『罪喰いの翼 ― 天使と悪魔と人間のはざまで ―』短い小説

夢喰

文字の大きさ
5 / 12
第四章:闇の中の子どもたち

闇の中の子どもたち

しおりを挟む
第四章:闇の中の子どもたち

「“罪を喰う方法”を、教えてください。」

差出人不明の手紙は、ある中学校の教員用メールボックスに届いていた。
無地の封筒、乱れた文字、インクのにじみ……書いたのは子どもだった。

その手紙を受け取った教師は匿名で、レイに連絡をよこした。
件名はただ一言。

「助けてください」


「なんで“罪を喰う方法”なんて言葉を知ってたんだろうね」

レイの問いに、ミナは目を伏せた。

「ネットで噂になってる。『罪喰いって本当にいるのか』って。
“罪を消してくれる人”がいるなら、どれだけ救われるかって、みんな本気で思ってる」

「……それだけ、子どもたちの世界が壊れてるってことか」

その中学校では、ここ数年、いじめ・自傷・失踪が繰り返されていた。
にもかかわらず、表向きの報告はゼロ。
学校は「問題はありません」と言い切っていた。

だが――実際は違った。


学校のトイレの鏡には、爪で刻まれた言葉があった。

「消えたい」
「俺が悪いんだ」
「喰って。お願い、誰か」



保健室で出会った少女、シノは、12歳。
手首に包帯を巻き、目を合わせない。

彼女がつぶやいた。

「“私が死ねば、みんな笑う”って言われた。
最初は冗談だと思ったよ。でもね、本当にみんな笑ったの。
先生も、親も、誰も助けてくれなかった」

ミナは、黙って彼女のそばに座った。

レイは、少女の中にある「罪の形」を見ようとした。
それは驚くほど透明だった。

――彼女は、“自分が悪い”と信じきっていた。


「……これは、喰えない」

「え?」

「これは、“罪”じゃない。“擦り込まれた呪い”だ。
本当は悪くないのに、自分を責めさせられてる。
それを喰ったら……彼女は、ますます“空っぽ”になってしまう」

レイは唇を噛んだ。


その夜、レイとミナは職員室に忍び込んだ。
机の中から出てきたのは、生徒たちのアンケート、未提出のいじめ報告書、録音データ、隠された証拠の山だった。

「これはもう、“子どもたちの罪”じゃない。
“見て見ぬふりをした大人たち”の罪だ」

レイの目が鋭く光った。

「大人の罪は、時に子どもの命を喰う」


ミナは、シノと向き合いながら言った。

「悪いのは、あなたじゃない。
“あなたを悪者にした人間”のほうだよ。
でも……それをどうするか、どう受け止めるかは、あなたが決めていい」

「……選べるの?」

「選べる。
“自分を許す”か、“戦う”か、“逃げる”か。
それはどれも恥じゃない。
ただ、“あなただけの選択肢”だよ」


次の日、学校の屋上で、シノは小さく笑った。

「今日、生きてみようかなって思った。
……また明日、嫌になってもいいけど。
今日だけは、“生きる”を選んでみる」

その背中には、まだ小さな、でも確かな“羽根”が生えていた。

レイは静かに、涙をぬぐった。


その後、ミナが匿名でネットに投稿した文章が、広まっていく。

「罪を抱えているのは、あなただけじゃない。
あなたの罪は、もしかしたら“誰かの責任”かもしれない。
でも、どんな夜でも、明日の選択肢はある。
今日を生きたあなたは、もうそれだけで強い」

その投稿には、何千もの「ありがとう」がついた。

人々は、“誰かに見てほしかっただけ”なのかもしれない。


その夜、ミナの中で確信が芽生えた。

「私は、“罪を喰う”ことじゃなく、“誰かの罪を肯定する”ことで、
ほんの少し、誰かの救いになれるかもしれない」

レイは、微笑んだ。

「お前はもう、俺よりずっと“罪喰い”だよ」


物語は、さらに深く潜っていく。
人間の闇は、時に子どもたちに牙を剥く。
けれど、そこには必ず――希望という選択肢
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

処理中です...