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第4章 アリーシア一家の危機
第25話 カシウス皇子の帰還
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アリーシアの裁判は、マリナの発言により転換点を迎えていた。
「陛下、呪術があるかどうかを調べる簡単な方法がございますわ」
マリナの言葉に、皆の注目が集まる。
「続けろ」
陛下の言葉に一礼してマリナは進み出る。
「わたくしは商会にて様々な人と出会います。その中に、呪術の有無について調べる方法を知る者がいました」
マリナが目配せをすると、車輪のついた荷台を押しながら、ぼろ布をまとった老婆が現れる。
荷台の上には、炎が燃え盛る器具を乗せていた。
火を使う調理か、実験のための道具のようにアリーシアには感じられた。
「そのような火を持ち込んで、いったい何をするつもりだ?」
「こちらの老婆は、呪術に反応する『聖なる火』の使い手なのです」
再びマリナが老婆に合図を送ると、老婆はその手を無造作に火の中にいれる。
傍聴席から悲鳴があがるが、そのぼろ布の袖を含め老婆には火が燃え移ることはない。老婆も平然とした表情のままだ。
「このように、呪術のないものには火は燃え移りません。ですが、呪術をもったものが火に触れるとたちまち燃え上がることになるでしょう」
「そ、そんなことはできません!」
アリーシアは思わず声をあげる。
(みーちゃんを燃やすなんて、そんなこと、絶対にさせない!)
あの老婆はいかにも怪しい。炎に触れる手品があると聞いたことがある。おそらくそのたぐいの奇術師だ。
呪術もそうだが、マリナはみーちゃんのことがアリーシアにとって大切なものであることを察しているのだろう。
みーちゃんを燃やさせ、しかも呪術の嫌疑を決定的にする。
それがマリナの目的だ。
「お従姉さま、これはお従姉さまのためですわ。呪術がなければ、人形を火にかざしても問題ないのです。
……心配しなくても大丈夫ですわ。もちろんわたくしもお従姉さまが呪術なんて使えることないって信じてますから。ちょっと試してみるだけですわ」
マリナがこちらを見て諭すような口調で語りかけてくる。
「くっ……」
マリナの言葉に、皇帝陛下をはじめ、今度は皆の注目がアリーシアに集まる。
「……そ、それはできません」
アリーシアの言葉に傍聴席の貴族たちがざわめく。
「ですが! 私自身がその炎に身をかざします」
(どうせ、燃やされるなら、私が燃やされた方がましよ)
「呪術の力に反応するんでしょ? もしわたしが呪術の使い手なら、わたしにも反応するはず。それでもいいんでしょう? どっちにしても、呪術がなくて燃えないとしたら一緒よね?」
「それは……そうですわね、それでも大丈夫ですわ」
アリーシアの言葉に、マリナも同意する。
これから起こることに目を輝かせているようにアリーシアには感じられた。
「よかろう、やってみせよ」
アリーシアは炎の前に進み出る。
そして左手で胸にみーちゃんを抱きしめ、右手を炎に近づける。
(熱い!)
近づけただけで、炎の熱さがつたわってくる。
意を決して、アリーシアがその手を炎につっこむと、瞬間、ドレスの袖に火が燃え移る。
「きゃーーっ!」
燃え移った炎をみて、傍聴席の夫人や令嬢から悲鳴があがる。
かざした手の痛みに、みーちゃんを持っていたもう片方の手の力が緩んでしまう。
「おかーさま!」
炎を見たみーちゃんはアリーシアの燃えた手に飛び込み、火を消そうとする。
「みーちゃん、ダメよ!」
場が混乱につつまれそうになった、その時だった。
入り口の扉が開け放たれ、アリーシアとみーちゃんのの元にひとりの男が駆け寄る。
そしてその身にまとったマントでアリーシアの腕とみーちゃんをくるむと、火はすぐに消えた。
「まったく、無茶をする」
アリーシアはデビュタントの時と同じく抱き上げられる。
戦地からそのまま駆けてきたのだろう。
鎧をまとわない軽装とはいえ、カシウス皇子は戦装束のままだった。
「――あなたが来てくれるって信じてましたから」
腕の中から見上げるカシウス皇子の端正な顔がいつも以上に凛々しく感じられる。
「早く、医者と、冷やすものを持ってこい!」
カシウス皇子の指示により、すぐに医者と氷室におさめられた氷が持ち込まれる。
