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10章 秋休みは稼ぎ時
10-16 黒い笑顔 ◆ズィー視点◆
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◆ズィー視点◆
しまった、と思った。
リアムに何の説明をしないままにここに連れてくるリスクのことを考えなかったわけではない。
だが、説明をした場合、リアムが自分の意志でここに来ない危険性の方が高かった。
先見の巫女に挨拶の礼をした後、振り返るとリアムがゴウの後ろに隠れていた。
これでは肉眼で姿を直視することができない。
「、、、リアム、何やっているのかな?」
私はリアムに尋ねた。
もう、リアムには私たちの思惑がバレているのでは。
姿を見せないままなら、先見の巫女がリアムの未来を見ることができない。
と思ったら。
「初めまして。早速で悪いんですが、ここにあるすべての魔法を複写する権利をください」
堂々と要求を言った。
超怖い。
ここはグレーデン大国の中枢も中枢。
先見の巫女の神殿。
未来が見える一族をここに囲っている。と言っても、今は巫女一人しかいないが。
謁見の間と呼ばれるここに入れる者もごく限られている。
リアムだけを連れて来ることは抵抗されるとして、怪しまれないように全員の入場の許可を取っていた。
そして、男性はこの階段を上ることは許されていない。
先見の巫女の能力は処女性と言われている。だから、先見の巫女は女性たちに守られている。
先見の巫女はリアムの要望を許可した。
リアムはしっかり誓約魔法を発動させている。。。
この国の民ならば、彼女にそのような発言をすることもおこがましいと思い込んでいる。
グレーデン大国のために、一生を捧げて人類の未来を見る彼女に。
彼には一切関係ないが。
彼はグレーデン大国のために彼女が何をしていようと、国外の人間なのである。
そのことを忘れてはいけないが、先見の巫女の周囲にいる女性たちの表情は、布に覆われているはずなのにわかる。
不遜な者、許すまじ、と。
だが、先見の巫女はリアムを見ることができた。
「ふむ。お前たちが何を期待しているのか知らんが、この者はこの大陸を救わない。以上」
彼女が何を見たのか、具体的なことは何一つわからない。
けれど。
それはこの世界の希望が一つ失われたことを意味する。
絶望の淵に立たされたこの世界、この国の上層部がそれを知ったら、より絶望するだろう。
ワケがわかっていないリアムは話が終わったのだろうと、複写の魔法を使っている。
魔法陣が描かれている紙が量産されている。。。
先見の巫女が許可したものを、この場にいる他の誰かが覆すことなどできない。
だが、周囲にいる世話役の女性の一人が叫んだ。
「巫女様っ、よろしいのですかっ」
「わざわざ呼んだのは私だ。本人の姿を見なければ、見えないことがある。それだけのために遠くここまで足を運んでもらったのだからとやかく言うな」
「、、、はい」
この女性はいらないことを、先見の巫女に確認してしまった。
リアムは作業する手をとめないが、黒い笑顔を浮かべてしまった。
今までは、ごくごく普通の営業スマイルだったのに。
「あ、先程ここにある魔法はいくらでも写しても良いとの承諾を得ましたが、先見の巫女様のユニークスキルの魔法も写して良いですか?」
リアムの言葉に、冷たいものが背中を走った。
彼女のことを巫女とは呼んだが、先見の巫女とは呼んでない。誰もリアムに彼女の説明をしていないのに。
それを彼女たちはわかっていない。
無礼だと、今にも下に降りてきそうな雰囲気だが、やめておいた方が良い。
リアムは女性を殴らない、とか言う人物ではない。彼は男女平等に襲いかかって来たものは返り討ちが鉄則である。手を出さなければ、彼は何もしない。
情報を渡してないことを、リアムは言い当てる。
前にもそんなことがあったのに、なぜ私は忘れていたのだろう。
彼に嘘を言うことも、沈黙を貫くこともできないということを。
「ああ、いいぞ。そういう約束だ。だが、私の魔法を複写しようとも、コレは個人特有のユニークスキルだから、お前には使えん。それはお前のユニークスキルだってそうだろう」
