『罪喰いの翼 ― 天使と悪魔と人間のはざまで ―』短い小説

夢喰

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第五章:父の名を持つ悪魔

父の名を持つ悪魔

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第五章:父の名を持つ悪魔

東京の冬は冷たい。
立つポスターには、笑顔の政治家が並び、明るい未来を約束していた。
しかし、その裏側では、家族の罪が静かに燃え続けていた。


「息子の名前はショウタ。19歳。無差別暴力事件の容疑者として逮捕された」

ミナの声は冷静だったが、胸の内は複雑だった。
事件の報道はセンセーショナルで、世論は一方的な非難に包まれていた。

「でも、事件の背景には、誰も知らない“家族の影”がある」


ショウタは、政界有力者の一人息子だった。
幼いころから父の期待に押しつぶされ、家庭は冷たい支配の場だった。
彼の怒りは抑圧され、やがて内側で爆発した。

「彼は“悪魔”と呼ばれているけど、僕は違うと思う」

レイは低くつぶやいた。

「悪魔は生まれるものじゃない。作られるものだ」


裁判の前日、ミナはショウタと面会した。

「あなたは、なぜこんなことを?」

ショウタは黙り込み、やがて絞り出すように言った。

「父さんのために生きてきた。
でも、父さんは僕のことを一人の人間として見てくれなかった。
父の名の下に縛られ、僕は自由じゃなかった。
だから、壊したかった。
壊してしまえば、少しは楽になれると思ったんだ」

その瞳には、深い孤独と絶望があった。


「その“罪”は、君のものか?」

レイは問い続けた。

「それとも、父の罪だろう?」

ショウタは顔を上げ、震える声で答えた。

「父さんが俺に押し付けたものだ……」


ミナは思った。
社会が“善悪”を簡単に分ける中で、
本当の罪や正義はもっと複雑だと。

「君は“悪魔”なんかじゃない。
君はただ、“選択を奪われた”人間だ。
でも、今からでも選べる」


翌日、裁判で検察は情状酌量の余地なしと主張した。
世論も激しく非難した。
しかし、弁護側はショウタの幼少期の虐待や心理的圧迫を証明し、情状酌量を求めた。


レイとミナは、裁判を傍聴しながら心に誓った。

「どんなに社会が冷たくても、誰かが“善”を選ぶ勇気を持たなければ、
世界は変わらない」


裁判は終わった。
判決は……執行猶予付きの有罪。
社会はまだ、彼を完全には許さなかった。
だが、彼自身は、少しだけ自由を取り戻した。


レイは静かに言った。

「罪は“喰う”ものでも、“押し付ける”ものでもない。
罪とは、選択の連続の中で、私たちが背負う重さだ。
その重さをどう生きるかが、人間の物語なんだ」

ミナも頷いた。

「そして、誰もが“今日の選択”で、少しずつ変われる」


父の名を背負った“悪魔”は、
今、初めて自分の意志で歩き出した。

その姿は、まだ弱く、揺れていたが、確かな一歩だった。
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