落とすなんてひどいよー」

「悪い、悪い」

 俺たちは寮への道を進む。

 人々の流れは学食だけではない。サロンへの建物へ大勢が向かう。
 学生である子供だけでなく、親が一緒に他の親と行動している。さらには護衛等々がついていくからかなりの人数だ。

 つまりは、そういうことだ。
 位の高い家の子供は取り巻きが用意されている。
 二学年の学生も呼ばれているようだ。

 そこに漏れた家の子が学食に行くのだろう。
 どちらが幸せなのか、微妙なところだが。

 寮の厨房に行くと、三人のおばちゃん料理人がいた。

「こんにちはー、厨房お借りします」

「あらあら、こんにちはー。私たちが火当番のときに来てくれて嬉しいわー」

「火当番?」

「鍋係みたいなものよー。煮込み料理のときは鍋に火をとろとろかけておくから見張りがいないといけないのよ」

「夕食は期待していてねー」

「ありがとうございます。こちらのコンロをお借りしても?」

「どうぞどうぞー」

 第三食堂に近いコンロを借りる。
 作業の邪魔になるので、マントを収納鞄に入れる。

「リアム、卵まだあるー?」

 心配そうに見るな。

「クロ、お前がどれだけ拾って来たと思っているんだ?この学園にいる間、追加がなくても充分なくらいな量はあるぞ」

「えー、だってお昼にたくさん食べているじゃなーい。あのとろとろはクセになるー」

 砦にいたときの昼食はほぼ毎日オムライスだったからな。。。
 ラーメンが来るまでは。

 昼休憩は長いので、今日はせっかくだからご飯も炊いておこう。
 貴族の昼食ってそんなに時間がかかるんだねえ。
 土鍋をセットしておいて、すでに作られたケチャップライスを皿に盛る。
 フライパンでささっと二人分のオムレツを作る。

「ひさびさーっ、これぞリアムのオムライス」

 皿に盛った瞬間にクロに奪われ、スプーンの餌食に。

「うみゃうみゃ」

 久々だから感動もひとしおなのだろうか。どんだけオムライスが好きなんだ。
 俺の分も皿に盛ると第三食堂の席に着いた。

 うん、美味しい。

 状態保存の収納鞄なのだから、オムライスごと入れておけば良いような気もするのだが、あのとろとろオムライスを鞄の中に入れるのが微妙に思ってしまう。皿に盛って、ビロビロでラップして、で良い気もするんだけど。
 やっぱりオムレツは食べる前に焼きたい派である。そして、ご飯の上に置くのである。

 土鍋で炊いたご飯は火を止めて蒸らしておく。

「ごっちそうさまー、じゃあねー、リアムー」

 ちっこい手を振ってから、クロは走り去った。今日の帰りは早いな。シロ様に睨まれているのかな?
 俺が厨房で食器を洗っていると、座っているおばちゃん料理人さんが話しかけてきた。

「やっぱり冒険者は便利な収納鞄を持っているのねー」

「従魔がいるって聞いていたけど、可愛いわねー」

「極西の砦の食事は美味いって噂で聞いているけど、リアムくんの料理の腕も相当のものよねー」

 話したいことをそれぞれ話しているという感じだ。

「そういえば、皆さんはご自宅から通われているんでしたっけ」

 だから、お昼の火当番を任されるときには、夕方早めに上がらせてもらうというシフトになっているようだ。
 たまには早く帰りたいよね。

「家でお鍋とかします?白菜があるんですけど」

 収納鞄から丸々と美味しそうな白菜を三つ取り出す。
 クトフ、野菜を山ほど送られても、どう消費すればいいんだよ。一人で食べるには限界があるぞ。
 しかーも、今の季節、メルクイーン男爵領では白菜作りが盛んである。
 たぶん違う人が砦に持って来てくれているのだろうが、白菜は同じ白菜である。どういう状況で毎日こんなに何個も白菜を渡されるのだろうか。というか、クトフ、こっちに送らないで砦で消費してほしいくらいになってきたんだけど。
 いや、たぶん、砦の食事も白菜を使った献立が多めになって来る頃かもしれない。

「あらあら、立派な白菜じゃないのー」

「どうしたの、これー」

「もらっていいのー?」

「家を出るときに野菜を持たされたんですけど、さすがに昼食だけではそこまでの使い道がなく、ずっと持っていてももったいないですからね」

 現在進行形で送られ続けていますからねえ。俺の収納鞄の白菜比率が増加の一途。一応、他の野菜も送られてきているが。
 ほぼ無限と言われている辺境伯の収納鞄だから良いけど、魔物より野菜の比率が増えて来てしまったよ。

「わー、ありがとー、リアムくん」

「今度、王都の名物料理作ってあげるからね」

「今日のうちの夕食は白菜鍋で決定ねー。嬉しいわー」

 喜んでもらえたようで良かった良かった。
 けど、三個消費されても、焼け石に水。
 白菜の収穫シーズンはまだまだこれからだ。
 俺の収納鞄が白菜だらけになる前に、どうにかしたい気持ちがあるのだが。
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