解放の砦

さいはて旅行社

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11章 善意という名を借りた何か

11-20 急に現れる

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 旅行の準備、というほどのものはない。
 収納鞄に何もかも詰め込んでいるので、王都で何か買いたい物、他のところでは手に入りにくい物があれば買っておく、という程度だ。
 何もかも高い王都じゃ、必要最小限の物しか買いたくない。

「、、、何で、行程表が必要なんですか?」

 俺は冒険者ギルドの奥にて、通信の魔道具で話すハメになっている。
 少し呆れた声が返って来る。

「リアム、お前はその一年間、冒険者として他国の冒険者ギルドを活用するんだろう。拠点を移すものではないが、縁もゆかりもない遠い他国の冒険者がひょっこり現れたら怪しむだろう。話をそこの冒険者ギルドにしておくから、どこの国に行くかの順番くらいざっくりな行程表でも作りなさい」

 ズィーさんに窘められた。
 そりゃ、西の果てのクジョー王国からいきなり冒険者が来たら、何で?と思うよね。
 必要な物は収納鞄に詰めているとはいえ、現地通貨への両替や現地の情報等はやはり冒険者ギルドに頼らざる得ない。

 確かに計画はしておいた方が良い。
 魔石は高い。
 空間転移魔法陣を使うのは必要最小限にしておきたい。
 ハーラット侯爵家のようにバカバカ使うわけにはいかないのだ。
 馬車での移動が我慢できる距離は馬車で移動する。

「はーい」

 仕方ないから肯定の返事をしておいた。

「グレーデン大国に居続けると言うのなら大歓迎だが」

「オチをつけなくてもいいですよ、ズィーさん」

「、、、グレーデン大国はオチか」

 俺は数日後の魔法学園の卒業式を待たずに出発することにした。
 というわけで、俺は卒業式の打ち合わせなんて参加するわけもない。
 ゾーイが手を離そうとしなかったが、必要ないものは出ないよ。
 冒険者ギルドに行ってくるー、と言って学園から出掛けてきた。

 グレーデン大国から魔の砂漠に行くときはゴウかクマリンに声をかけてくれるそうだ。
 初めて入る冒険者は必ずガイドが必要だということだが。
 S級冒険者をガイドとして使うなんて豪華すぎるぞ。

 外せない国というのはあるけどね。
 ズィーさんと打ち合わせして、冒険者ギルドを出ると。

「よお、初めましてだな」

 知らない人に絡まれた。
 品のいい服装だがガタイが良く、顔は強面である。まあ、ナーヴァルほどの悪人面ではないし、強面でもイケメンの部類に入るだろう。

 このまま逃げ去るのが良いのか、戻って冒険者ギルドに助けを呼んだ方が良いのか。

「お前なあ、わかっててそう考えているなら性格が悪いぞ」

「はあ、、、神獣様と呼びますか?それとも、海竜様とでも呼びますか?」

「はっはっはーっ、お忍びだからカイでいい。人間の姿のときはカイと呼べ」

 急に現れるなあ。
 神獣ってそういうものなの?
 魔の海原に閉じ込められているんじゃないの?

「誓約者がいれば、どこにでも現れるからねー、僕たちはー」

 ちっこいクロがニョっと現れ、肩によじ登って来る。

「まだ昼じゃないぞ」

「海竜がいるなら僕がいた方が良いんじゃないかなーと思ってー。さすがに襲われたらリアムは勝てないからねえ」

「、、、俺、普通の人間だからなあ」

 神獣には勝てないよね。誰でも普通に負けるよね。

「カイもクロぐらいのサイズになれば良いのに」

 海竜といえども竜でしょ?手のひらサイズなら可愛いんじゃないの?

「俺は人間サイズが一番小さいんだ。海竜の姿だと一番小さくとも人間二人分の身長の高さにはなる」

 あー、それでもデカいな。
 ここで海竜に戻らないでくださいね。

「神獣ってすべてが伸縮自在なわけじゃないんだ」

「俺はかなり大きくなるからなあ。クジラぐらいには」

 あ、ホントにデカいですね。
 絶対に戻らないでくださいね。クロが大怪獣するより恐ろしいことになりそうだ。

「誓約者というとリリーですか」

「うちの嫁に子供ができたからなあ。父親を迎えに来た」

 もしやお礼参りですかね?
 合意の上なんですけどね。

「リリーに頼んだのは俺だ。俺だけでは人間に子供を産ませることができないからな。お前なら正式な誓約者を作ってくれると期待したんだが」

 リリーは正式な誓約者ではないと?
 うん?

「俺らの正式な誓約者というのは俺らとともに神域を作れる者のことを指す。滅びた奴らはすべて失敗して、魔物が溢れる土地になった。アイツらは誓約者を、人間自体を軽んじていたからなあ。大陸全土が魔物だらけになる前に、魔の海原を神域化しないと俺も危ない」

 お?
 滅びた奴らとは、他の神獣のことか。

「というわけで可能性があるお前に託したんだが、お前だけじゃあやはりちょっと足りなかったようだ。俺の成分がないとダメらしい」

 へえ?

