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いいひとのなにが悪い
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恋をすると多くの人は
永遠を想うらしい
らしい、というよりは
『きっと』永遠に憧れている
そんな気恥ずかしい、と口にする事はなくても、ラブソングが流れた数だけ、永遠は唱えられている。
でも同じように
恋の始まりが
恋の終わりへのカウントダウンになる事も
多くの人は気がついていて
永遠なんてないという現実と
そんな永遠への憧れを
あわせもって恋をする
『でもさ、永遠なんて、実際にしんどいと想う
大好きな食べ物だからって、永遠と提供され続けたら、きっと苦痛でしかないよ』
『そうだよね』と
隣で事の後の煙草をふかしているタクミに話しかけた
『んぅ~、なにがさ』
『話聞いてなかったの』
思わず言葉に刺がでる。
コイツはいつもそうだ。ひとの話半分、いや八分の1くらいしか聞いちゃぁいない。
なにが、恋は好きになったもんが負けだから、いつも愛情をセーブしてるんだ、だよ。
面倒くさいだけだろ。
『もういい。』
『永遠についての考察だろう』
『えっ』
『えっじゃぁないよ。』
マリコさぁ、と話はつづく。
わたしは名前を『ひらり』という。
苗字は小手毬だ。『小手毬ひらり』小学校は別にして、呼びやすさもあって、中学・高校・大学在学中の現在もタクミ以外は、みんな『ひらり』もしくは『ひらりちゃん』『小手毬さん』たまに『こでちゃん』に『まりちゃん』『まりまり』etc
タクミだけが『まりこ』と呼ぶ。
ちなみにタクミは流行りの匠海くんとか拓海とかではなくて巧みな『巧』でも呼び名は『お兄ちゃん』だ。
別に、お兄ちゃんが欲しいからその代わり、とか、憧れ感あるでしょ?とか
そんな感じでもなくて、昔から好きになると、甘えたくなって、ついついお兄ちゃん、と呼んでしまう。
何でだろ、じぶんでもよくわからない。
タクミは、はっきりしてる。
『特別な相手しか名前で呼びたくないから』だそうだ。
そう言って、それでも他の誰も呼ばない特別な名前をわたしにくれた。
だから、わたしはお兄ちゃんにとっての特別で、その時だけ、わたしは、まりこになる。
そう、わたしと彼の関係はステディなものでも、契約の交わされた恋人関係でも、セックスフレンドでも無かった。
セカンドパートナーとでもいえば近い気もするし、そうでもないようにも想える。
要は、よくわからない関係だった。
特別なひとと言えば良い気分もするけれど、実際は、ほとんど『都合のいい女』ではないか、ともいえる。
『永遠なんてさ、つくりだせばいっぱい溢れてるんやで。』
タクミは、例えば、『永遠の一瞬』と『一瞬の永遠』と言った。
彼はカメラマンを目指していて、時々、その事について触れてくる。
『その瞬間を留めてくてれる装置』
『永遠の一瞬を永遠にする』なんてうそぶいている。
その時の記憶は永遠にその写真が覚えてくれている、かららしい。
『あの時の約束』とかが、いつか嘘になってしまったとしても、『あの時のホント』は永遠、なんだって。
実に都合のいい。
まるで、わたしとの関係みたい。
実際には、この関係は、わたしが引っ掛けた事から始まる。
タクミに彼女がいた事は知っていた。
だけど、横取りしたい、とか、大好き過ぎて、とかでもなく、なんとなく横に並んで歩きたいと、あの日思ったのだ。
郊外にある大学は、スクールバスで下校する。同じバスに乗れば、もしくは乗り合わせた時は、知らない同性の隣より、知っている異性の方が座りやすい。
そんな事があるから、バスに乗り込んだタイミングで、タクミを隣に呼び寄せた。
特に誰かが気にするでもない。彼女のいる男を隣に呼び寄せても。
このバスは、そういうものだから。
そのまま、バスを降りても話は続いていて、『たまに途中下車して歩く河原が気持ち良い』という話に食いついたタクミを強引に連れ降ろして河原を海近くまで歩いた。
結局、終電が無くなるまで歩いて、ラブホテルに泊まるという事態から、この関係は、始まった。
驚いた事に、この夜タクミは、一緒にオフロに入ったのに手を出してこなかった。