先見の巫女は平然と応対する。
元々、彼女にはわかっていた未来か。
一瞬、リアムが意味わからないという表情をしたが。
「確かに、そのままだとその本人にしか使えないでしょうね」
「ということは、他人に使えるように変えることができるのか?」
先見の巫女が疑問を口にした。
今まで、そんなことは一度もなかった。
彼女は答えまで見えるのだから。
リアムはすでに複写された紙をパラパラと見ている。
そこにあるのは魔法陣ではなく、呪文でもなく、記号なのか模様なのかわからないものが数枚続いている。
「この先見の魔法のことですよね?これなら、おそらく、、、」
と言って、リアムは言葉を切って、顔を上げた。
「いえ、他人には使えませんね、この魔法は」
にっこりと。
笑顔で言い切った。
ここにいるすべての人間が気づいている。
下にいるリアムを囲む者は元より、初見である先見の巫女の世話役の女性たちだって、わかったようだ。
嘘だ、と。
リアムは先見の魔法を他人が使えるように加工できるのだ。
ここにいる誰しもがそう思った。
世話役の女性が一人、階段を下りてきた。
通常、彼女たちは先見の巫女が指示しない限り、勝手には下りてこない。
下にいる者たちと書類や物を受け渡す等のとき、必要最小限で応対するためだけの階段だ。
先見の巫女は絶対にこの階段を使わないのだから。
理由を彼女に聞く前に。
彼女はリアムの前に跪いて土下座した。
「お願いです。どんな対価でも支払います。他人に使えるようにされた先見の巫女様の魔法を教えてください」
彼女の行為に驚いたのは私だけではなかったが。
先見の巫女の魔法が使えるようになるのなら、グレーデン大国はどんな対価でも支払う。
彼女は最後の先見の巫女。
彼女の一族は先見のユニークスキルを授かる可能性が一番高かったのだが、魔力の高い者と政略結婚させようとも、先見の能力を持つ子供が産まれなくなった。
過去の記録によると、先見のユニークスキルは子に受け継がれる、と言われていた。が、先代も先々代の先見の巫女も子を儲けても、国が期待した能力を持つ子供は生まれなかった。
もし、現在の先見の巫女が子をなしたとしても、その子が先見の巫女になれる能力を有していなかったら。
ただただ先見の巫女を失うだけだ。
だから、グレーデン大国は先見の巫女をこの神殿まで建てて守った。
リアムの目の色が変わるはずだ。
先見の巫女を安全に守りながら、生き永らえさせるためにこの神殿にはどれだけの魔法が使われているか。
リアムは小さいため息を吐きながら、女性を土下座させたまま、階段に座ってしまった。
確かに座れそうな場所、そこしかないけど。。。
「うーん、、、」
リアムは先見の巫女の魔法が複写された数枚の紙を見ている。
他人に使えるよう変えることができると言っても簡単ではないはずだ。
一朝一夕にはできない代物で、魔法の改変は年単位、十年単位でやらなけばならない作業だ。
グレーデン大国にしてみれば冒険者ギルドの書類改善なんて放っておいて、こちらを優先してくれないかと依頼するレベルの大事だ。
冒険者ギルドの総本部も、リアムへの依頼を変更する。
グレーデン大国と冒険者ギルドは別物なのだが、持ちつ持たれつのつながっている関係でもある。他の国とは違い、発足の地であり、成長を支えてくれたグレーデン大国の積年の願いを、冒険者ギルドは無下にすることができない。
「先ほどの私どもの無礼は大変申し訳ございませんでした。私どもをいかようにも処分していただいてかまいません。この国はその魔法が必要なのです。浅慮な私どもに教えていただかなくともかまいません。どうか、国に、国の者にその魔法を伝授してくださいませ」
彼女は土下座の向きを変えて、もう一度リアムに乞うた。
「、、、先見の巫女様は苦労したんですねえ」
階段に腰掛けたままの状態で、先見の巫女に話しかけた者は誰一人としていない。
国の上層部が知ったら、かなりお怒りになることだろう。
ただし、この件を知ったらすべてが帳消しになると思うが。
「コレ、ものすごく使い勝手の悪い魔法だから」
リアムがまるで日常会話をしているかのような口調で言った。
