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第6話 忠犬
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ポワゾンと情事を重ねる度、功介はどんどん自分に自信が漲って来ることを感じていた。
今では女子社員の間でも、功介は憧れの的になっていた。
「寺田君って最近、イケてるわよね?
仕事は出来るし、いつも自信に溢れている。
そしてなんだか色気も出て来たみたい」
「ベッドでも凄いのかなー? 寺田君って?」
「もう、まだ午前中よ。あはははは」
功介はいつの間にか給湯室の話題になっていた。
ベッドが激しく軋んでいた。
「功介、功介、すごい、すごいの。もっと、もっと、もっとちょうだい!
どうして、どうしてなの、こんなにすごい、の・・・?」
「いいから黙ってイケよ。ほら、ここがいいんだろ? こうか? こうなのか?
ほら美香、こうしてやるよ、こうだ!」
「功介! イク、イクわ、すごいの! すごいわ! イ、クッ・・・」
シーツを握り締め、美香はそのままエクスタシーの底へ落ちて行った。
功介の精液はコンドームの中にそのまま放出された。
正気に戻った美香は、功介に寄り添い甘えた。
「セックスって、こんなにいいものだったのね?
知らなかった・・・」
「美香、お前はかわいい女だ。凄くいい女になった」
功介は美香を「お前」呼ばわりするようになっていた。
女にはふた通りの女がいる。
それは「お前」と言われて喜ぶ女と、そうでない女だ。
男に所有されたい女と、「その私をお前って言うの止めてくれない? 私はあなたの物じゃないから」
後者の女は恋愛の対象外だ。
ドM男でもない限り、そういう女は必ずイニシアチブを握ろうとするため、女に慣れた男はそんな女を嫌うのだ。
もっともいつも「お前」呼ばわりしている男もどうかしている。恋愛は平等であるべきだからだ。
男女は本来、上でも下でもない。ベッドでの体位と同じだ。
功介はすでに美香では物足りないことを感じている。
功介はすっかりポワゾンの虜になっていたからだ。
『ポワソン』という大輪の薔薇の前では、どんな花も霞んでしまう。
功介は完全にポワゾンに調教されていた。
「寺田君、この大山工機の経営分析は完璧よ。
財務諸表だけでは企業価値は見えないわ。よくここまで調べたわね? 経営幹部と現場の社員のスキルと性質分析。実によく出来ている。
あなた、大分成長したんじゃない?」
「小早川部長の指導のおかげです。ありがとうございます」
「それじゃあまた、ご褒美をあげないとね? うふっ」
ポワゾンは銀縁のメガネを外し、眼鏡のつるの端をルージュを引いた唇に当て足を組み替え、微笑んで見せた。
「後で電話するわね?」
「わかりました。失礼します」
功介はすっかりポワゾンの忠犬になっていた。
ランチの立ち食い蕎麦屋で、親友の水沢から言われた。
「功介、お前、ポワゾンとやったな?」
功介の箸が止まった。
「水沢、どうしてそう思う?」
「お前は変わった。その眼つき、以前のトロンとした、死んだ魚のような目をしたお前の目じゃない。
誤解すんな、これはいい意味で言っているんだ。
凄いなポワゾンは? お前をそこまで変えてしまうんだから」
水沢は再び山菜蕎麦をたぐり始めた。
どんどん自分が変わっていく。それは功介本人も自覚していた。
「だけど気をつけろ。ポワゾンはもろ刃の剣だ。
お前が成長すればするほど、同時に失う物も増えていく」
水沢の言う通りだと思った。
現に美香への愛情が薄らいでしまっている。
ポワゾンの大人の女の魅力と、あの『毒』という名のあの香りから、功介は抜け出せなくなっていた。
ポワゾンにクタクタにされた功介は、ベッドでぐったりとしていた。
「どうしたの功介? もうおしまい? 情けない。そんなんで一流のビジネスマンにはなれないわよ。
出来る男はすべてにおいてパワフルでなければ、運は寄って来ないわ。
お金も女も追い駆けては駄目。引き寄せないと。
成功している人間はね? 重みがあるの。どっしりとした重厚感が。
よく「軽い男」とか「尻軽女」とか言うでしょう?
