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12章 蛇足なのか、後始末なのか
12-5 向き合えというのは命令 ◆ナーヴァル視点◆
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◆ナーヴァル視点◆
クリスは俺が卵雑炊を食べ終わるのを見てから帰っていった。
しばらくして砦長室にリージェン、リアムとゾーイがやって来た。
「あー、ナーヴァルもちゃんと食べたんだー。現金だねー」
空になった皿を見て、リージェンが言った。
何が言いたい。
わかるけど。
リアムが作ったものなら、ちゃんと食べるんだー、と。
「仕事しろ、ナーヴァル。クリス様にまで心配をかけて」
やれやれ感を出しながら、リアムが久々に自分の席に座る。
リアムの執務室ができるまでは、リアムはここで仕事をしていたのに。
、、、あれ?
一日中そこにいた記憶はないな。なんか、いつも探していたような記憶があるのだが?
通信の魔道具ができてから、連絡が楽になっていたが。
二年間アミールが代理で持っていたペンダントは、現在リアムの首にかかっている。
「じゃあ、俺はもうそろそろ寝ようかなー。おやすみー」
「あ、悪かったな、リージェン。少し寝坊してもいいぞ」
リージェンは振り返りもせずに軽く手を上げて去っていった。
その間にも、いつのまにかリアムの手は書類を捌いている。
ゾーイも普通にファイルをリアムに取ってあげたりしている。
はああぁー、とつい大きなため息を吐いてしまった。
「ナーヴァル、仕事中はプライベートな悩みを持ち込むな。手を動かせ」
「、、、ああ、うん」
プライベートな悩み。
言えないけどな、リアムには一生。
「うーん、永遠にそうしている気か?クリスはキラキラな白馬に乗った王子様だが、何が不満なんだ?」
「へっ?」
リアムに直球で聞かれるとは思ってもみなかった。
何でと言われると、答えはないのだが。
「え、いや、友人としては何の不満もないんだが」
俺の返答にリアムがポンと手を打った。
「ああ、そうか。クリス様はあの顔で攻めだもんな。ナーヴァルは抱かれる側にはなりたくないのか」
リアムはあくまでも日常会話の雰囲気だ。
書類の手をとめることもない。
、、、お茶飲んでなくて良かったな。盛大に吹き出しているところだったよ。
じっと俺を見るゾーイがいる。そして、首を捻ってる。
俺の顔や体格を見て、抱かれる側だと思う奴はいないだろ。
、、、え?クリスって抱く側なの?
そうなの?
今までそんなこと話したことないけどさあ。
もし付き合うことになったら、俺、抱かれる側になるわけ?
、、、想像もつかない。
「クリス様もよく我慢するよな」
「相手を大切に思っている証拠だろう。リアムのように押し倒せっていう発想にはならないと思うぞ」
「俺は押し倒される側じゃん。ゾーイも俺を大切にしてくれるしー」
頼むから、ここでのろけるな。
のろけるならよそでしてくれ。
悲しくなる。
「ナーヴァル、一応言っておくが、お前はクリスにきちんと向き合ったことはあるのか?最近は営業スマイルじゃない笑顔を向けられているということを気づいているか?」
「リアムはクリス様には甘いよなー」
「だって、あの人、顔良いしー」
ゾーイがリアムの頭をくしゃっと撫でる。
へーへー仲のいいことで。
「、、、ナーヴァル、ちゃんと俺の話を聞いていたか?お前はリージェンとも向き合え。あそこまで拗れたら、きちんと責任を取ってやれ、と俺は思ってしまうんだが」
「リアム、リージェン副砦長もイケメンだよなあ」
「アレは除外。顔が良くても対応を甘くできない。残念ながら」
スッパリ。
リージェンは何か拗らせているのか?
単純で素直な直情バカな気がするんだが。
「幼馴染みで一生気づいてもらえない、っていうのもキツイものがあるよな。だったら、そばにいなければ良いんだが、それもできないんだろ。何の呪縛があるのか知らんが、生きている間は想いを告げないって、類友だよな、この二人」
ん?