息を飲む音が響いた。
もはやそれが自分のものだったかさえわからない。
しまった、と思った。
リアムに何の説明をしないままにここに連れてくるリスクのことを考えなかったわけではない。
だが、説明をした場合、リアムが自分の意志でここに来ない危険性の方が高かった。
先見の巫女に挨拶の礼をした後、振り返るとリアムがゴウの後ろに隠れていた。
これでは肉眼で姿を直視することができない。
「、、、リアム、何やっているのかな?」
私はリアムに尋ねた。
もう、リアムには私たちの思惑がバレているのでは。
姿を見せないままなら、先見の巫女がリアムの未来を見ることができない。
と思ったら。
「初めまして。早速で悪いんですが、ここにあるすべての魔法を複写する権利をください」
堂々と要求を言った。
超怖い。
ここはグレーデン大国の中枢も中枢。
先見の巫女の神殿。
未来が見える一族をここに囲っている。と言っても、今は巫女一人しかいないが。
謁見の間と呼ばれるここに入れる者もごく限られている。
リアムだけを連れて来ることは抵抗されるとして、怪しまれないように全員の入場の許可を取っていた。
そして、男性はこの階段を上ることは許されていない。
先見の巫女の能力は処女性と言われている。だから、先見の巫女は女性たちに守られている。
先見の巫女はリアムの要望を許可した。
リアムはしっかり誓約魔法を発動させている。。。
この国の民ならば、彼女にそのような発言をすることもおこがましいと思い込んでいる。
グレーデン大国のために、一生を捧げて人類の未来を見る彼女に。
彼には一切関係ないが。
彼はグレーデン大国のために彼女が何をしていようと、国外の人間なのである。
そのことを忘れてはいけないが、先見の巫女の周囲にいる女性たちの表情は、布に覆われているはずなのにわかる。
不遜な者、許すまじ、と。
だが、先見の巫女はリアムを見ることができた。
「ふむ。お前たちが何を期待しているのか知らんが、この者はこの大陸を救わない。以上」
彼女が何を見たのか、具体的なことは何一つわからない。
けれど。
それはこの世界の希望が一つ失われたことを意味する。
絶望の淵に立たされたこの世界、この国の上層部がそれを知ったら、より絶望するだろう。
ワケがわかっていないリアムは話が終わったのだろうと、複写の魔法を使っている。
魔法陣が描かれている紙が量産されている。。。
先見の巫女が許可したものを、この場にいる他の誰かが覆すことなどできない。
だが、周囲にいる世話役の女性の一人が叫んだ。
「巫女様っ、よろしいのですかっ」
「わざわざ呼んだのは私だ。本人の姿を見なければ、見えないことがある。それだけのために遠くここまで足を運んでもらったのだからとやかく言うな」
「、、、はい」
この女性はいらないことを、先見の巫女に確認してしまった。
リアムは作業する手をとめないが、黒い笑顔を浮かべてしまった。
今までは、ごくごく普通の営業スマイルだったのに。
「あ、先程ここにある魔法はいくらでも写しても良いとの承諾を得ましたが、先見の巫女様のユニークスキルの魔法も写して良いですか?」
リアムの言葉に、冷たいものが背中を走った。
彼女のことを巫女とは呼んだが、先見の巫女とは呼んでない。誰もリアムに彼女の説明をしていないのに。
それを彼女たちはわかっていない。
無礼だと、今にも下に降りてきそうな雰囲気だが、やめておいた方が良い。
リアムは女性を殴らない、とか言う人物ではない。彼は男女平等に襲いかかって来たものは返り討ちが鉄則である。手を出さなければ、彼は何もしない。
情報を渡してないことを、リアムは言い当てる。
前にもそんなことがあったのに、なぜ私は忘れていたのだろう。
彼に嘘を言うことも、沈黙を貫くこともできないということを。
「ああ、いいぞ。そういう約束だ。だが、私の魔法を複写しようとも、コレは個人特有のユニークスキルだから、お前には使えん。それはお前のユニークスキルだってそうだろう」
先見の巫女は平然と応対する。
元々、彼女にはわかっていた未来か。
一瞬、リアムが意味わからないという表情をしたが。