今までの男なら絶対ない展開にわたしは、堕ちたのだと思っている。
結局、その後も一緒に遊びに出かけて3回目くらいで一線を越えたものの、彼女の存在がある事は理解していたから、ただ一緒に過ごす、という関係が出来上がった。
わたしは、学生時代の間に、今いるクラブの男を全員食い漁ってやるのが夢だとタクミには宣言していた。
だから、ふたりでいる時間以外は不干渉だし、
一緒に下校していても、仲の良い先輩後輩関係があまりにもはっきりして見えるのか、周囲の誰も気にする者がいない。むしろ同級生とふたりでいるの時のほうが怪しまれているような状態だった。
あまりにも、ふたりがそばにいる事が、自然な距離感だったのだろうと思う。
それは良くも悪くもという事だ。
『ねぇお兄ちゃん、わたしとずっと一緒にいたい?』
裸のまま布団から起き上がって、タクミの前に仁王立ちして聞いてみる。
『おいおい、スッポンポンで何を言い出すかな。
まあ、それはよしとして、わたしをに関しては、わたしたちは、に訂正してもらっていい?』
『なに?わたしが、離れていきそうな感じがしてる?』
『そうじゃないよ、逆。
わたしたちは、ずっと一緒にいたいと思ってるんだよ』
そう言って抱きしめられたけど、急に何かが違うような気がしてきていた。
わたしは、本当に、ずっと一緒にいたいと思っているのだろうか。そんな気持ちが、消えてはくれなかった。
その後、ベッドにもつれこんで、雨の気配を感じるまでぐっすり眠った。
『雨?』
『たぶん。』
ここのホテルには窓があって、分厚いガードのような窓ふさぎの隙間から光が漏れてくる。
雨は音じゃなくて、色温度でわかるね、とお兄ちゃんは時々わけのわからないことを言う。
写真用語らしいけれど、どんな温度を言うのかわからない。
でも、夏のような春の連休とか、冬みたいな空を見ながら言われると、たまにナルホドそうかも、と思うときはある。
ただ、今日はよくはわからなかった。ただ、2人とも雨の気配には敏感で、外を見なくても、まず外れた事はない。
『結構降ってるよね。また学校休校にならないかな。』
『早々に、そんな日ばかり続かんでしょ』
前回のお泊りの日は、夜から降り続いた雨がそのまま止むことはなく、大雨警報に変わった事で学校は、休校になった。
それ以外でも、朝まで電話した翌日が大雨で、警報が発令されて休校になったりと、まあまあな頻度で、一緒に過ごす翌日が休校になった。
(こんなに大雨警報で休校してたら学校の単位大丈夫?とか笑っていたら、翌年から暴風警報を伴わない大雨警報での休校措置が、本当になくなったのには、ちょっと驚いた。)
傘を差して歩く。
いつもお兄ちゃんは傘を持ち歩いている。
『そういう恋愛をしてきたから』とよく言っている。
どういう恋愛だったのかは知らない。結局聞くことはなかった。
ただ、雨の日は、いつも家まで送ってくれるから、うれしい。今日は学校が終わったら送ってくれるのかな。
そう思いながら、スクールバスを降りてクラブハウスに向かう時『相合傘を学校でもしてみようよ』と言ったら、普通に『いいよ』と言われてしまった。
おいおい、少しは気にしろよ、とも思いながら
クラブハウスまで歩いたけれど、誰も冷やかしてこなかった。
『おはよう』とお兄ちゃんは挨拶して、わたしも『おはよう』と言って、クラブの輪に入っていく。気がつけばお兄ちゃんは彼女の隣にいて、わたしは同級生と座って笑っていた。
実は、お兄ちゃんの彼女ともわたしは仲良しだから、一体この関係はなんなんだろう、って思う。
わたしより1個上の彼女。
その1個上のお兄ちゃん。
その2人の関係は、わたしたち2人より、進展はないらしい。
プラトニックというより、それ以上に進まないと言っていた。
それでも2人の関係性はとてもしっくり噛み合っているような気がする。
わたしとお兄ちゃんが一緒に歩いていても、彼女さんは同級生の男子と歩いていたりする。
ご飯も、そのふたりで食べているのをよく見かける。なんだろうね。
お兄ちゃんがわたしの隣にいる理由。
わたしはねえ、女の子として見てくれるから。居心地がいい。すけべな気分全開でも、いやらしい感じにならないで、笑っていてくれる。
全肯定感。かな。
家の事とか忘れられる。ご飯を作ってあげたくなる。