何かリアムに言われてはならないことを言われた気がした。
「はい、ナーヴァル。夕方までに目を通してしかるべき処置を下せ」
書類をどっさりと机の上に置かれた。
え?今の一瞬でリアムの机に置かれていた書類、すべて終わったの?
どうやったの?確かに処理してたけど。
リアムは補佐の机にもリージェンの机にもぽいぽい書類を放っている。
「、、、了解」
コレは頑張って夕方までに終わらせなければリアムに文句を言われる案件である。
俺は両手で頬を打つと、書類に向き合った。
「ようやく仕事が進んだか?」
夕方、と言うよりはすでに夜になってしまったが。
リアムに渡された書類は一応しかるべき処置を下したつもりだ。
「リージェン、お前こそ仕事は進んでいるのか?」
「俺はいつも通りだよ。ナーヴァルはリアムに面倒見られてようやく調子が戻って来たか?」
「何を言って、、、」
ニヤニヤ見ている幼馴染みがいる。
そういや、リアムになんて言われたっけ。
類友。
生きている間は想いを告げない。。。
あれ?
もしかして俺の想い、リアムにバレてないか?
え?どこから漏れた?
「おーい、どうしたー、ナーヴァルー。リアムがいないと、またすぐに元へ戻るのかー」
「えっと、いや、あとは拗れた責任?」
答えがわからない。
リアムは正解を教えてくれるだろうか?
いや、クリスともリージェンとも向き合えと言っていた。
きちんと向き合わなければ、答えを簡単に教えてくれることはない。
「ナーヴァルこそ何を言っているんだ」
リージェンは自分の腕を組んで俺を見ている。
「なあ、リージェン。お前は俺に何か隠していることがあるのか?」
真面目に聞いた。
何かあるのならば、と。
幼馴染みにさえ明かせない何かがあるのか、と。
「ふっ、バレてしまったか。実は俺の収納鞄がすでにヤバいことに」
そう言って、俺に差し出すな。
ついつい手が動いて、鞄の中身を取り出していた。。。
「お前、定期的に整理しろとあれほど言っているのに。リアムの収納鞄のように容量無制限じゃないんだぞ。って、倒した魔物はさっさと解体しろっ。一番場所を取るじゃないか」
「あの収納鞄を持っていたら、永遠に詰め込んでいられるのにねえ。どっかにあれぐらいのもの売ってないかな」
「さすがにあのクラスの収納鞄はもはや国宝級だ。なかなか手に入る代物じゃない」
辺境伯の収納鞄だからなあ、アレ。
王族や高位の貴族だって手に入らないぞ。全然市場に出回らない。
「それにリアムならともかく、お前の場合、ブラックホールになりそうで怖いから手に入れるな」
中に何が入っているかわからないものを誰も触りたくないだろ。
状態保存の魔法がかかっているから腐ることはないけど。
「あー、それあるよなー。こんなもの入れてたっけー、とか思うのが入っているときがたまにある」
リアムが砦長室に入って来た。
会話が通路に響いていたのか。会議等していない限り砦長室の扉は基本的に開けっぱなしだ。
ゾーイはいない。
とか思っちゃうのもどうなんだと思うよ、実際。
「書類、終わったのか?」
「終わったぞー。一応しかるべき処置はしたぞ」
「よしよし、やればできるんだから、これからもしっかり励めよ」
リアムに頭を撫でられた。
俺が椅子に座っているから、撫でられる位置にあると言えばあるのだが。。。
「リアムー、薄い頭を撫でたらハゲちゃうよー」
「リージェンっ、まだそんなに薄くないっ」
「ははっ、リージェンも冗談で返す癖をやめればいいのに」
リアムの言葉に俺もリージェンも動きが止まった。
「何を言ってるのー、リアム?」
「だから、そこで真面目な会話が途切れてしまうんだろ?ナーヴァルもそれがリージェンだと思い込まずに、キッチリと向き合えよ」
そう、リアムが俺たちをさん付けで呼ばないときは、かなり本気で話しているときだ。
久々過ぎて忘れていたが。
クリスは俺が卵雑炊を食べ終わるのを見てから帰っていった。
しばらくして砦長室にリージェン、リアムとゾーイがやって来た。
「あー、ナーヴァルもちゃんと食べたんだー。現金だねー」
空になった皿を見て、リージェンが言った。
何が言いたい。
わかるけど。
リアムが作ったものなら、ちゃんと食べるんだー、と。
「仕事しろ、ナーヴァル。クリス様にまで心配をかけて」
やれやれ感を出しながら、リアムが久々に自分の席に座る。
リアムの執務室ができるまでは、リアムはここで仕事をしていたのに。
、、、あれ?