「確かに、そのままだとその本人にしか使えないでしょうね」
「ということは、他人に使えるように変えることができるのか?」
先見の巫女が疑問を口にした。
今まで、そんなことは一度もなかった。
彼女は答えまで見えるのだから。
リアムはすでに複写された紙をパラパラと見ている。
そこにあるのは魔法陣ではなく、呪文でもなく、記号なのか模様なのかわからないものが数枚続いている。
「この先見の魔法のことですよね?これなら、おそらく、、、」
と言って、リアムは言葉を切って、顔を上げた。
「いえ、他人には使えませんね、この魔法は」
にっこりと。
笑顔で言い切った。
ここにいるすべての人間が気づいている。
下にいるリアムを囲む者は元より、初見である先見の巫女の世話役の女性たちだって、わかったようだ。
嘘だ、と。
リアムは先見の魔法を他人が使えるように加工できるのだ。
ここにいる誰しもがそう思った。
世話役の女性が一人、階段を下りてきた。
通常、彼女たちは先見の巫女が指示しない限り、勝手には下りてこない。
下にいる者たちと書類や物を受け渡す等のとき、必要最小限で応対するためだけの階段だ。
先見の巫女は絶対にこの階段を使わないのだから。
理由を彼女に聞く前に。
彼女はリアムの前に跪いて土下座した。
「お願いです。どんな対価でも支払います。他人に使えるようにされた先見の巫女様の魔法を教えてください」
彼女の行為に驚いたのは私だけではなかったが。
先見の巫女の魔法が使えるようになるのなら、グレーデン大国はどんな対価でも支払う。
彼女は最後の先見の巫女。
彼女の一族は先見のユニークスキルを授かる可能性が一番高かったのだが、魔力の高い者と政略結婚させようとも、先見の能力を持つ子供が産まれなくなった。
過去の記録によると、先見のユニークスキルは子に受け継がれる、と言われていた。が、先代も先々代の先見の巫女も子を儲けても、国が期待した能力を持つ子供は生まれなかった。
もし、現在の先見の巫女が子をなしたとしても、その子が先見の巫女になれる能力を有していなかったら。
ただただ先見の巫女を失うだけだ。
だから、グレーデン大国は先見の巫女をこの神殿まで建てて守った。
リアムの目の色が変わるはずだ。
先見の巫女を安全に守りながら、生き永らえさせるためにこの神殿にはどれだけの魔法が使われているか。
リアムは小さいため息を吐きながら、女性を土下座させたまま、階段に座ってしまった。
確かに座れそうな場所、そこしかないけど。。。
「うーん、、、」
リアムは先見の巫女の魔法が複写された数枚の紙を見ている。
他人に使えるよう変えることができると言っても簡単ではないはずだ。
一朝一夕にはできない代物で、魔法の改変は年単位、十年単位でやらなけばならない作業だ。
グレーデン大国にしてみれば冒険者ギルドの書類改善なんて放っておいて、こちらを優先してくれないかと依頼するレベルの大事だ。
冒険者ギルドの総本部も、リアムへの依頼を変更する。
グレーデン大国と冒険者ギルドは別物なのだが、持ちつ持たれつのつながっている関係でもある。他の国とは違い、発足の地であり、成長を支えてくれたグレーデン大国の積年の願いを、冒険者ギルドは無下にすることができない。
「先ほどの私どもの無礼は大変申し訳ございませんでした。私どもをいかようにも処分していただいてかまいません。この国はその魔法が必要なのです。浅慮な私どもに教えていただかなくともかまいません。どうか、国に、国の者にその魔法を伝授してくださいませ」
彼女は土下座の向きを変えて、もう一度リアムに乞うた。
「、、、先見の巫女様は苦労したんですねえ」
階段に腰掛けたままの状態で、先見の巫女に話しかけた者は誰一人としていない。
国の上層部が知ったら、かなりお怒りになることだろう。
ただし、この件を知ったらすべてが帳消しになると思うが。
「コレ、ものすごく使い勝手の悪い魔法だから」
リアムがまるで日常会話をしているかのような口調で言った。
息を飲む音が響いた。
もはやそれが自分のものだったかさえわからない。
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