★【完結】ポワゾンと呼ばれた女(作品231110)

菊池昭仁

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第2話 大人の色香

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 ポワゾンは常連らしく、店主と気さくに話をしていた。

 「大将、ウチのイケメン君どう? 見込みありそうかしら?」
 「それを判断するのは俺じゃねえよ、麗華ちゃんだろう?」
 「今のところは及第点といったところだけど、これからが本番ね?
 どうなの寺田君、あなた、やれそう? この会社で?」
 「まだヒヨコではありますが、この仕事には遣り甲斐を感じています。
 もっと経験を積んで、いいアナリストになりたいと思います」

 ポワゾンは冷酒を口にした。 

 「寺田君、彼女さんとは長いの?」
 「大学の時の後輩です。付き合って今年で6年になります」
 「そう、楽しい?」
 「普通です。
 普通の付き合いですよ」
 「結婚するの?」
 「その予定です、一応」
 「いいわね? 若い時の恋愛って。
 怖いものなんてないもんね?」

 ポワゾンは僕のグラスにも冷酒を注いでくれた。

 「そうでもないですよ。このまま変わらずにいれるのかって考えることもあります」

 するとポワゾンは笑った。

 「そんなの怖いなんてことには入らないわよ。怖いというのはね? 慣れよ」
 「慣れですか?」
 「そう、慣れ。
 恋愛はね、たとえ夫婦であってもお互いに緊張感がなくなると男と女ではなくなるものなの。
 子供が産まれれば、単なるパパとママ。
 やがてセックスもしなくなり、そして老後。老いていくの。
 お互いがお互いに感謝も尊敬もしなくなってしまう。
 結婚する前はあんなにやさしかったのにと、後悔するようになる」
 「僕たちは大丈夫です。
 ラブラブですから」
 「あらそれは失礼。
 でもね? 人間には恋愛が必要なのよ。
 ときめきがなくなったら人間は終わり。それは精神的な老い・・・」
 「部長はどうなんですか? そんなに美人で仕事も出来るのに、ご結婚はしないのですか?」
 「結婚? どうしてそんなものしなくちゃいけないの?
 そこに緊張感はないでしょ?
 私には無理、一生ひとりの男に尽くすなんて。
 考えただけでもゾッとするわ。
 結婚は堕落よ、人間として」
 「でも彼氏さんはいるんですよね?」
 「そりゃいるわよ、女だって性欲はあるわ。
 いつまでも綺麗で若くいたい。
 それにはいいセックスをすることが一番効果的でしょう? そう思わない?
 知りたくない? その秘訣を?」
 「僕は彼女で充分です。肉食ではないので」
 「私があなたを肉食に変えてあげましょうか? ふふっ」

 ポワゾンは妖しく笑みを浮かべ、吟醸酒を呷った。

 僕はポワゾンの大人の女の魅力の中に、強く引き摺り込まれて行きそうになった。

 そして功介は、麗華の芸術的なまでに妖艶な深淵を覗くことになるのだった。

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