一日中そこにいた記憶はないな。なんか、いつも探していたような記憶があるのだが?
通信の魔道具ができてから、連絡が楽になっていたが。
二年間アミールが代理で持っていたペンダントは、現在リアムの首にかかっている。
「じゃあ、俺はもうそろそろ寝ようかなー。おやすみー」
「あ、悪かったな、リージェン。少し寝坊してもいいぞ」
リージェンは振り返りもせずに軽く手を上げて去っていった。
その間にも、いつのまにかリアムの手は書類を捌いている。
ゾーイも普通にファイルをリアムに取ってあげたりしている。
はああぁー、とつい大きなため息を吐いてしまった。
「ナーヴァル、仕事中はプライベートな悩みを持ち込むな。手を動かせ」
「、、、ああ、うん」
プライベートな悩み。
言えないけどな、リアムには一生。
「うーん、永遠にそうしている気か?クリスはキラキラな白馬に乗った王子様だが、何が不満なんだ?」
「へっ?」
リアムに直球で聞かれるとは思ってもみなかった。
何でと言われると、答えはないのだが。
「え、いや、友人としては何の不満もないんだが」
俺の返答にリアムがポンと手を打った。
「ああ、そうか。クリス様はあの顔で攻めだもんな。ナーヴァルは抱かれる側にはなりたくないのか」
リアムはあくまでも日常会話の雰囲気だ。
書類の手をとめることもない。
、、、お茶飲んでなくて良かったな。盛大に吹き出しているところだったよ。
じっと俺を見るゾーイがいる。そして、首を捻ってる。
俺の顔や体格を見て、抱かれる側だと思う奴はいないだろ。
、、、え?クリスって抱く側なの?
そうなの?
今までそんなこと話したことないけどさあ。
もし付き合うことになったら、俺、抱かれる側になるわけ?
、、、想像もつかない。
「クリス様もよく我慢するよな」
「相手を大切に思っている証拠だろう。リアムのように押し倒せっていう発想にはならないと思うぞ」
「俺は押し倒される側じゃん。ゾーイも俺を大切にしてくれるしー」
頼むから、ここでのろけるな。
のろけるならよそでしてくれ。
悲しくなる。
「ナーヴァル、一応言っておくが、お前はクリスにきちんと向き合ったことはあるのか?最近は営業スマイルじゃない笑顔を向けられているということを気づいているか?」
「リアムはクリス様には甘いよなー」
「だって、あの人、顔良いしー」
ゾーイがリアムの頭をくしゃっと撫でる。
へーへー仲のいいことで。
「、、、ナーヴァル、ちゃんと俺の話を聞いていたか?お前はリージェンとも向き合え。あそこまで拗れたら、きちんと責任を取ってやれ、と俺は思ってしまうんだが」
「リアム、リージェン副砦長もイケメンだよなあ」
「アレは除外。顔が良くても対応を甘くできない。残念ながら」
スッパリ。
リージェンは何か拗らせているのか?
単純で素直な直情バカな気がするんだが。
「幼馴染みで一生気づいてもらえない、っていうのもキツイものがあるよな。だったら、そばにいなければ良いんだが、それもできないんだろ。何の呪縛があるのか知らんが、生きている間は想いを告げないって、類友だよな、この二人」
ん?