手はかなり痛み、真っ赤になっているが、それでも前世での仕打ちを思い起こせば、かすり傷のようなものだ。
「大丈夫、これくらいの火傷、大したことありません。それよりみーちゃんは!?」
「わたしもだいじょーぶよ。ちょっと服が燃えただけ」
周囲を気にしながらの小声ではあったが、普段通りのみーちゃんの様子に、アリーシアはほっとする。
「人形がしゃべった!?」
「やはり呪術は本当だったのか!?」
動いてしゃべるみーちゃんの姿を見て、周囲のざわめきは大きくなる。
皇帝陛下が周りの雑音を制し、まずは突然現れたカシウス皇子に話しかける。
「カシウスよ、お前がここにいるということは、戦は終わったのか?」
「はい。今回の宣戦布告は、陛下もご存じの通り強硬派の暴走によるものです。タリマンドでの事件も明るみになり、強硬派の主だったものも捕縛されました。もちろん帝国への賠償金も支払われます。ほとんど戦わずに終わったのです」
皇帝の問いに、カシウス皇子が答える。
「うむ、よくやった。だが、裁判の方も進めなければならぬ。先ほどの炎。それに、声がする動く人形。やはり、そなたは呪術の使い手なのだな?」
「………………はい」
みーちゃんが動き、声を出してしまった以上、もう認めるしかない。
「……ご、ごめんなさい、おかーさま」
「いいのよ、ありがとう、みーちゃん」
小声で謝るみーちゃんをそっと抱きしめる。
炎に包まれた腕を見てとっさに動いてしまったのだ。みーちゃんは何も悪くない。
(わたしはどうなっても良いから、みーちゃんとカシウス皇子に罪が及ばないようにしないと!)
アリーシアはそう覚悟を決める。
「陛下、この炎は『聖なる火』などではなく、ただの火です。あの老婆は手に炎が燃え移らないよう、薬品を塗っていただけ」
カシウス皇子はそう言うと、布切れを取り出し、火にくべる。
布切れはあっという間に燃えつきる。
「次は、その老婆の足をつっこんでみろ」
「お、お許しを! あ、あたしはあの者の指示にしたがっただけで!」
カシウス皇子の命令で兵士が近づくと、老婆が額をこすりつけるようにして許しを乞う。どうやら足には薬品を塗っていなかったのだろう。
「……ワシを騙したのか。これはどういうことだ?」
皇帝陛下がマリナの方を見て尋ねる。
「も、申し訳ございません! わ、わたくしもこの老婆に騙されておりました。お許しください」
「違います! この女の言われた通りにやっただけです!」
マリナと老婆の責任の押し付け合いがはじまる。
「黙れ、お前たちは後回しだ。――だが、先ほどの人形からの声はどう説明する? それに、そなたも認めたな?」
みーちゃんがしゃべったことは言い訳ができない。
何とか弁解しようとしたアリーシアをカシウス皇子が止める。
「アリーシア、大丈夫だ。あとはわたしから話す」
アリーシアはうなずき、この場をカシウス皇子に任せる。
カシウス皇子がそう言うのなら、本当に大丈夫なのだろう。
「そうです。これはまさしくタリマンドの呪術の力です。ですが、この呪術は帝国を救うための『聖なる力』なのです」
「? どういうことだ?」
カシウス皇子の言葉に、皇帝陛下は先を促す。
「陛下もご存じのように先の皇妃、私の母はタリマンドの出身。幼少の頃、母より、帝国に危機が迫った時は、禁忌を冒してでも帝国を救うように言われておりました。そして、こちらのエステルハージ侯爵令嬢の母はタリマンドの出身の巫女。その巫女が作った人形に呪術の力をこめ、神託と呼ばれる奇跡を起こしたのはこの私なのです」
カシウス皇子の言葉に皇帝陛下は考え込む。
「つまり、呪術を使うという禁忌を犯したのはカシウス皇子、おまえだというのか?」
「その通りです。ですが、タリマンドはもう帝国の一部。その力を帝国発展のために役立てることこそが、皇子としての務めと考えております」
カシウス皇子は曇りのない瞳でまっすぐ皇帝陛下を見て話す。
その眼力は、皇帝陛下にまったく劣っていない。
「……なるほど、帝国発展のためか。……そうだな。もともと呪術を禁忌としたのはタリマンドがまたその力で反乱を起こすことを封じるためだ。今や、そなたたちの力でタリマンドは帝国の一部としてより強固になった」
そこで、皇帝陛下は立ち上がり、周囲をいちど見回してから告げる。
「……よかろう、タリマンドの呪術を禁忌とするのは撤廃する。そなたたちで、これからもその力を帝国に役立てよ」
「かしこまりまして」