今までの彼氏には持たなかった感覚。
ある日、お兄ちゃんから『終わりにしよう』と言われてしまった。
ふたりは契約によるお付き合いの関係ではなかったから、別れ話、というわけではなかった。
この、どうにでもなる、どうでもいい関係を続けることに、お兄ちゃんはどうやら『申し訳なさ』を感じたらしい。
わたしは瞬間に『どうでもいい』と呆れてしまった。『なんだそれ』
そもそも、始まってもいなかったんだから、終わらせる必要なんて、なかったのだ。
わたしにとってお兄ちゃんは次の男にいくまでの、つなぎ、とまでは言わないけれど、別に都合良く欲求を満たせられて便利なひとだったのに。
『ひとり』でいるという感覚から、ちょっとだけだけど、距離をおけたし、誕生日だって特別な日にできてたから、そんな便利な男を飼っている事に満足してたのに。
『あんだけわたしの前で格好つけてたのに、最後がこれとか、がっかりだよ』
むしろ腹立たしかった。
『ふ~ん』と言って、それからは、電話をしなくなった。おにぎりをつくるのもやめたし。
惜しかった、と思う事も、なかったわけじゃない。
突然の雨でもお兄ちゃんがいたら、傘を差して家まで送ってくれたから。
でも、お兄ちゃんが彼女と別れた事を知った時から、その後気持ちもなくなった。
お兄ちゃんは、『わたしと彼女とふたりいる事でとれていたバランス』を自分で崩した。
わたしは、誰かの彼氏でないお兄ちゃんに興味をなくした。
それでも、お兄ちゃんの卒業まで顔を合わせる場所で過ごしたし、お兄ちゃんの彼女さんとは、その実情をお互いに知りながら結託するように仲良しのままで、卒業を見送った。
卒業してから5年ほど経って、巧さんと会う機会が必然的に出来た。
わたしは、巧さんの親友と呼べるひとの彼女になって、一緒に暮らしていた。
3人で、彼氏の家で泊まり、彼は仕事へ、わたしと巧さんは、どういう展開なのか、ふたりで仕事から帰ってくる彼を待つ流れになった。
おそらくは、彼の策略で、お互い思うところも無い2人の関係を修復しようとしていたのだろう。
わたしにしても、彼と巧さんが会う度に居場所を無くすのは、煩わしいし、彼も関係修復を望んでいた。
巧さんは、彼の家にCDを持ち込んでいて、そんなところは、学生時代に一緒に活動してた頃と変わってない。
お兄ちゃんらしいな、と思ったし、CDはお兄ちゃんらしいアルバムだった。
ふと『そのCDちょうだい。それで手打ちにしてあげる』と声をかけていた。
『了解』
そう言って、CDのジャケットを渡された。
『無罪モラトリアム』そんな椎名林檎さんのアルバムだった。
それは、いつか、わたしのカラオケの持ち歌になった。
それから、ふたりで飲みに行って、家の前で吐いて彼に怒られた。
3人で出かけること、ふたりで出かけること。
身体の関係もキスもすることもないし、お兄ちゃんとも、まりことも呼び合うことはない。
お兄ちゃんは彼女さんとも国交回復をしたらしい。
こちらも、彼の引合せ。
わたしとの手打ちを持っての国交回復だったとか。
こちらの3人で会うことはないからよく知らないけれど、楽しくやっているらしい。
付き合わなかったら良かったのにね。
そう言ったら、元彼、元彼女だから良いこともある、って笑っている。
『ねえ、わたしとの関係ってなんだった?』
『うん?そうだなぁ。永遠』
『はっ?バカじゃないの』
『そうかなぁ、小手毬さんの不在期間にもまりこはずっといたよ。小手毬さんの感性は特別だから。』そう笑ってる。
『はいはい、またね』
手を振って見送ると、彼の家からバイクで帰っていった。
今、お兄ちゃんはバイクに乗っている。
それだけの時間がたったというのに、実は、わたしにだってお兄ちゃんはこころの奥で笑っていたりする。写真の中にある笑顔がずっと。
お互いがお互いに『いいひと』だった頃
恥じるでも、卑下することもない青い時代
『都合の』いいひと
『どうでも』いいひと
違う、わたしたちは『どうしても』いいひと同士という関係だったのだ。
『いいひとなんだけどね』という会話を聞く度に思う。
『いいひと』で何が悪い
そういう関係性が、永遠だって事も世の中にはあるんだ。
そう思って見上げた空は
高くて高くて、それでもどうしようもなく夏の空だった。
