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第6章EX 常夏と蒼い海 ─少年のリスタート─

90・2時間目 夏の風物詩

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 夏と言ったら、なにを思い浮かべるだろうか。

 俺は宿題を思い浮かべるし、裕太は海を思い浮かべ、遼太郎はセミを思い浮かべると言う。

 誰に聞いても意見が異なるその問いはきっと、それぞれの個性を表しているに違いない。

「でもさ、夏と言ったら、やっぱり夏休みだよね」

 クーラーがガンガンに効いた電車内で裕太はそう言う。

 その顔にはうっすらと汗が浮かんでいた。

 ここまで来るのに暑さに辟易へきえきしながら、来た。

 今年の夏は観測史上初の連日四十度越えだとお天気キャスターのお姉さんが言っていた。

 確かにそうだと思う。

 くっそ暑いな。

「だよな。夏休みって言ったら? 遼太郎」

「海! だな! 早く着かないかなー?」

「あと二駅だ。それまで涼んでおこうぜ」

 ちなみに、この電車に乗るまでに二回も乗り換えをしている。

 駅までの道のりがこれまた長くて暑い暑いと言いながら、ホームまで来たのは言うまでもない。

 二駅分、電車に揺られて俺たちは改札口から地上に出た。

 そこから、数分歩いて、海の家で受付を済ませてから、着替えるのだが、海の家に着く前に夏の暑さにやられてしまい、休憩がてら近くの売店でソフトクリームを買った。

 遼太郎は冷たい渦巻きを幸せそうに食べていた。

 子供っぽいが遼太郎がするからこそ、なんかおもむきがある。

「ここのソフトクリーム、ミルクの味がしっかりしていて濃厚で美味しいね」

「これでこの値段なら安いよな」

 このソフトクリーム、一つ300円だ。

 全然安い。

 ソフトクリームを食べて一休みをしたあと、再び、海へと足を俺たちは進めた。

 ──

 あのあと、海の家へと到着し、すぐに着替えた俺は、脱衣場の前で突っ立っていた。

 二人とも焼きそば買いに行ってから、戻ってこないんだが……。

「ねぇねぇ、あの人すごくイケメンじゃない?」

「隣の子、彼女かな? 声かけてみようよ」

 俺の前を素通りした女子二人の声につられて、その方向を見ると、裕太と遼太郎が大勢の女性に囲まれていた。

 遼太郎は、水色のラッシュガードを着ているため、女子っぽく見えたのだろう。

「……友人と待ち合わせているので通してもらっていいですか?」

 裕太がそう言うが、女性の群れは微動だにしない。

「……これ、俺から行かなきゃいけないパターンか……」

 俺は、ため息をつきながら、女性の群れに近寄り、彼らを連れ戻した。

 まだなにもしていないのに裕太と遼太郎の顔には疲れがあったことは言うまでもない。

「……お疲れさん。なんか、うん、慣れた」

「……慣れてるけど疲れるよ……」

「山内に同意」

 いや、遼太郎は慣れてないだろ。

 いや、慣れてるのか?

「とりあえず、泳ごうぜ」

 こうして、俺たちは夏の風物詩を楽しんだ。

 ちなみに、遼太郎の性別が男だと女性たちが気がついたのは、ラッシュガードを脱いだときである。
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