『罪喰いの翼 ― 天使と悪魔と人間のはざまで ―』短い小説

夢喰

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第三章:炎を纏う少女

炎を纏う少女

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第三章:炎を纏う少女

ネットは、誰かを一瞬で神にも悪魔にも変える。
一度「悪」と認定された人間には、どんなに真実を叫んでも、誰も耳を傾けない。
それが“現代の裁き”だった。


「彼女の名前は……アヤカ。
高校生の時、教師の性加害を内部告発した。
けど、逆に“でっちあげだ”とバラされて、SNSでは“正義中毒”とか“嘘つき”って言われて、炎上した」

ミナがタブレットで見せたのは、ニュースのスクショ。
かつて笑顔で生徒会に立っていた少女が、
いまや「炎上女子」としてネットに消費されていた。

「“本当のこと”を言って、壊された子だよ」

レイは、その目を伏せた。

「……正しさを貫いた者ほど、傷つくのがこの世界か」

ミナが言った。

「“善”を選んでも、“悪”にされるってこと、あるよね」

「あるさ」
「それでも、生きる意味ってあるの?」

その問いに、レイは即答できなかった。


アヤカは今、都内の廃ビルの屋上にいるという情報があった。
そこでは、夜な夜な若者たちが「復讐ゲーム」と称して、
自分を傷つけた大人たちの写真に火を放つ儀式をしていた。

——その中心に、アヤカはいた。

“炎を纏う少女”。
そう呼ばれていた。

彼女の罪は「憎しみ」。
だがそれは、自分を守るための必死の感情だった。


「お前らも、正義の味方ごっこかよ」

アヤカはレイたちに、そう吐き捨てた。

「正義?そんなもん、意味ない。
正しいこと言っても、誰も守ってくれない。
それどころか、全部壊された。
なら、私が“悪”になってやるって、決めたの」

その目に宿るのは、冷たい怒りと、悲しい諦めだった。

ミナは、一歩前に出た。

「私も“正しいこと”しようとして、叩かれた。
今でも“加害者”って言われる。
でも……だからって、自分が悪だって決めつけたくなかった」

「じゃあ、何になるの?善人ぶって、生き延びるだけ?」

「違う。“選び続ける人間”になるの。
毎日、目を覚まして、“今日はどう生きようか”って、自分に問いかける人になる」

アヤカの目が揺れた。

その言葉は、かつての自分が願っていた言葉だった。


レイが静かに近づき、アヤカの肩に触れる。

「罪を喰うことはできる。けど、それはお前が本当に“変わりたい”と思ったときだけだ」

「……私は、もう……」

その時、ミナが言った。

「あなたの中の炎は、誰かを傷つけたいんじゃない。
“誰かに、気づいてほしかった”んでしょ?」

その瞬間、アヤカの目から、炎が消えた。


レイは、彼女の「罪の核」を見た。
それは怒りでも、復讐でもなかった。

——“無力だった自分への後悔”。

レイはそれを、喰わなかった。

「お前のその罪は、喰わない。
それは、お前が“これから生きていく力”になる」

アヤカは、その場に崩れ落ち、泣いた。

初めて、自分の「正義」が、誰かに受け入れられた気がした。


その夜、ミナは自分に問いかけた。

「今日、私はどう生きたか?」

答えは、はっきりしていた。

「誰かを救えたなんて思ってない。
でも、自分の信じた言葉を選んだ。
たとえ、それがちっぽけでも」

その瞬間、ミナの背中に、微かに白い光の羽根が現れていた。
それは誰にも見えない。
けれど確かに、彼女の「選択」が形になった証だった。


レイは、そっとつぶやいた。

「善と悪のあいだには、無限の選択肢がある。
人は、毎朝、生まれ変われる。
だからこそ、生き続けなきゃいけないんだ」

——罪喰いの旅は、まだ続く。
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