それからもう、会うこともなくなったけれど
いまでも時々想いだす。
永遠を想うらしい
らしい、というよりは
『きっと』永遠に憧れている
そんな気恥ずかしい、と口にする事はなくても、ラブソングが流れた数だけ、永遠は唱えられている。
でも同じように
恋の始まりが
恋の終わりへのカウントダウンになる事も
多くの人は気がついていて
永遠なんてないという現実と
そんな永遠への憧れを
あわせもって恋をする
『でもさ、永遠なんて、実際にしんどいと想う
大好きな食べ物だからって、永遠と提供され続けたら、きっと苦痛でしかないよ』
『そうだよね』と
隣で事の後の煙草をふかしているタクミに話しかけた
『んぅ~、なにがさ』
『話聞いてなかったの』
思わず言葉に刺がでる。
コイツはいつもそうだ。ひとの話半分、いや八分の1くらいしか聞いちゃぁいない。
なにが、恋は好きになったもんが負けだから、いつも愛情をセーブしてるんだ、だよ。
面倒くさいだけだろ。
『もういい。』
『永遠についての考察だろう』
『えっ』
『えっじゃぁないよ。』
マリコさぁ、と話はつづく。
わたしは名前を『ひらり』という。
苗字は小手毬だ。『小手毬ひらり』小学校は別にして、呼びやすさもあって、中学・高校・大学在学中の現在もタクミ以外は、みんな『ひらり』もしくは『ひらりちゃん』『小手毬さん』たまに『こでちゃん』に『まりちゃん』『まりまり』etc
タクミだけが『まりこ』と呼ぶ。
ちなみにタクミは流行りの匠海くんとか拓海とかではなくて巧みな『巧』でも呼び名は『お兄ちゃん』だ。
別に、お兄ちゃんが欲しいからその代わり、とか、憧れ感あるでしょ?とか
そんな感じでもなくて、昔から好きになると、甘えたくなって、ついついお兄ちゃん、と呼んでしまう。
何でだろ、じぶんでもよくわからない。
タクミは、はっきりしてる。
『特別な相手しか名前で呼びたくないから』だそうだ。
そう言って、それでも他の誰も呼ばない特別な名前をわたしにくれた。
だから、わたしはお兄ちゃんにとっての特別で、その時だけ、わたしは、まりこになる。
そう、わたしと彼の関係はステディなものでも、契約の交わされた恋人関係でも、セックスフレンドでも無かった。
セカンドパートナーとでもいえば近い気もするし、そうでもないようにも想える。
要は、よくわからない関係だった。
特別なひとと言えば良い気分もするけれど、実際は、ほとんど『都合のいい女』ではないか、ともいえる。
『永遠なんてさ、つくりだせばいっぱい溢れてるんやで。』
タクミは、例えば、『永遠の一瞬』と『一瞬の永遠』と言った。
彼はカメラマンを目指していて、時々、その事について触れてくる。
『その瞬間を留めてくてれる装置』
『永遠の一瞬を永遠にする』なんてうそぶいている。
その時の記憶は永遠にその写真が覚えてくれている、かららしい。
『あの時の約束』とかが、いつか嘘になってしまったとしても、『あの時のホント』は永遠、なんだって。
実に都合のいい。
まるで、わたしとの関係みたい。
実際には、この関係は、わたしが引っ掛けた事から始まる。
タクミに彼女がいた事は知っていた。
だけど、横取りしたい、とか、大好き過ぎて、とかでもなく、なんとなく横に並んで歩きたいと、あの日思ったのだ。
郊外にある大学は、スクールバスで下校する。同じバスに乗れば、もしくは乗り合わせた時は、知らない同性の隣より、知っている異性の方が座りやすい。
そんな事があるから、バスに乗り込んだタイミングで、タクミを隣に呼び寄せた。
特に誰かが気にするでもない。彼女のいる男を隣に呼び寄せても。
このバスは、そういうものだから。
そのまま、バスを降りても話は続いていて、『たまに途中下車して歩く河原が気持ち良い』という話に食いついたタクミを強引に連れ降ろして河原を海近くまで歩いた。
結局、終電が無くなるまで歩いて、ラブホテルに泊まるという事態から、この関係は、始まった。
驚いた事に、この夜タクミは、一緒にオフロに入ったのに手を出してこなかった。
今までの男なら絶対ない展開にわたしは、堕ちたのだと思っている。
結局、その後も一緒に遊びに出かけて3回目くらいで一線を越えたものの、彼女の存在がある事は理解していたから、ただ一緒に過ごす、という関係が出来上がった。