何かリアムに言われてはならないことを言われた気がした。
「はい、ナーヴァル。夕方までに目を通してしかるべき処置を下せ」
書類をどっさりと机の上に置かれた。
え?今の一瞬でリアムの机に置かれていた書類、すべて終わったの?
どうやったの?確かに処理してたけど。
リアムは補佐の机にもリージェンの机にもぽいぽい書類を放っている。
「、、、了解」
コレは頑張って夕方までに終わらせなければリアムに文句を言われる案件である。
俺は両手で頬を打つと、書類に向き合った。
「ようやく仕事が進んだか?」
夕方、と言うよりはすでに夜になってしまったが。
リアムに渡された書類は一応しかるべき処置を下したつもりだ。
「リージェン、お前こそ仕事は進んでいるのか?」
「俺はいつも通りだよ。ナーヴァルはリアムに面倒見られてようやく調子が戻って来たか?」
「何を言って、、、」
ニヤニヤ見ている幼馴染みがいる。
そういや、リアムになんて言われたっけ。
類友。
生きている間は想いを告げない。。。
あれ?
もしかして俺の想い、リアムにバレてないか?
え?どこから漏れた?
「おーい、どうしたー、ナーヴァルー。リアムがいないと、またすぐに元へ戻るのかー」
「えっと、いや、あとは拗れた責任?」
答えがわからない。
リアムは正解を教えてくれるだろうか?
いや、クリスともリージェンとも向き合えと言っていた。
きちんと向き合わなければ、答えを簡単に教えてくれることはない。
「ナーヴァルこそ何を言っているんだ」
リージェンは自分の腕を組んで俺を見ている。
「なあ、リージェン。お前は俺に何か隠していることがあるのか?」
真面目に聞いた。
何かあるのならば、と。
幼馴染みにさえ明かせない何かがあるのか、と。
「ふっ、バレてしまったか。実は俺の収納鞄がすでにヤバいことに」
そう言って、俺に差し出すな。
ついつい手が動いて、鞄の中身を取り出していた。。。
「お前、定期的に整理しろとあれほど言っているのに。リアムの収納鞄のように容量無制限じゃないんだぞ。って、倒した魔物はさっさと解体しろっ。一番場所を取るじゃないか」
「あの収納鞄を持っていたら、永遠に詰め込んでいられるのにねえ。どっかにあれぐらいのもの売ってないかな」
「さすがにあのクラスの収納鞄はもはや国宝級だ。なかなか手に入る代物じゃない」
辺境伯の収納鞄だからなあ、アレ。
王族や高位の貴族だって手に入らないぞ。全然市場に出回らない。
「それにリアムならともかく、お前の場合、ブラックホールになりそうで怖いから手に入れるな」
中に何が入っているかわからないものを誰も触りたくないだろ。
状態保存の魔法がかかっているから腐ることはないけど。
「あー、それあるよなー。こんなもの入れてたっけー、とか思うのが入っているときがたまにある」
リアムが砦長室に入って来た。
会話が通路に響いていたのか。会議等していない限り砦長室の扉は基本的に開けっぱなしだ。
ゾーイはいない。
とか思っちゃうのもどうなんだと思うよ、実際。
「書類、終わったのか?」
「終わったぞー。一応しかるべき処置はしたぞ」
「よしよし、やればできるんだから、これからもしっかり励めよ」
リアムに頭を撫でられた。
俺が椅子に座っているから、撫でられる位置にあると言えばあるのだが。。。
「リアムー、薄い頭を撫でたらハゲちゃうよー」
「リージェンっ、まだそんなに薄くないっ」
「ははっ、リージェンも冗談で返す癖をやめればいいのに」
リアムの言葉に俺もリージェンも動きが止まった。
「何を言ってるのー、リアム?」
「だから、そこで真面目な会話が途切れてしまうんだろ?ナーヴァルもそれがリージェンだと思い込まずに、キッチリと向き合えよ」
そう、リアムが俺たちをさん付けで呼ばないときは、かなり本気で話しているときだ。
久々過ぎて忘れていたが。
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