あれは本当のことよ。人間的にも、そして見た目にも軽いの。薄ぺラな人間。
ノートルダムの入り口のレリーフにはね、キリストが天秤を持って、魂の重さを測っているの。
魂が重い人間はミハエルと天国へ。そして魂が軽い人間はサタンに地獄へと引き摺り込まれる」
「どうしたら魂を重くすることが出来ますか?」
「それは徳を積むことよ。まずは声。
自信を持って大きな声で5m先の人に話すようにお腹から声を出すこと。
大きな声は魔物を祓うものよ」
「大きな声ですか? 意識してそうするようにします」
ポワゾンは功介のペニスに触れた。
「元気になったようね? もうこんなになっちゃって。かわいい」
濃密な最終ラウンドが開始された。
まるで母親のように功介の髪をやさしく撫でて微笑むポワゾン。
「麗華さん・・・、天国にいるような気持ちです、ボク・・・」
「大袈裟ね? 功介は」
ゆっくりとカラダを起こし、功介はポワゾンに訊ねた。
「麗華さん、ボクは麗華さんとお付き合いさせていただいて、自分が進化して行くのがわかります。
なのになぜ、北村課長はダメになってしまったんですか?」
するとポワゾンは功介を抱き寄せて言った。
「あの男はね? 自分を忘れたの」
「自分を忘れた?」
「そう、思い上がってしまったの。自分の浅はかな能力にね?
いいこと功介。人間の能力にはさほど差はないものよ。
それを本気でやるかやらないかだけ。
でもね? 出世するには運も大切。わかるわよね?
彼には運がなかった。ただそれだけのこと」
「運ですか?」
「そう、運はどうすれば手に入ると思う?」
「わかりません。本来、その人に最初から備わっている物でしょうか?」
「運はね? 周りの人が運んで来てくれる物よ。
運んでくるから「運」でしょう?
運命とは命を運ぶと書くじゃない? つまり周りの人を大切にするということ。
あの男は自分のちっぽけな能力を過信して、周りを威圧するようになった。
大したオチンチンでもないくせに。
だから功介、あなたは常に謙虚でいなさい。そして多くを語らないこと。
沈黙は金、わかった?」
「はい」
「思い上がりはダメ。自分の成功はみんなのおかげ、それを忘れないようにしなさい」
功介は頷き、ポワゾンの胸に顔を寄せた。
まるで従順な飼い犬のように。
今では女子社員の間でも、功介は憧れの的になっていた。
「寺田君って最近、イケてるわよね?
仕事は出来るし、いつも自信に溢れている。
そしてなんだか色気も出て来たみたい」
「ベッドでも凄いのかなー? 寺田君って?」
「もう、まだ午前中よ。あはははは」
功介はいつの間にか給湯室の話題になっていた。
ベッドが激しく軋んでいた。
「功介、功介、すごい、すごいの。もっと、もっと、もっとちょうだい!
どうして、どうしてなの、こんなにすごい、の・・・?」
「いいから黙ってイケよ。ほら、ここがいいんだろ? こうか? こうなのか?
ほら美香、こうしてやるよ、こうだ!」
「功介! イク、イクわ、すごいの! すごいわ! イ、クッ・・・」
シーツを握り締め、美香はそのままエクスタシーの底へ落ちて行った。
功介の精液はコンドームの中にそのまま放出された。
正気に戻った美香は、功介に寄り添い甘えた。
「セックスって、こんなにいいものだったのね?