わたしは、学生時代の間に、今いるクラブの男を全員食い漁ってやるのが夢だとタクミには宣言していた。
だから、ふたりでいる時間以外は不干渉だし、
一緒に下校していても、仲の良い先輩後輩関係があまりにもはっきりして見えるのか、周囲の誰も気にする者がいない。むしろ同級生とふたりでいるの時のほうが怪しまれているような状態だった。
あまりにも、ふたりがそばにいる事が、自然な距離感だったのだろうと思う。
それは良くも悪くもという事だ。
『ねぇお兄ちゃん、わたしとずっと一緒にいたい?』
裸のまま布団から起き上がって、タクミの前に仁王立ちして聞いてみる。
『おいおい、スッポンポンで何を言い出すかな。
まあ、それはよしとして、わたしをに関しては、わたしたちは、に訂正してもらっていい?』
『なに?わたしが、離れていきそうな感じがしてる?』
『そうじゃないよ、逆。
わたしたちは、ずっと一緒にいたいと思ってるんだよ』
そう言って抱きしめられたけど、急に何かが違うような気がしてきていた。
わたしは、本当に、ずっと一緒にいたいと思っているのだろうか。そんな気持ちが、消えてはくれなかった。
その後、ベッドにもつれこんで、雨の気配を感じるまでぐっすり眠った。
『雨?』
『たぶん。』
ここのホテルには窓があって、分厚いガードのような窓ふさぎの隙間から光が漏れてくる。
雨は音じゃなくて、色温度でわかるね、とお兄ちゃんは時々わけのわからないことを言う。
写真用語らしいけれど、どんな温度を言うのかわからない。
でも、夏のような春の連休とか、冬みたいな空を見ながら言われると、たまにナルホドそうかも、と思うときはある。
ただ、今日はよくはわからなかった。ただ、2人とも雨の気配には敏感で、外を見なくても、まず外れた事はない。
『結構降ってるよね。また学校休校にならないかな。』
『早々に、そんな日ばかり続かんでしょ』
前回のお泊りの日は、夜から降り続いた雨がそのまま止むことはなく、大雨警報に変わった事で学校は、休校になった。
それ以外でも、朝まで電話した翌日が大雨で、警報が発令されて休校になったりと、まあまあな頻度で、一緒に過ごす翌日が休校になった。
(こんなに大雨警報で休校してたら学校の単位大丈夫?とか笑っていたら、翌年から暴風警報を伴わない大雨警報での休校措置が、本当になくなったのには、ちょっと驚いた。)
傘を差して歩く。
いつもお兄ちゃんは傘を持ち歩いている。
『そういう恋愛をしてきたから』とよく言っている。
どういう恋愛だったのかは知らない。結局聞くことはなかった。
ただ、雨の日は、いつも家まで送ってくれるから、うれしい。今日は学校が終わったら送ってくれるのかな。
そう思いながら、スクールバスを降りてクラブハウスに向かう時『相合傘を学校でもしてみようよ』と言ったら、普通に『いいよ』と言われてしまった。
おいおい、少しは気にしろよ、とも思いながら
クラブハウスまで歩いたけれど、誰も冷やかしてこなかった。
『おはよう』とお兄ちゃんは挨拶して、わたしも『おはよう』と言って、クラブの輪に入っていく。気がつけばお兄ちゃんは彼女の隣にいて、わたしは同級生と座って笑っていた。
実は、お兄ちゃんの彼女ともわたしは仲良しだから、一体この関係はなんなんだろう、って思う。
わたしより1個上の彼女。
その1個上のお兄ちゃん。
その2人の関係は、わたしたち2人より、進展はないらしい。
プラトニックというより、それ以上に進まないと言っていた。
それでも2人の関係性はとてもしっくり噛み合っているような気がする。
わたしとお兄ちゃんが一緒に歩いていても、彼女さんは同級生の男子と歩いていたりする。
ご飯も、そのふたりで食べているのをよく見かける。なんだろうね。
お兄ちゃんがわたしの隣にいる理由。
わたしはねえ、女の子として見てくれるから。居心地がいい。すけべな気分全開でも、いやらしい感じにならないで、笑っていてくれる。
全肯定感。かな。
家の事とか忘れられる。ご飯を作ってあげたくなる。
今までの彼氏には持たなかった感覚。
ある日、お兄ちゃんから『終わりにしよう』と言われてしまった。
ふたりは契約によるお付き合いの関係ではなかったから、別れ話、というわけではなかった。