皇帝陛下の言葉に、カシウス皇子は頭を下げる。
「あ、ありがとうございます、皇帝陛下」
アリーシアもカシウス皇子の腕の中であわてて頭を下げる。
呪術が禁忌でなくなれば、みーちゃんを隠す必要もなくなる。
「し、しかし、陛下! 西の王国とつながり、疫病をひき起こした罪は!?」
なおも、第二皇子派の貴族が食い下がる。
「先ほど申し上げた通り、それは西の王国の強硬派の仕業だ。すでに、首謀者は西の王国で捕縛されている。帝国、ましてやエステルハージ侯爵令嬢と全く関係ないことはすぐに証明できる」
カシウス皇子の氷の瞳が第二皇子派の男を射抜く。
「むむむ……」
その視線の冷たさに第二皇子派の貴族も黙り込むしかなかった。
「これで、一件落着だな」
皇帝陛下の言葉に、場に弛緩した空気がただよう。
「それにしてもタリマンドの呪術は不思議なものだな。その人形、ひとりでに動いてしゃべるのか?」
「は、はい、みーちゃん、しゃべって大丈夫よ」
アリーシアが促し、みーちゃんはしゃべりはじめる。
「は、はじめまして。こーていへいか、わたしはみーちゃんと申します。アリーシアの守護霊です」
みーちゃんは人形の姿ではあったが、帝国式の丁寧な礼で皇帝陛下に挨拶をする。
「とってもかわいい!」
「わたしも守護霊ほしい!」
その可憐な姿に、傍聴席の令嬢たちからも感嘆の声があがる。
「うむ。その力、これからも帝国のために役立てるのだ」
「わかりました、こーていへいか」
皇帝陛下がみーちゃんにそう返すと、みーちゃんも再び一礼した。
「さて、では最後に、後回しにしたそなたたちの始末だな」
皇帝陛下はマリナと老婆の方に向きなおった。
「陛下、呪術があるかどうかを調べる簡単な方法がございますわ」
マリナの言葉に、皆の注目が集まる。
「続けろ」
陛下の言葉に一礼してマリナは進み出る。
「わたくしは商会にて様々な人と出会います。その中に、呪術の有無について調べる方法を知る者がいました」
マリナが目配せをすると、車輪のついた荷台を押しながら、ぼろ布をまとった老婆が現れる。
荷台の上には、炎が燃え盛る器具を乗せていた。
火を使う調理か、実験のための道具のようにアリーシアには感じられた。
「そのような火を持ち込んで、いったい何をするつもりだ?」
「こちらの老婆は、呪術に反応する『聖なる火』の使い手なのです」
再びマリナが老婆に合図を送ると、老婆はその手を無造作に火の中にいれる。
傍聴席から悲鳴があがるが、そのぼろ布の袖を含め老婆には火が燃え移ることはない。老婆も平然とした表情のままだ。
「このように、呪術のないものには火は燃え移りません。ですが、呪術をもったものが火に触れるとたちまち燃え上がることになるでしょう」
「そ、そんなことはできません!」
アリーシアは思わず声をあげる。
(みーちゃんを燃やすなんて、そんなこと、絶対にさせない!)
あの老婆はいかにも怪しい。炎に触れる手品があると聞いたことがある。おそらくそのたぐいの奇術師だ。
呪術もそうだが、マリナはみーちゃんのことがアリーシアにとって大切なものであることを察しているのだろう。
みーちゃんを燃やさせ、しかも呪術の嫌疑を決定的にする。
それがマリナの目的だ。
「お従姉さま、これはお従姉さまのためですわ。呪術がなければ、人形を火にかざしても問題ないのです。
……心配しなくても大丈夫ですわ。もちろんわたくしもお従姉さまが呪術なんて使えることないって信じてますから。ちょっと試してみるだけですわ」
マリナがこちらを見て諭すような口調で語りかけてくる。
「くっ……」
マリナの言葉に、皇帝陛下をはじめ、今度は皆の注目がアリーシアに集まる。
「……そ、それはできません」
アリーシアの言葉に傍聴席の貴族たちがざわめく。
「ですが! 私自身がその炎に身をかざします」
(どうせ、燃やされるなら、私が燃やされた方がましよ)
「呪術の力に反応するんでしょ? もしわたしが呪術の使い手なら、わたしにも反応するはず。それでもいいんでしょう? どっちにしても、呪術がなくて燃えないとしたら一緒よね?」
「それは……そうですわね、それでも大丈夫ですわ」
アリーシアの言葉に、マリナも同意する。
これから起こることに目を輝かせているようにアリーシアには感じられた。
「よかろう、やってみせよ」
アリーシアは炎の前に進み出る。
そして左手で胸にみーちゃんを抱きしめ、右手を炎に近づける。
(熱い!)
