【完結】結城菜穂の日本一周バイク旅

永倉伊織

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第13話 石碑

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四万十市へ向かう道は山間を縫うように続き、木々の緑が目に優しく、時折、川のせせらぎが聞こえてくる。

雨宮優子との出会いが旅の彩りを添えてくれた。またどこかで会えるかもしれない、そんな期待を胸に菜穂はアクセルを握る。

ふと視界の端に小さな祠が飛び込んで来た。道端にひっそりと佇むそれは、古びた石造りで長い年月を感じさせる。菜穂は相棒を路肩に停め祠に近づいてみる。

祠の入り口には小さな鳥居が立っている。鳥居をくぐり中を覗くと簡素な祭壇が置かれ、その上に小さな神像が祀られているのが見える。神像は風化が進み、表情を読み取ることはできない。

菜穂は静かに手を合わせ旅の安全を祈る。

「道中、どうかお守りください」

祈りを終え顔を上げると、祠の奥に何かの文字が刻まれた石碑があることに気づく。近づいてよく見るとそれは古い漢文で書かれており内容は判然としない。

しかし、そこに何らかのメッセージが込められているような気がして目を凝らす。

しばらく石碑を見つめていると背後から声をかけられた。


「何を読んでるんですか?」

振り返ると一人の老人が立っている。日焼けした顔に刻まれた皺がその人生の深さを物語っているようだ。


「ああ、この石碑ですか。これは、この土地に伝わる古い言い伝えを記したものですよ」

「言い伝え?」


老人はゆっくりと頷く。


「ええ、言い伝えです。この祠に祀られている神様は、旅人を見守る神様として、古くからこの土地の人々に信仰されてきたんです。特に困難な旅をしている人には、特別な加護を与えてくれると言われています」

「困難な旅、ですか?」

「そうです、昔はこの辺りは山深く道も険しかった。旅をする人々は盗賊に襲われたり、道に迷ったり、様々な困難に見舞われたそうです。そんな時、この神様に祈ると不思議と助けられたという話がたくさん残っているんですよ」

老人は遠い目をして語り続ける。


「この石碑には、その神様がどんな困難にも立ち向かう勇気を与え、正しい道へと導いてくれると書かれています。ただし、神様の加護を受けるには一つの条件があるんです」

「、、、条件」

「ええ。それは、自分の心に正直であること。迷いや偽りのない、純粋な心で神様に祈ることです。そうすれば神様は必ず、その願いを聞き入れてくれるでしょう。
私も若い頃、何度もこの神様に助けられました。人生の岐路に立った時、迷わず自分の信じる道を進むことができたのは、この神様のおかげだと思っています」


菜穂は老人の言葉に深く感銘を受ける。そして改めて祠に手を合わせ心の中で呟く。


(私の旅も、困難に満ちているかもしれません。でも、自分の心に正直に、前を向いて進んでいきたいと思います)


老人は菜穂の様子を見て満足そうに微笑む。


「どうか、良い旅を。そして、いつかまた、この祠に立ち寄ってください」


菜穂は老人に深々と頭を下げ、相棒のエンジンの音とともに再び走り出す。老人の言葉が胸に深く刻まれ、菜穂の旅をさらに力強く後押ししてくれる。四万十川への道はまだ長い。





つづく。
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