この、どうにでもなる、どうでもいい関係を続けることに、お兄ちゃんはどうやら『申し訳なさ』を感じたらしい。
わたしは瞬間に『どうでもいい』と呆れてしまった。『なんだそれ』
そもそも、始まってもいなかったんだから、終わらせる必要なんて、なかったのだ。
わたしにとってお兄ちゃんは次の男にいくまでの、つなぎ、とまでは言わないけれど、別に都合良く欲求を満たせられて便利なひとだったのに。
『ひとり』でいるという感覚から、ちょっとだけだけど、距離をおけたし、誕生日だって特別な日にできてたから、そんな便利な男を飼っている事に満足してたのに。
『あんだけわたしの前で格好つけてたのに、最後がこれとか、がっかりだよ』
むしろ腹立たしかった。
『ふ~ん』と言って、それからは、電話をしなくなった。おにぎりをつくるのもやめたし。
惜しかった、と思う事も、なかったわけじゃない。
突然の雨でもお兄ちゃんがいたら、傘を差して家まで送ってくれたから。
でも、お兄ちゃんが彼女と別れた事を知った時から、その後気持ちもなくなった。
お兄ちゃんは、『わたしと彼女とふたりいる事でとれていたバランス』を自分で崩した。
わたしは、誰かの彼氏でないお兄ちゃんに興味をなくした。
それでも、お兄ちゃんの卒業まで顔を合わせる場所で過ごしたし、お兄ちゃんの彼女さんとは、その実情をお互いに知りながら結託するように仲良しのままで、卒業を見送った。
卒業してから5年ほど経って、巧さんと会う機会が必然的に出来た。
わたしは、巧さんの親友と呼べるひとの彼女になって、一緒に暮らしていた。
3人で、彼氏の家で泊まり、彼は仕事へ、わたしと巧さんは、どういう展開なのか、ふたりで仕事から帰ってくる彼を待つ流れになった。
おそらくは、彼の策略で、お互い思うところも無い2人の関係を修復しようとしていたのだろう。
わたしにしても、彼と巧さんが会う度に居場所を無くすのは、煩わしいし、彼も関係修復を望んでいた。
巧さんは、彼の家にCDを持ち込んでいて、そんなところは、学生時代に一緒に活動してた頃と変わってない。
お兄ちゃんらしいな、と思ったし、CDはお兄ちゃんらしいアルバムだった。
ふと『そのCDちょうだい。それで手打ちにしてあげる』と声をかけていた。
『了解』
そう言って、CDのジャケットを渡された。
『無罪モラトリアム』そんな椎名林檎さんのアルバムだった。
それは、いつか、わたしのカラオケの持ち歌になった。
それから、ふたりで飲みに行って、家の前で吐いて彼に怒られた。
3人で出かけること、ふたりで出かけること。
身体の関係もキスもすることもないし、お兄ちゃんとも、まりことも呼び合うことはない。
お兄ちゃんは彼女さんとも国交回復をしたらしい。
こちらも、彼の引合せ。
わたしとの手打ちを持っての国交回復だったとか。
こちらの3人で会うことはないからよく知らないけれど、楽しくやっているらしい。
付き合わなかったら良かったのにね。
そう言ったら、元彼、元彼女だから良いこともある、って笑っている。
『ねえ、わたしとの関係ってなんだった?』
『うん?そうだなぁ。永遠』
『はっ?バカじゃないの』
『そうかなぁ、小手毬さんの不在期間にもまりこはずっといたよ。小手毬さんの感性は特別だから。』そう笑ってる。
『はいはい、またね』
手を振って見送ると、彼の家からバイクで帰っていった。
今、お兄ちゃんはバイクに乗っている。
それだけの時間がたったというのに、実は、わたしにだってお兄ちゃんはこころの奥で笑っていたりする。写真の中にある笑顔がずっと。
お互いがお互いに『いいひと』だった頃
恥じるでも、卑下することもない青い時代
『都合の』いいひと
『どうでも』いいひと
違う、わたしたちは『どうしても』いいひと同士という関係だったのだ。
『いいひとなんだけどね』という会話を聞く度に思う。
『いいひと』で何が悪い
そういう関係性が、永遠だって事も世の中にはあるんだ。
そう思って見上げた空は
高くて高くて、それでもどうしようもなく夏の空だった。
それからもう、会うこともなくなったけれど
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