知らなかった・・・」
「美香、お前はかわいい女だ。凄くいい女になった」
功介は美香を「お前」呼ばわりするようになっていた。
女にはふた通りの女がいる。
それは「お前」と言われて喜ぶ女と、そうでない女だ。
男に所有されたい女と、「その私をお前って言うの止めてくれない? 私はあなたの物じゃないから」
後者の女は恋愛の対象外だ。
ドM男でもない限り、そういう女は必ずイニシアチブを握ろうとするため、女に慣れた男はそんな女を嫌うのだ。
もっともいつも「お前」呼ばわりしている男もどうかしている。恋愛は平等であるべきだからだ。
男女は本来、上でも下でもない。ベッドでの体位と同じだ。
功介はすでに美香では物足りないことを感じている。
功介はすっかりポワゾンの虜になっていたからだ。
『ポワソン』という大輪の薔薇の前では、どんな花も霞んでしまう。
功介は完全にポワゾンに調教されていた。
「寺田君、この大山工機の経営分析は完璧よ。
財務諸表だけでは企業価値は見えないわ。よくここまで調べたわね? 経営幹部と現場の社員のスキルと性質分析。実によく出来ている。
あなた、大分成長したんじゃない?」
「小早川部長の指導のおかげです。ありがとうございます」
「それじゃあまた、ご褒美をあげないとね? うふっ」
ポワゾンは銀縁のメガネを外し、眼鏡のつるの端をルージュを引いた唇に当て足を組み替え、微笑んで見せた。
「後で電話するわね?」
「わかりました。失礼します」
功介はすっかりポワゾンの忠犬になっていた。
ランチの立ち食い蕎麦屋で、親友の水沢から言われた。
「功介、お前、ポワゾンとやったな?」
功介の箸が止まった。
「水沢、どうしてそう思う?」
「お前は変わった。その眼つき、以前のトロンとした、死んだ魚のような目をしたお前の目じゃない。
誤解すんな、これはいい意味で言っているんだ。
凄いなポワゾンは? お前をそこまで変えてしまうんだから」
水沢は再び山菜蕎麦をたぐり始めた。
どんどん自分が変わっていく。それは功介本人も自覚していた。
「だけど気をつけろ。ポワゾンはもろ刃の剣だ。
お前が成長すればするほど、同時に失う物も増えていく」
水沢の言う通りだと思った。
現に美香への愛情が薄らいでしまっている。
ポワゾンの大人の女の魅力と、あの『毒』という名のあの香りから、功介は抜け出せなくなっていた。
ポワゾンにクタクタにされた功介は、ベッドでぐったりとしていた。
「どうしたの功介? もうおしまい? 情けない。そんなんで一流のビジネスマンにはなれないわよ。
出来る男はすべてにおいてパワフルでなければ、運は寄って来ないわ。
お金も女も追い駆けては駄目。引き寄せないと。
成功している人間はね? 重みがあるの。どっしりとした重厚感が。
よく「軽い男」とか「尻軽女」とか言うでしょう?
あれは本当のことよ。人間的にも、そして見た目にも軽いの。薄ぺラな人間。
ノートルダムの入り口のレリーフにはね、キリストが天秤を持って、魂の重さを測っているの。
魂が重い人間はミハエルと天国へ。そして魂が軽い人間はサタンに地獄へと引き摺り込まれる」
「どうしたら魂を重くすることが出来ますか?」
「それは徳を積むことよ。まずは声。
自信を持って大きな声で5m先の人に話すようにお腹から声を出すこと。
大きな声は魔物を祓うものよ」
「大きな声ですか? 意識してそうするようにします」
ポワゾンは功介のペニスに触れた。
「元気になったようね? もうこんなになっちゃって。かわいい」
濃密な最終ラウンドが開始された。
まるで母親のように功介の髪をやさしく撫でて微笑むポワゾン。
「麗華さん・・・、天国にいるような気持ちです、ボク・・・」
「大袈裟ね? 功介は」
ゆっくりとカラダを起こし、功介はポワゾンに訊ねた。
「麗華さん、ボクは麗華さんとお付き合いさせていただいて、自分が進化して行くのがわかります。
なのになぜ、北村課長はダメになってしまったんですか?」
するとポワゾンは功介を抱き寄せて言った。
「あの男はね? 自分を忘れたの」
「自分を忘れた?」
「そう、思い上がってしまったの。自分の浅はかな能力にね?
いいこと功介。人間の能力にはさほど差はないものよ。
それを本気でやるかやらないかだけ。
でもね? 出世するには運も大切。わかるわよね?
彼には運がなかった。ただそれだけのこと」
「運ですか?」
「そう、運はどうすれば手に入ると思う?」
「わかりません。本来、その人に最初から備わっている物でしょうか?」
「運はね? 周りの人が運んで来てくれる物よ。
運んでくるから「運」でしょう?
運命とは命を運ぶと書くじゃない? つまり周りの人を大切にするということ。
あの男は自分のちっぽけな能力を過信して、周りを威圧するようになった。
大したオチンチンでもないくせに。
だから功介、あなたは常に謙虚でいなさい。そして多くを語らないこと。
沈黙は金、わかった?」
「はい」
「思い上がりはダメ。自分の成功はみんなのおかげ、それを忘れないようにしなさい」
功介は頷き、ポワゾンの胸に顔を寄せた。
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