「というわけで3Pでもするか?」

 はい、却下ー。
 死ね。←心で思うだけは自由。全部筒抜けているようだけど。

「冗談だよ。一年間各国を回るんだろ。必ずうちの国にも来い。そのときにリリーに仕込んでくれ。後はこちらでどうにかする」

 んー、何かそのとき、シロ様が出てきそうな気がするのは何ででしょうね。クロじゃなくてね。

「うん、今、シロ、ものすごく怒ってるよー。死ねっ、海竜っとか言ってー」

 ニヨニヨ笑っているクロ。
 シロ様がいたら本当にシャレにならん状態になっていたんじゃないかなあ、この場が。
 怪獣大決戦になっていたんじゃないかな?
 巻き込まれなければ、見てみたいけど。

「一人目の子供は?」

「責任を持って可愛がる。が、将来はおそらくお前の元に行きたがるだろうな」

「そうなのか?」

 俺が父親だとわからなければ、両親揃っていると思い込むだろうに。いや、神獣が父親という時点でおかしいか?疑問を持たない方がおかしいか?

「お前は男爵をずっと続けるつもりはないんだろ。跡継ぎは必要だ。お前には俺の子に父上と呼ばれる権利を許そうではないか」

「で、カイは何と呼ばれる予定なんだ?」

「お父様って呼ばれたいっ」

 、、、呼ばれたいんだ。

「ま、こっちだ」

 カイがリリーの元に案内してくれました。神獣が直々に。。。





「少し早い出産だったが、落ち着いたから連れて来たぞ」

 そこからごくごく近所の大きな建物に案内された。
 魔法学園の寮ではなく、豪華ホテルのようでいて、病院のような施設に連れられてきた。
 個室には使用人なのか、かなりの人数がいる。
 彼らが身にまとっているのは宗教国家の衣装なのがわかる。

「カイ様、お帰りなさいませ」

「他のヤツらはすべて席を外せー」

 とカイが言うと、一礼して部屋から消える。統率がとれている。
 俺はベッドのそばに寄る。
 リリーに抱かれている赤ん坊の目が俺を見た。
 そして、俺の指をにぎにぎする。

 超可愛い、俺の子ー。

「リアムの小さい頃ソックリだねー。違いは金髪ってところかなー。リアム二世だねー」

「うおっ、クロ、なんてセンスのない名前」

「じゃあ、何て名前なのさー」

 俺たちはリリーを見る。

「そうね、リースとかリのつく名前を考えてみたのだけど」

 リースはどこかの息子にいるなあ。
 リリーとリアムだからか。
 海竜は、あ、一応リが入っているか。

「リィン、なんてどうかしら」

「、、、リィン、うん、いいんじゃないか」

「将来はリィン・メルクイーン男爵って呼ばれるのかもしれないわね。うちの国には形式的な冒険者ギルドしかないけど、冒険者として育てるわ。正式な冒険者登録は私たちが砦に遊びに行くときにでもしてやってね」

 魔の○○に憧れている冒険者たちが、なぜ魔の海原に行かないのか。
 魔の海原があるのが宗教国家ということだけではない。
 冒険者ギルドがあることにはあるが、あまり機能していない。
 冒険者もいることにはいるが、神獣の海竜が強い魔物を退治するので、そこまで強い冒険者は必要ない。
 彼の地は神獣が強い国で、神獣が信仰の対象なのである。

「けれど、何でうちの跡継ぎのことまで考えてくれているんだ」

「そりゃ、交渉材料にするためだよ」

 あっさりとカイが白状した。

「何の交渉だ」

「もし、うちの神域化が間に合わなかったら、魔の大平原の隅っこに居候させてもらおうと思ってな」

「?」

 あのー、クロ、こんなこと言っているんですけどー、どういう意味ですかねー。
 クロがテーブルの上でお腹を抱えて笑っている。

「ぎゃははっ、うわっ、お腹痛いっ、こっ、こんなに笑ったの、久々だよっ」

 ちっこいのがピクピクしてる。

「そんなに笑うことなのか?」

「そりゃーそうだよー。僕たちは神獣でも例外中の例外で、神獣内でも神獣だと認めない派もいたぐらいだ。僕たちに頼むなんて、切羽詰まっているんだねー」

「今、残っている神獣が神獣らしくない海竜、蠍とくれば、この世界はそういう運命だったのだろう。我々は獣ではないからなあ」

 そういやクロとシロ様は何に分類されているんだ?オコジョ?オコジョとは違うよなあ、耳ないし。ハムスター?耳ないから違うけど、ちっこい姿は一番近そうだが。
 あ、いや、耳はあるんだけど、イヤーカフがついている辺りにきっと。俺には見えないだけで毛に埋もれているんだろう。
 他の神獣がどんな姿かわからないから、海竜がいるのだから別に伝説上の動物だろうと生き物だろうと、前世で知らないものであろうとも関係ないのだが。

「大平原の横に海がくっついたところで、何の問題もないだろ」

 海産物が手に入る?
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