近づけただけで、炎の熱さがつたわってくる。
意を決して、アリーシアがその手を炎につっこむと、瞬間、ドレスの袖に火が燃え移る。
「きゃーーっ!」
燃え移った炎をみて、傍聴席の夫人や令嬢から悲鳴があがる。
かざした手の痛みに、みーちゃんを持っていたもう片方の手の力が緩んでしまう。
「おかーさま!」
炎を見たみーちゃんはアリーシアの燃えた手に飛び込み、火を消そうとする。
「みーちゃん、ダメよ!」
場が混乱につつまれそうになった、その時だった。
入り口の扉が開け放たれ、アリーシアとみーちゃんのの元にひとりの男が駆け寄る。
そしてその身にまとったマントでアリーシアの腕とみーちゃんをくるむと、火はすぐに消えた。
「まったく、無茶をする」
アリーシアはデビュタントの時と同じく抱き上げられる。
戦地からそのまま駆けてきたのだろう。
鎧をまとわない軽装とはいえ、カシウス皇子は戦装束のままだった。
「――あなたが来てくれるって信じてましたから」
腕の中から見上げるカシウス皇子の端正な顔がいつも以上に凛々しく感じられる。
「早く、医者と、冷やすものを持ってこい!」
カシウス皇子の指示により、すぐに医者と氷室におさめられた氷が持ち込まれる。
手はかなり痛み、真っ赤になっているが、それでも前世での仕打ちを思い起こせば、かすり傷のようなものだ。
「大丈夫、これくらいの火傷、大したことありません。それよりみーちゃんは!?」
「わたしもだいじょーぶよ。ちょっと服が燃えただけ」
周囲を気にしながらの小声ではあったが、普段通りのみーちゃんの様子に、アリーシアはほっとする。
「人形がしゃべった!?」
「やはり呪術は本当だったのか!?」
動いてしゃべるみーちゃんの姿を見て、周囲のざわめきは大きくなる。
皇帝陛下が周りの雑音を制し、まずは突然現れたカシウス皇子に話しかける。
「カシウスよ、お前がここにいるということは、戦は終わったのか?」
「はい。今回の宣戦布告は、陛下もご存じの通り強硬派の暴走によるものです。タリマンドでの事件も明るみになり、強硬派の主だったものも捕縛されました。もちろん帝国への賠償金も支払われます。ほとんど戦わずに終わったのです」
皇帝の問いに、カシウス皇子が答える。
「うむ、よくやった。だが、裁判の方も進めなければならぬ。先ほどの炎。それに、声がする動く人形。やはり、そなたは呪術の使い手なのだな?」
「………………はい」
みーちゃんが動き、声を出してしまった以上、もう認めるしかない。
「……ご、ごめんなさい、おかーさま」
「いいのよ、ありがとう、みーちゃん」
小声で謝るみーちゃんをそっと抱きしめる。
炎に包まれた腕を見てとっさに動いてしまったのだ。みーちゃんは何も悪くない。
(わたしはどうなっても良いから、みーちゃんとカシウス皇子に罪が及ばないようにしないと!)
