上 下
120 / 244
第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~

67時間目 この世界にはもう居ない友人

しおりを挟む
「ンアー……」
俺は、寝てたのか。
ヤバイ昨日どうやって帰ったンだ?
朝顔の事を話してからの記憶がない。
未開封のコーヒー缶がいくつか散らかっている事を除けば、割と綺麗な部屋。
そして、窓からは鬱陶しいくらい明るい太陽の光がもう朝、もしくは昼に近いことを俺に知らせている。
そして、目の前には机。
どうやら、俺は机に突っ伏して寝ていたようだ。
コンコンと控えめなノックが聞こえた。
「はーい」
「あっ、睡蓮君。おはようっ! その、昨日はお疲れ様……。昨日はご飯も食べずに、お風呂にも入らずに寝ちゃったからシャワーでも浴びたらどうかな? ご飯、菫ちゃんがもう作ってくれているからね」
「おう。そうだな。入るわ」
ドア越しに聞こえてきたのは舞花まいかの声。
そうなのか。
俺、疲れてたンだなァ。
ドアを開け、2階に降りて、浴室に入る。
そして、シャワーを浴びた。



       ※※※



シャワーを浴びた後、菫が作った朝食を食べた。
菫は家事が上手で目玉焼きもそれぞれの好みに合わせてくれている。
俺は目玉焼きは半熟派だ。
トロトロとした黄身はご飯とよく合う。
それに、味付けは塩コショウ。
王道だが最強に美味い。
醤油も捨てがたいがやはり、目玉焼きには塩コショウである。
「睡蓮君は目玉焼きは半熟なんだね」
「おう。黄身トロトロでうめェから好きなんだよ」
「私と一緒だ。ホッキーかフリッツどっち派かな?」
「「フリッツ」」
「だな」
「だよね!」
見事に同じ単語を言った俺達は数秒、見つめ合い、それがとても可笑しくて吹き出す。
「フッ……!」
「ふふっ……!」
なんだか楽しくていつまでもこうして居たかったが、そんなわけにもいかない。
俺にはコイツらの未来を背負っている。
だから、
「ンじゃ、バイト行ってくる」
俺が階段をのそのそと歩くと、舞花も後ろにとことことついてくる。
「いってくるな。家のこと、よろしく」
「いってらっしゃい」
その時の舞花の笑顔に少しドキッとした。
俺、昨日から変わってしまったな。
女子に対しての免疫がなくなったのか、それとも、異性を今頃意識しだしたのか。
どちらにしても、舞花をそういう目で見るのはいけない。


─いつも通り、俺らしく─


百合がこの世界から居なくなった日から決めている自分のルール。
さぁ、今日もバイト頑張るか。



       ──



「神谷さん、おざす」
「あら、黒沢君。おはよう。今日も1日頑張りましょう」
「そうっすね」
俺はいつも通り神谷さんと接する事が出来て安堵のため息をついた。
今日は敦志が居ないので俺がレジ打ちをする。
アイツは基本長期休みの時にしか来ない。
まぁ、ここの経営がヤバイのは変わりねェンだけどな。
神谷さんは律儀にもバイト用の制服を着て、店内にモップがけをしている。
この制服は1年前までは骨折、ようやく復帰したと思ったら次は酷い胃腸炎で入院となった店長の趣味がある。
あの人、マジでいつになったら俺を代理店長辞めさせてくれるンだろな。
つーか、悪運すぎるだろ。
骨折の次は胃腸炎って。
その趣味とは制服の生地が胸につっかえるようになる仕組みである。
そう、その店長は巨乳好きだったのだ!
神谷さんくらいの大きさの人だと割とデカく見える。
ちなみに俺は制服を着ていない。
私服でやっている。
そんな事がなぜ許されるのかって?
俺が代理店長なのと、堅苦しい服が昔から嫌いなのが理由だ。
そうこうしている内に、いつの間にか昼食の時間になった。
安定の午前中は全然客が来ないのは、今日も健在だ。
そして、今日の俺のシフトは午前のみ。
「神谷さん、昼なに食います? 俺、もう無いンでなんか買ってきますよ? 花見代だしてないンで」
「大丈夫よ。私も午前で終わりだから。あ、舞花ちゃんに伝える事があるから黒沢君の家行っていいかしら?」
「いいっスけど」
「それじゃあ、行きましょうか」
神谷さんは着替えるから待っててと奥へ消えていった。
数分後にいつもの私服で来た彼女と共に、コンビニをでた。
「なんか、こうして二人で歩くの久しぶりっスね」
「あれれ~? 急にどうしたの? お姉さんに恋しちゃったのかな~?」
「ンな事があってたまるか」
なんかこんなやり取り昔にもあったような気がする。
中学の頃だろうな。
百合がよく、からかわれていたっけ。
アイツは自分の気持ちをからかわれている時は悟られないように必死で隠してたンだよな。
「なんか懐かしいですね」
「ね! 私もそう思った」
お互い口にしないが、中学の頃の事だと理解している。
ここに百合がいればな。
3人で笑い合えたのに。
なんで、お前はこの世界から消えちまったンだよ。
いつもの帰り道、ここの信号を渡ればもう家だ。
ふとそちらを目にすると、玄関の前に人影があった。
黒のロングパーカーに、黒ズボンの男が。
俺と同じかひとつ下くらいのヤツだった。
信号が青になり、俺はソイツに話しかける。
「なんか用っs──」
顔を見ると、言葉を失った。
なんでお前がここにいるンだ。
「黒沢君? どうかしたの? ──ッ!」
「二人とも、久しぶり」


百合はこの世界に居ない。


中学の頃の純粋で、明るかった百合橙太はくごうとうたはもう居ない。

俺達の目の前に居るのは、目の光を完全に無くした百合橙太だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

わたしはただの道具だったということですね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,790pt お気に入り:4,202

婚約破棄?ありがとうございます、ですわー!!!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:582pt お気に入り:164

さっさと離婚に応じてください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78,185pt お気に入り:1,058

6回目のさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,453pt お気に入り:45

処理中です...