アリーシアはそう覚悟を決める。
「陛下、この炎は『聖なる火』などではなく、ただの火です。あの老婆は手に炎が燃え移らないよう、薬品を塗っていただけ」
カシウス皇子はそう言うと、布切れを取り出し、火にくべる。
布切れはあっという間に燃えつきる。
「次は、その老婆の足をつっこんでみろ」
「お、お許しを! あ、あたしはあの者の指示にしたがっただけで!」
カシウス皇子の命令で兵士が近づくと、老婆が額をこすりつけるようにして許しを乞う。どうやら足には薬品を塗っていなかったのだろう。
「……ワシを騙したのか。これはどういうことだ?」
皇帝陛下がマリナの方を見て尋ねる。
「も、申し訳ございません! わ、わたくしもこの老婆に騙されておりました。お許しください」
「違います! この女の言われた通りにやっただけです!」
マリナと老婆の責任の押し付け合いがはじまる。
「黙れ、お前たちは後回しだ。――だが、先ほどの人形からの声はどう説明する? それに、そなたも認めたな?」
みーちゃんがしゃべったことは言い訳ができない。
何とか弁解しようとしたアリーシアをカシウス皇子が止める。
「アリーシア、大丈夫だ。あとはわたしから話す」
アリーシアはうなずき、この場をカシウス皇子に任せる。
カシウス皇子がそう言うのなら、本当に大丈夫なのだろう。
「そうです。これはまさしくタリマンドの呪術の力です。ですが、この呪術は帝国を救うための『聖なる力』なのです」
「? どういうことだ?」
カシウス皇子の言葉に、皇帝陛下は先を促す。
「陛下もご存じのように先の皇妃、私の母はタリマンドの出身。幼少の頃、母より、帝国に危機が迫った時は、禁忌を冒してでも帝国を救うように言われておりました。そして、こちらのエステルハージ侯爵令嬢の母はタリマンドの出身の巫女。その巫女が作った人形に呪術の力をこめ、神託と呼ばれる奇跡を起こしたのはこの私なのです」
カシウス皇子の言葉に皇帝陛下は考え込む。
「つまり、呪術を使うという禁忌を犯したのはカシウス皇子、おまえだというのか?」
「その通りです。ですが、タリマンドはもう帝国の一部。その力を帝国発展のために役立てることこそが、皇子としての務めと考えております」
カシウス皇子は曇りのない瞳でまっすぐ皇帝陛下を見て話す。
その眼力は、皇帝陛下にまったく劣っていない。
「……なるほど、帝国発展のためか。……そうだな。もともと呪術を禁忌としたのはタリマンドがまたその力で反乱を起こすことを封じるためだ。今や、そなたたちの力でタリマンドは帝国の一部としてより強固になった」
そこで、皇帝陛下は立ち上がり、周囲をいちど見回してから告げる。
「……よかろう、タリマンドの呪術を禁忌とするのは撤廃する。そなたたちで、これからもその力を帝国に役立てよ」
「かしこまりまして」
皇帝陛下の言葉に、カシウス皇子は頭を下げる。
「あ、ありがとうございます、皇帝陛下」
アリーシアもカシウス皇子の腕の中であわてて頭を下げる。
呪術が禁忌でなくなれば、みーちゃんを隠す必要もなくなる。
「し、しかし、陛下! 西の王国とつながり、疫病をひき起こした罪は!?」
なおも、第二皇子派の貴族が食い下がる。
「先ほど申し上げた通り、それは西の王国の強硬派の仕業だ。すでに、首謀者は西の王国で捕縛されている。帝国、ましてやエステルハージ侯爵令嬢と全く関係ないことはすぐに証明できる」
カシウス皇子の氷の瞳が第二皇子派の男を射抜く。
「むむむ……」
その視線の冷たさに第二皇子派の貴族も黙り込むしかなかった。
「これで、一件落着だな」
皇帝陛下の言葉に、場に弛緩した空気がただよう。
「それにしてもタリマンドの呪術は不思議なものだな。その人形、ひとりでに動いてしゃべるのか?」
「は、はい、みーちゃん、しゃべって大丈夫よ」
アリーシアが促し、みーちゃんはしゃべりはじめる。
「は、はじめまして。こーていへいか、わたしはみーちゃんと申します。アリーシアの守護霊です」
みーちゃんは人形の姿ではあったが、帝国式の丁寧な礼で皇帝陛下に挨拶をする。
「とってもかわいい!」
「わたしも守護霊ほしい!」
その可憐な姿に、傍聴席の令嬢たちからも感嘆の声があがる。
「うむ。その力、これからも帝国のために役立てるのだ」
「わかりました、こーていへいか」
皇帝陛下がみーちゃんにそう返すと、みーちゃんも再び一礼した。
「さて、では最後に、後回しにしたそなたたちの始末だな」
皇帝陛下はマリナと老婆の方に向きなおった。
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